第47話:夏の終点・前
第47話:夏の終点・前
なんだか頭がボンヤリする……ゆっくり周りを見ると、自分の部屋に居るみたい。
窓の外は暗くて、夜なのかなーってうっすら思ったかもしれない。
隣に何か柔らかい物があったから、なんとなくギュッと抱きしめて瞼を閉じた。
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八月三十一日。
ぐっすり寝たからか、非常にスッキリとした目覚め。
体のダルさとかもないし、頭も痛くないし、快調そのものだ。
体を起こして大きく伸びをすると、背中と腰からパキパキと音がした。
ググーっと腕を伸ばして下ろすと、右手に柔らかい物が?
なんだろ? と思って右手を見ると、そこには優香の姿が……。
「ぅんっ……お姉兄ちゃんのエッチ……そんなにおっぱい触られたら……」
「ごごごごごめん……!」
「んっ……揉んじゃ……」
「あわわわわわ……!」
慌てて手を上げて目を回していると、優香が体を起こして顔を覗き込んできた。
「なっ……なっ……!」
「うん、元気そうだね!」
「う、うん…………そう……だね……」
「ふふふっ♪ お姉兄ちゃんなら、いくらでもわたしの体に触ってもいいんだからね♪」
「お姉……兄ちゃん……? いや……駄目でしょ……」
「最近自分のステータス見た? まだならちゃんと見た方がいいよ。 ふわぁ……顔洗ってこよーっと」
そう言って伸びをしてベッドを降りると、ウインクをして部屋を出ていった。
……あれ? なんで優香は僕のベッドに居たの?
もしかして一緒に寝てた? 僕何か抱いて寝てた気が……あれ? それって?
…………
……
しばらくボーッと天井を眺めていたら、お母さんとお父さんが部屋に来た。
夢だけど夢じゃなかった、そろそろ現実逃避はやめた方が良さそうだ。
「おはよう」
「正ちゃんおはよう。 体は大丈夫?」
「うん……大丈夫……」
「はあ、よかったわ。 まったく毎度毎度心配させないでちょうだい?」
「ごめん……なさい……」
「原因は相手にあったみたいだし、これ以上は何も言わないけど……あまり心配させないでね?」
「うん……」
僕から問題を起こしたわけじゃないのは分かってくれてるみたいで良かった。
それでも、危ない事をしちゃったのは事実だもんね、申し訳ないな……。
「お前が無事ならそれでいい。 よく友達を守ったな、偉いぞ」
「そうね、立派だわ♪」
「ありがとう……」
お母さんとお父さんが頭を撫でてくれる。
心配かけてごめんなさい、できるかぎり気をつけるね?
僕は思わずお母さんに抱きついていて、その温もりに目を細めて安心を感じていた。
…………
……
ひとしきり甘えた後、リビングに移動して昨日の話を聞いた。
なんだか凄い大事になってるみたいで、ちょっと怖い……。
ちなみに事情聴取とかは無しになった……らしい。
「防犯カメラと周りの人の証言だけで十分だってさ。 正ちゃんが神族だっていうのが分かったから、っていうのが本音だと思うけどね……」
「なんで……?」
「直接は言われなかったけど、言葉の端々に滲み出てたのよ。 触らぬ神に祟りなしって考えが」
「そうだな、俺も同じように感じていた。 良い気分ではなかった」
「そっか……」
「わたしはそう思わなかったけど、今思い出すとずっとビクビクしてたよね、あの女の人と男の人」
僕の家族は、僕を普通の人として接してくれる。
そうしようとしてるんじゃなくて、それが当たり前で普通なことだって顔をして。
だから僕自身も気にしてなかったし、ただの個性と思って生活してきた。
そこに否定的な、腫れ物を触るような人が現れて、家族皆が不快感を覚えたんだと思う。
世界にとって僕は、急に現れた危険な異物なのかもしれない。
でも正直、そんな事どうだって良い。
僕の周りの世界が平和で優しければ、周りがどう思おうと関係ないと思ってる。
その平和で優しい世界を害そうって人が目の前に出てきたら、僕は悪者にだって……。
「正ちゃんは今まで通りで良いんだからね? 好きな事をして、大事なモノをたくさん作って、それを守って……そういう当たり前の生活を送ってくれれば、それでいいんだから」
「お母さん……」
「俺たち家族が居る、一人じゃない。 それに、正優を思ってくれる友達も居るんだ。 誰かを守りたいと思う気持ちと同じくらい、周りも正優を守りたいと思ってるのを忘れるな」
「お父さん……」
「お姉兄ちゃんが悲しいとわたしたちも悲しいんだから、いつでも笑っててよね」
「うん……そうだね……」
本当に優しい家族で良かった。
心がポカポカ温かくなって、冷たい感情がスーって引いていくのが分かる。
これからも大事にしていかないといけないね。
「そうそうガラッと話変わるんだけど、仕事が入っちゃって優さんのご実家に帰れなかったじゃない? 九月十六日から三連休だから、代わりに二日だけ帰ることにしたからね」
「うむ、すまなかったな」
「そうなんだ、チーちゃんに会えるかな?」
「会えると……いいね……」
「正ちゃんは配信と被っちゃうけど、大丈夫そう?」
「ノートくんたちに……相談……してみる……」
「そう? 早めにお願いね♪」
「うん……」
和やかな何時もの空気に戻ったと思ったら、インターホンが鳴り響いた。
まだ九時なんだけど、来客予定なんてあったかな?
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「では花守くん、そういう事で頼みますよ」
「は、はい……」
「はあ……納得がいっていないようですね。 君自身と君の部下の報告にもありましたが、あまりに礼を失する対応をした自覚はありますか?」
「それは……はい」
「正直、この決定は相手が神族かどうかは関係ないんですよ。 種族の確認をするだけの任務であるにも関わらず、指示を仰がずに称号を勝手に調べ、感情をコントロールできず、考えを押し付けるような発言をした……常識的かつ理性的に行動できると思って任命したんだけどね」
「申し訳ありません……」
「恐らく、特にご家族は非常に不快な思いをしていると思います。 もちろんご友人もそうでしょうが……私個人は『触らぬ神に祟りなし』なんて思ってないんですよ。 よき隣人、よき友人として付き合っていきたいのが本音です。 ですが個人の感情だけで国を動かす事などできませんからね……」
「…………」
「君はまず隣人を知りなさい。 そしてゆっくり考える時間を作りなさい。 今は相手を知り理解しているなどと思ってはいけません、それは『無知の
「承知しました、貴重なアドバイスありがとうございます」
「うん、焦らずゆっくり頑張りなさい。 では後はよろしくお願いします」
「わかりました、花守総理。 ……失礼致します。」
花守夕実が総理の執務室を出ていくと、一人ため息を吐いた。
「孫娘だからと、甘やかしすぎですかねえ……」
「そんなことはないと思いますよ? まだ社会人一年生ですし、鞭で叩いて飴をあげただけにすぎないです。 与えられた飴を如何に噛まずに食べ切れるかじゃないですかね」
「ふむ」
「何も考えずガリガリ噛むならその程度の人間ですが、じっくり考えて長く舐め続けて意味を理解する事ができればあるいは……」
「痛いだけの鞭では駄目ですし、甘いだけの飴でも駄目ですからね。 きちんと味があって、途中から味が変わる飴が望ましい……この歳になっても加減が難しいものですよ、まったく」
「私はキチンとできてると思いますよ? コーヒー入れましたのでどうぞ」
「ありがとう。 ……ふう、今は気長に見守るしかありませんね」
「ですね、期待していましょう」
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「はーい、今開けますね」
ちさ子がパタパタと玄関に向かいドアを開けると、そこには花守夕実が立っていた。
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