閑話:1000%片想い

 閑話:1000%片想い


「男の子なのに女の子みたいなんて許せませんわ!」


 私の名前は小城早舞夜おじょう さまよ、大企業小城グループの一人娘ですの。

 お父様はお金持ちでハンサムですし、お母様もとても美人で優しいんですの。

 当然私も容姿に恵まれてますし、成績優秀、スポーツ万能、非の打ち所などありませんわ。


 でも、こんな私にも憎い人がおりますの。

 男の子でありながら私に匹敵するほど可愛らしく、まるで小鳥の囀りのような愛らしい声。

 しかも内気で大人しく庇護欲を誘われる性格だなんて、憎くて憎くて……!


 まさか、まさかそんな超美男の娘びおとこのこが同じクラスだなんて!

 人気総取り、注目の的、クラスのアイドルになること間違いなし!

 許せます? 許せませんよね!

 私から視線を奪おうなどと万死に値しますわ!


「それでスッピンだとか女の子の敵だと分からないのかしら! ええ、敵ですわ!」


 少し前まで小学生だったとは言え、私たちは立派なレディーですの。

 お洒落やメイクだってしますし、男の子の視線も気にしますわ。

 女の子ですもの、好きな男の子に良く見られたいと思うものでしょう?


 それがどうですか! 一切の化粧をせずに! あの! 見た目だなんて!

 私だけじゃないですわ、恋する乙女が不憫でならないと思わなくて?

 せめてリップの一つでもして登校しなさいな! それならメイクをしていると認めるわ!

 だってメイクしてるならしょうがないじゃない! 努力故の可愛さなのだから!

 なんならこの私のリップを貸してあげてもよろしくてよ!


「何故そんなに体力がないのかしら、可愛いアピールですの?」


 走ればすぐバテますし、水泳も見学ばかり。

 汗を拭う姿を見逃す男の子など居るわけがないでしょう?

 私たちを見てほしいのよ女の子たちは! せめて私たちと走りなさいよ!

 そしたら並走くらいしてあげなくもなくもないんだから!


 それになによ! 水を飲む姿まで可愛らしいだなんて、もはや暴力よ!

 使った蛇口を避ける男の子を見る度に憎くさが増していきますわ!

 毎回私が使って他のクラスメイトが使いやすくしているのを知らないのかしら!


「給食はモリモリ食べますのね? そこだけ男の子らしいだなんて笑ってしまいますわ!」


 一口が小さくて食べるのが遅いとか、女の子のそれじゃありませんの。

 そのくせ食べる量は他の男の子より多いだなんて、ワンパクがすぎると思いませんこと?

 いっぱい食べる君が好き的なアピールでしたらちゃんちゃら可愛いですわ!


 しかも牛乳を飲む姿がちょっと色っぽいとかなんなんですの!

 周りの目を気にしたことありますの? 自覚ありますの?

 好きな食べ物が鶏もも肉の唐揚げと合い挽きハンバーグだなんて狙ってますわよね!

 同じ食べ物が好きな人寄っておいでとかそんな魂胆なのかしら!


 調理実習で料理できますアピールしちゃって、恥ずかしくないのかしら?

 あまりにも露骨だったから、私のと交換してやりましたわ。

 ふん、まあまあじゃないかしら? 不味くはないわね、不味くは。


「先生に指されても答えられないだなんて、どれだけおバカさんなのかしら?」


 立つのも遅いですし、プルプル震えて喋る事ができない。

 なんなんですの? 弱々しすぎませんこと? 産まれたての子鹿ですの?

 毎回毎回、代わりに答える私の身にもなってほしいものですわ!


 教科書の音読なんて悲惨なものですわ。

 これは指す先生にも問題はありますが、視線でアピールだなんて気付きませんわよ?

 ぽそぽそとか細い可愛らしい小鳥のような囀りでは誰にも聞こえませんわよ!

 内気度合いもここまで来ると笑うしかありませんわね!


「何も無い所で転ぶだなんて、ドジっ娘アピールがすぎるのではなくて?」


 毎回同じ場所で転ぶだなんて、もはや笑えもしませんわ? 無様で可哀想ですこと。

 足腰が弱いのではなくて? だから足が遅いというのも気付いてないのかしら?

 毎日の散歩だけでも違いますのに、怠慢だと思わないのかしら。

 河川敷があるのですから活用くらいしなさいな、私なんて毎日犬の散歩をしてますのよ!


 ほらまた躓いた! 男の子たちの視線を集めて憎らしいですわ!

 ズボンで良かったですわね! スカートでしたら学級委員会で男の子全員ギルティですわ!

 お父様の財力で校内に手すりを付けたら、その無様な姿を晒さずに済むのではなくて?


「チョコ0個ですって! ざまあないですわ! おほほほ!」


 あなたにチョコを渡す女の子が居ると思っていますの?

 そのような夢物語あるわけないではありませんの!

 よほど自分自身がどう思われているか身に染みていないようですわね!


 男の子たちのソワソワに紛れて我関せずですの?

 おほほほ! 不憫でなりませんわ! 今すぐ希望は捨てることですわね!

 協定がある以上、あなたの手に渡ることなどありえないのですから!


「またあなたと同じクラスですの? 神様も酷い仕打ちをしますのね!」


 三年連続同じクラスだなんて何の因果なのでしょう。

 運命だと思って受け入れるしかないのではなくて?

 ここまで来れば、女の子たちの気持ちも嫌でも骨身に染みることでしょう。


 それにしても憎らしい! また憎々しく思う一年になりますのね!

 まあ私の目が黒い内は自由など許すはずもないのですけれど。

 見張られながら辛く苦しい思いをすることですわ!


「修学旅行中、精々気を付けることですわね!」


 私は別の班ですし、目が届かないのは残念ですわ。

 でも気を抜かないことね! 当然私の協力者が紛れておりますから。

 後でしっかり報告を聞いて、最悪制裁を加えねばなりませんわね。


 まあ何事も無かったようですし、不本意ながら特別に良しとしましょう。

 私が一緒でしたら、そもそも万が一も起こさせなかったですがね!

 ふんっ! 命拾いいたしましたわね!


 しかしまあ、男の子たちからとても素晴らしい有益な情報を得られましたわ。

 これは早速利用しなければ宝の持ち腐れというもの。

 もちろん、帰宅した日から十全にしっかりと有効活用させていただきましたわ!


 …………

 ……


「私、お父様が言う高校には行きませんわ」

「何か理由があるのかね」

「成さねばならないことがありますので、私が希望する学校を受験しますわ」

「その学校でないと叶えられないと?」

「そうですわ。 絶対にです」

「ふむ……良かろう。 ただし条件がある」

「条件ですの?」

「小城グループの者として、成績を落とすようなことがあれば……わかっているね?」

「承知しております、ありがとう存じますわ!」

「ならばよい、受験勉強頑張りなさい」

「はいですわ!」


 受験も無事終わり、難なく志望校に合格しましたわ。

 第二志望はなし、一発合格ですわ!

 これで安心して目的を果たせますわね!

 なのに……


「クラスが別々ですわ!」


 クラス分け、何かの間違いではなくて!


「入学式に来てませんわ!」


 どこにも見当たらないのは何故ですの!


「登校してきませんわ!」


 入学式から一ヶ月経つのに、何故来ていませんの!


「どういうことですの! 私の愛しい正優様あああああ!」



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 正優様ラブ同盟を組み、一部の女子と協定を結ぶ。

 正優に目を奪われる男子を威嚇し遠ざける。

 正優をイジメようとする生徒に目を光らせる。


 やれる事は全てやってきたつもりだが、陰でコソコソする者は必ず居る。

 陰口、目立たない陰湿なイタズラ・イジメ、無視、その他諸々。

 中には存在を面白く思わず、純粋な悪心から堂々と口悪い事を言う者も居た。

 そのような行為に精神をやられてしまった為、完全には防ぎきれていなかったのだろう。


 しかし早舞夜は気付いていない。

 自尊心が高いが故か、そのように教育されたが故か、理由は定かではない。

 だが確実に、口が悪くなってしまう性格が正優の精神を蝕んでしまった事に。


 ある意味自業自得とも言えるが、無事穏便に再会を果たすことが叶うのだろうか。

 それはまだ、この時の早舞夜にも正優にも分からない。

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