第五章:炎上

第41話:女子会モドキ

 第41話:女子会モドキ


「優香……大丈夫……?」

「だいじょば……ない……うぅ……」

「薬……ほら……」

「あ……ありがと……」


 優香が左手でお腹を抑えながら薬とコップを受け取る。

 今日は友達とプールに行く予定だったみたいだけど、腹痛が酷いらしい。

 一気にたくさんアイス食べてたから、お腹冷やしちゃったのかな?


「ゆーかちゃーん」

「うぅ……せっかくネコちゃん来てるのに……」

「よしよーし」

「ありがとう……うぅ……」


 優香には悪いけど、自業自得なんだよね。

 アイスを一気に食べるのは体に悪いので、やめましょう。


「優香? 乙女ちゃん来たけど……何してるの?」

「お母……さん……ぐふっ」

「お邪魔しま……す? どうしたの?」

「アイス……食べ過ぎ……」

「あはは……そうなんだ。 ゼリー作ったから持ってきたよ」

「ありがとう……」


 なんだろう、妙に女の子率が高くなってきてる気が……。

 優香とお母さん、ネコちゃんに乙女ちゃんに、会話に入ってないけどみかりんさん。

 男一人はちょっと居心地悪いっていうか……。


「薬効いてきたかも……」

「あら良かったじゃない、アイスの食べ過ぎには気を付けるのよ?」

「メイドさん、ゼリーお願いしますね」

「かしこまりました」

「何味のゼリーなのー?」

「ちょっとだけ塩を加えたスイカゼリーだよ」

「たのしみかもー」

「お母さんサイダーある?」

「ラムネならあるけど、そっちじゃダメかしら?」

「ラムネのがいいじゃん! いただき!」

「またお腹壊すわよ?」

「……気を付けるもん」

「ぎゃはははーwww 怒られてるのウケるーwww」

「ネコちゃん笑うなー!」


 女三人寄れば姦しいとは言うけど、五人だと『喧しい』が正しいかも……。

 入る余地もないし、速さについて行けないよ。

 今もコロコロ話題が変わってるし、優香も完全復活したから尚更五月蝿くなってきた。


「なんかー、夏コミ? ってゆーのがあったみたいでー、これ見てこれー」

「なになに?」

「写真ですか?」

「ウチのクラスの腐女子ちゃんなんだけどー、普段こんな感じの子がー」


 スマホの画面に睦海さんの写真が映ってたのがスライドされる。


「お化粧したら大変身て来てさー、すげくね? マジびふぉーあふたーっしょ?」

「クール美人じゃん! すごい!」

「素晴らしいメイク術です」

「元々良い感じの子だけどー、もっと良くなってびっくりだよねーwww」

「良い感じ……?」

「ゆーかちゃんわかってないなー? そばかすいっぱいだけどー、目ー見てごらん? あと鼻筋とーっててきれーっしょー? いーところ見つけて認めるのがー、いーおんなってやつなんよー?」

「ネコちゃんかっけー……」

「良い考え方だね、私好きだな」

「ウチのクラスにほんとーの意味で顔面ブスな子なんかいないんよー、マジメにー。 性格ブスは一人だけいるけどー」


 また話が変わり始めて、ブスとは、メイク道具は、ブランドは、牛肉食べたいって。

 キャピキャピした空気感が嬉しいのか、お母さんもノリノリで混ざってるし。

 僕? 僕はソファに座って大人しくラムネ飲んでますよ?


「あ、お母様」

「はいはい?」

「前に貰った筑前煮が美味しくて、お母さんが作り方知りたいって」

「あら嬉しいこと言ってくれるじゃない、いいわよ、レシピ書いてあげる」

「え、あーしもほしー!」

「私もいただきたいです奥様!」

「わーお、我が家の筑前煮大人気だねお母さん!」

「本当にね、嬉しい♪」

「あーしはあれだしー? 正ちゃんのかてーの味的な? 知りたい的な? そんだけだしー?」

「私は純粋に気になりますので」

「いいわよー? レシピ持ってくるわねー」

「お母様、今まで作ったのは全部手書きでまとめてて、見るだけでも楽しいの」

「それは楽しみですね、是非他も拝見させていただきたいものです」


 また話題が転がるんだろうなーと思いながらテレビのスイッチを入れる。

 あ、声優の特番やってる。

 おおー人気ランキング、誰が一位なんだろう。


『男性声優人気ナンバーワンは、花江〇樹さんです!』

「おー……鬼滅〇刃の……」

「あ、花江くんだ! お兄ちゃんちょっとだけ音量上げて!」

「う、うん……」


 優香が反応したからか、お喋りに夢中だった人達もテレビに集中し始める。

 せっかくゆっくり見てたのに、ちょっとムーってなっちゃう……。


「そういえば、あの後正ちゃんのティックノック全部見たよ! 配信も毎回見てる!」

「え……あ、ありがとう……」

「声真似も歌も上手いし、びっくりしちゃった!」

「んー? きーたことなかったのー? 幼なじみでしょー?」

「聞いたことあるけど、あの頃はちょっと似てるかな? くらいだったから」

「へー」

「小学校五年生くらいから遊ぶ回数減っていったから、声真似はその頃までしか知らなかったの」

「お互い……なんとなく……距離置いた……感じ……だったかな……」

「そうだね、体の成長とか性教育とかあって、なんか自然とね。 今思うと距離置く必要なかったなーなんて」

「そうだね……」


 あの頃は距離を置きたいとかは思わなかったけど、本当に自然に、気付いたらって感じ。

 乙女は他の女の子とよく遊ぶようになって、僕は一人ぽつんとしてたかな。

 からかわれたりする事はあっても、普通に遊んでくれるのは乙女くらいだったから。


『女性声優人気ナンバーワンは、イヤーマフラーズのアキさんです!』

「おー……」

『アイドル声優として活動しているからですかね、老若男女幅広く票が入ってましたよ』

「素晴らしいですね、さすがアキ様です」

「みかりんちゃんも知ってるんだね! アイドルドリームに出てるし、歌も上手くてすごいんだよね!」

「そうですね、グループとしても個人としても、実力はかなりのものかと思います」

「……あー!」

「ビックリした!」

「ど、どう……したの……?」

「思い出したー!」


 ネコちゃんが慌ててスマホを取り出して、ワタワタと操作し始める。

 探してる何かが見つからないのか慌ててるけど、ようやく見つかって笑顔が咲いた。


「まだ話はこれからなんだけどー、イヤーマフラーズとコラボしまーす! って伝えてって言われてたの忘れてた的なー?」

「……え……?」

「まさか……」

「お兄ちゃん……」

「い、いつ……?」

「話し合いもこれからでー、たぶん九月か十月かなーって言ってたー」

「お、おおお! 良奴様グッジョブです! とても良い仕事をされました!」

「絶対のなめスタジオでやって! イヤマフを我が家に! そしてサインと握手とハグを! 是非!」

「あはははー、伝えとくねー」

「チ、チ、チ、チホちゃんに……あ、会える……!」

「あー、お兄ちゃんチホちゃんのファンだもんね? 貼ってないけどポスター持ってるくらいだし」

「正ちゃーん? あーし初耳なんだけどー?」

「ポスターに……サイン……握手も……してくれるかな……」

「って聞いてないしー!」

「嬉しさと動揺で聞こえてないね! うん!」

「ふしゃー!」

「なんだか私だけ蚊帳の外だなあ」


 ノートくんに聞かなきゃ。

 いつ? どこで? メンバー全員? どんな配信?

 あー今からドキドキする! あー! どうなっちゃうんだろう!



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 それからあまり日も経たない内にザックリと予定が決まる。

 しかし、このコラボ決定がきっかけで事件が起こるだなんて……。

 正優はおろか、関係者全員予想だにしていないのであった。

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