第四半章:夫々①

第38話:偶像声優の場合

 第38話:偶像声優の場合


 八月下旬の某日。


「はい、オッケーです。 本日の収録は終了となります、お疲れ様でした」

「「「「「「お疲れ様でした」」」」」」


 録音ブースを出て行く者、その場で雑談を始める者と様々。

 そんな中イヤーマフラーズの四人は帰り支度を始める。


「ノリケンくんお疲れ」

「志村さん、お疲れ様です」

「ノリケンくん蜥蜴人になったんでしょ? 大変だねぇ」

「そうなんすよ、脚まで変わっちゃったんで靴がまだ無くって」

「動物由来の種族は問題多くて大変そうだもんね」

「僕みたいなのはマシですよ、タオルで拭くだけで済みますし……まあアスファルトから熱を直に感じるのは辛いっすけど」

「爬虫類ってその辺大丈夫なんじゃないの?」

「いやいや! 気温にもよりますけど、六十度以上になる場合もあるんすよ! トカゲが砂漠で足をヒョイヒョイさせてる映像見たことありません?」

「あー見たことあるかも、ダンスしてるように見えるやつね」

「そうですそれです。 ちなみに靴は鋭意開発中らしいです、発売はどんだけ先になるんすかねー」


 そんな話を聞きながら支度を終わらせて、残っている人達に挨拶をして出ていく。

 疎らに返される挨拶を扉が遮って空間が分断される。


「今日も疲れたねー」

「まだ終わってないわよ? 新曲の収録があるんだから」

「スター・ランブルも来るのかしら?」

「そうね、スリープ・シープスとしての収録だから、久しぶりに八人揃うわよ」

「新EDのだっけ? 弾けられる曲だといいなー」

「わたしは~、ゆる~いのが~いいです~」

「あなたが一番グループ名を体現してるわよね……」

「少し時間あるから、軽く晩ご飯でも食べましょ? 私お腹ぺこぺこだわ」

「賛成!」

「行きます~」

「チーズバーガーが食べたいわ」


 ワイワイとスタジオを後にし、その後の歌の収録も恙無く終了するのだった。



 ----


「明日は完全オフだから、この後あたしの家に集まるのでいいんだよね?」

「そだね、飲もう!」

「じゃあ二人にも伝えといて? 私ビール買い足しに行ってくるから」

「わかった、裂けだすチーズよろしくね」

「はいはい」


 今日も大変疲れましたよっと。

 明日はレッスンも収録もイベントもない、完全オフの日。

 こういう日はみんなで集まってワイワイ飲むのが、ここ最近のお決まりね。


 よっぽど都合が悪くない限りは、あたしの家に集まることになってる。

 母子家庭でお母さんしか居ないから、滅多に都合悪くなることってないんだけどね。

 銀缶のドライなビールの六缶パックは四つあればいいかな? あとはおつまみをっと……。


 …………

 ……


「お疲れ様ー、かんぱーい」

「「「かんぱーい」」」

「んぐっんぐっ……ぷあああ! この瞬間のために頑張ってきたあああ!」

「アキちゃんかわいいわ! ほら、こっちのも飲んでいいわよ!」

「カコ……間接キスしたいんだろうけど、露骨過ぎて引くわ」

「あははは~おいし~♪」

「はあー、裂けだすチーズ開けていい?」

「いいけど、ちゃんとお皿に開けてよ? ほっとくと散らばってるんだから、毎回」

「はーい、しょっと! みんなもつまんでねー」

「こっちにカシューナッツとカルパスと柿ピー開けたから」

「イカフライ買ったので~、どうぞ~♪」

「そういえば燻製うずらの卵と揚げギンナン買ったんだったわ、勝手に食べてね」

「わーい豪華だ! パーリナイだ!」

「ほらほら、チーズが裂けてきたわよ」

「その裂けだすチーズって昔からあるけどなんなのかしらね? 袋から出すと勝手に裂けだすし、ちょっと怖いんだけど」

「えー? 裂けチーは裂けチーでしょ?」

「そうね、そうだったわね!」

「ちょろ~♪」

「ちょろすぎ」


 楽しい楽しい宅飲み会の開幕。

 本当は飲み屋の方が準備もなくて楽なんだけど、聞かれたら困ることあるからね。

 公式から出てない話とかも当然あるし、気にしながらだと楽しく飲めないからね。


「そういえば、『アイドルドリーム!』って一年だけだっけ?」

「んー、一応三年以上を目標にしてるとは聞いてるけど、実際どうなるのかしらね」

「わからないね~?」

「二クール目に入ったばかりだし、一年で終わるか続くかもこれからなんじゃないかしら」

「ゲームセンターのゲームは人気なんでしょ?」

「え? ゲームの人気とアニメ継続って関係あるの?」

「さすがにそれはわからないわね。 続いてくれたらイベント増えるし、ライブもツアーやったりするでしょ? そうなってくれたら嬉しいわ……んぐっんぐっ……はあー」

「カコちゃ~ん、ギンナン取って~?」

「あーはいはい」


 私たちイヤーマフラーズと、別のアイドル声優ユニット『スター・ランブル』。

 合わせて八人がメインキャラをつとめる女児向けアニメ『アイドルドリーム!』。

 昔やっていたアイ〇ツシリーズの流れを汲む新シリーズが前期から始まった。


 昔のは声役と歌役が違ったけど、今回からは同じになった。

 その分仕事も増えたし収入も増えたけど、地方に行ったりはやっぱり大変かな。

 あたしの場合は子供の嬉しそうな顔が見れてるからなんとか頑張れてる感じかな。


「そうそう聞いてよ! のなめちゃんがアイドリ好きって配信で言っててさ!」

「のなめちゃんって誰? 浮気?」

「カコ毎回居ないから知らないのね……声真似系ノッカーで、今話題沸騰中なのよ」

「そう! のなめちゃん可愛くて凄いんだよ! コラボしたいなあ!」

「したいですね~♪」

「アーカイブあるから、今から見る? PCなら見やすいでしょ」

「見る!」

「見ます~♪」

「どんな泥棒猫か見てやろうじゃない」

「はいはい、ちょっと待ってね」


 モニターを見やすい場所に動かして電源を入れる。

 ブックマークからのなめのページを開いて、さっそくアーカイブから再生。

 やっぱりスマホより大きい画面よね、のなめさんの可愛いお顔がよく見えるわ!


 …………

 ……


「可愛いじゃない! なにこの子!」

「アキとどっちが可愛い?」

「えっ! それは……ど、どっちも? 同じくらい……」

「即落ちじゃない」

「のなめちゃん可愛いでしょ! いいよねー」

「可愛いです~♪」

「あ、カコ、一味取って」

「え? うん、はい」

「燻製うずらの卵には一味だよね」

「リノちゃんそれ好きだよね!」


 アキラブなカコが、即落ち二コマ漫画並の速さで落ちた。

 実際可愛いし、アキも気に入ってるから尚更なのかな?

 好きな人が好きな物は好きになっちゃう的な。


「そうだアキ」

「なに? リノちゃん」

「十月くらいに決まったから」

「え? 何が?」

「何って、決まってるじゃないの」

「だから何? 何が決まったの?」

「のなめさんとのコラボ配信」

「……え?」

「だから、のなめさんとのコラボ配信だってば」

「……ええええぇぇぇぇ!」

「うるさっ!」

「よかったですね~♪」

「この子とコラボするの? 本当に?」

「そう、社長からも許可貰ったし、のなめサポーターズからも正式に返事が来たみたい。 ただ短いスパンでコラボ配信はアレだから、少し間空けて十月くらい」

「やったー! うふふふ、楽しみが増えちゃったなー!」

「はいアキちゃん、お祝いのかんぱーい」

「かんぱーい! あははは!」

「かんぱ~い♪」

「あたし達のスケジュールの兼ね合いもあるから、日程はこれから調整だし、配信場所だってまだ決まってないからね?」

「え? のなめスタジオじゃないの? やるならそこ以外ないじゃん!」

「あのね、のなめさんの実家とは言え男の子の部屋なのよ?」

「何がダメなの? よくない?」

「アキちゃん、男の子は狼なのよ?」

「サポーターの人達居るし、私一人で行くわけじゃないし、のなめちゃんそういうタイプの子じゃないでしょ?」

「アイドル声優の自覚を持ちなさいって話よ!」

「ええー」

「ええ~」

「まったく……まあ話し合いはこれからだから、どうなるかは逐一共有するからね」

「はーい! やったー! んぐっ! んぐっ! ぷはあああ!」

「ぷっはあ~♪」

「はあ……どうなることやら……」


 楽しみなんだけど、暴走されたらと思うと怖くもある。

 大人しくできるとも思えないから、マネとちゃんと話し合わないと……。

 ほんと、どうなるんだか……。

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