第三章:融解

第24話:夏の入口

 第24話:夏の入口


 初配信から二週間とちょっと、今日は八月一日。

 あの後は投稿七回と配信二回をして、フォロワーさんも増えてて沢山見てもらえてる。

 ノートくんとみかりんさんの提案で収益化(ギフト)申請もして、昨日無事に実装された。

 実際にギフトが使えるのは次の日曜日になるのかな、楽しみ。


「お兄ちゃん、毎日家に居るけど出掛けたりしないの?」

「うっ……」

「もしかして……予定ないの?」

「うぅ……まだ……ない……」

「ふーん、自分から誘ってみるのもいいんじゃない? せっかくの夏休みなんだし」

「うん……そうだね……」


 どこかに誘いたい気持ちはあるけど、色々考えちゃうんだよ……。

 ノートくんとみかりんさんはお店があるから、ちょっと誘いづらい。

 ネコちゃんは中学時代のとか他の友達と遊ぶだろうし、ちょっと誘いづらい。

 他のクラスメイトは喋るようにはなったけど、連絡先交換してないから誘う手段がない。


 みんな優しいから、声をかけたら色々考えてくれるとは思うんだよ?

 でも、その一歩を踏み出す勇気っていうか、あるでしょそういうの?

 心の準備っていうか、断られたらどうしようとか、考えちゃうじゃない?

 なんて頭の中で言い訳を並べるけど、そんな自分が情けなくて泣きたくなってきた……。


「お兄ちゃんのことだからネガティブなこと考えてるんだろうけどさ、もうちょっと肩の力抜いたほうがいいよ?」

「……そうだね……うん……」


 小学生の優香の方が僕より大人な考えができて羨ましい、自慢のできた妹だよ。

 まずは行動しないとだね、何もしなきゃ結果は得られないんだし。

 とりあえず三人に、夏休みだし何かしませんか? って送って反応を待つことにしよう。

 自分から行動する勇気をもっと持てるように頑張らなきゃ。



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 私のご主人様からLIMEが来た。

 休みが日曜日だけってわけじゃないけど、学生の夏休み並に自由にとはいかない。

 けど、ご主人様から誘われたなら何かやってみたくなるじゃない?


「お疲れ様~」

「お疲れ様、ゆりっぺ」

「仕事以外でも丁寧な喋りにしたの? 流石に疲れない?」

「そんなことありませんよ? 私のご主人様の前でボロを出したくないだけですから」

「あー天使様のことか、プライベートで絡むようになったとかホント羨ましいわ」

「職業メイド、趣味メイドの役得というものです」

「あはは、あたしには無理なやつだわ、メイドはココだけで十分でーす」


 面接採用が一日差のほぼ同期で、一応私が先ってことになってる。

 しかもオープニングスタッフだから、どのキャストよりも長く一緒に居る。

 気兼ねなく軽口が叩けるし、飲みに行けば愚痴大会になるのが当たり前な間柄。


 あの日、メイド魂がくすぐられて話に割って入ってしまった。

 結果的に継続的な関わりを持てるようになったから良かったけど、流石に怒られた。

 お店的にお客さんのプライベートに干渉するのもだし、一人を特別扱いするのもだ。

 頑として譲らなかったし、ゴリゴリに説き伏せたから大丈夫になったけど。


「そんで? 天使様となにかするんでしょ? 何するの?」

「他の方も一緒だと思うので、学生らしい無難なところに落ち着くとは思いますよ。 カラオケとかショッピングとかプールとか」

「どれになっても羨ましいのは変わらないわねー。 天使様とプール……捗るわね」

「ええ、本当に」


 お父さん、お母さん、今年の夏は楽しくなりそうです。



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 みんなから返事が来た。

 思い思いに何がしたいか送られてきて、あーでもないこーでもない。

 やっぱり日付とやれる事の擦り合わせが大変みたいで、なかなか決まりそうにない。


 それでもやりたい事リストみたいなのはできあがってた。

 花火、お祭り、プール、海、山、バーベキュー、水族館、勉強会。

 勉強会はネコちゃんがすっごく推してて、みかりんさんに呆れられてた。

 全部できるかは分からないけど、お祭りだけは絶対に大プッシュしていきたいかな。


 そんな風にわちゃわちゃLIMEしてたら、二つの情報が飛び込んできた。

 一つが地元の商店街でやる夏祭り、途中にある公園が会場みたい。

 もう一つが秋葉原の歩行者天国でやるストリートダンスバトル大会。

 さすがに参加とかじゃなくて、観戦と出店や露店を冷やかしにどうかって。


 日付的には地元の夏祭りの方が早いから、その日を軸に予定決め。

 日曜日の配信もあるから、兼ね合いを見つつ無理ない程度に。

 ちょっとずつ予定が埋まっていくのが凄く嬉しい。

 本当は夏休み前にやることなんだろうけど……遅くない遅くない。



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「ミカー、浴衣買い行こー」

「いいね~」

「夏祭りとかー、花火とかー、イベントこれからだしねー」

「あたしも買っとこ~。 正っち悩殺浴衣選ばないと~? ミニスカ浴衣的な~?」

「乳であーしに勝てない時点でのーさつとか無理ゲーじゃね?」

「あ? ケンカ売ってる系~?」

「正ちゃんゆーわくしよーってのは、あーしにケンカ売ってるってゆわないわけー?」

「まだみんなの正っちだし~? あたしの勝手じゃね~? それとも……付き合い始めたとか~?」

「…………違うけど」

「ならよくね? 独占束縛女とか嫌われるからやめたがい~よ、実際ウザイし」

「……チッ」


 マヂムカつく……あーしの気持ち知ってるくせに!

 とかケンカしてるくせに、そのままの流れで買い物行くってゆーね。

 ほぼ毎日一緒に居るからケンカがじゃれあいにしかならない的なね?

 悪いことぢゃないからいーんだけどさ。


 なんだかんだショッピングモールにダラダラ居座って、浴衣と水着まで買ったー。

 フドコで肉マシマシ肉うどん+肉マシマシトッピング食べてー、ゲーセンでプリ撮ってー。

 良さげなサンダル見かけたら履いてみてー、マグロナルドでダベってーみたいなー?


 準備しつつ遊びつつでー、けっきょくいつもと同じ感じみたいな?

 めっちゃ食べたのに、帰りに肉巻きおにぎり二つも買ってたのはマジ笑った。

 正ちゃんだけじゃなくてー、みんなともこんな感じで思い出作りたいなーて思た。



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 クッキーくん達と夏祭りに行くことになった。

 それ自体はめちゃくちゃ嬉しいんだけど、出店の手伝いどうしよう……。

 すっかり忘れてて、普通に大丈夫! とか返しちゃった。


「母ちゃん、夏祭りの日なんだけどさ……」

「チキンステーキ用の鶏肉買えたの? 沢山用意しないと、すぐ出店畳むことになるからね?」

「それは大丈夫、去年より増やしといたから……じゃなくてさ、夕方から抜けてもいいかな」

「あら、正優くんと遊ぶ約束でもしたの?」

「うん、今日その話が出てさ、遊びたいなって……」

「構わないわよ、それまでしっかり手伝いさえしてくれれば」

「……っ! ちゃんとやる、ありがとう!」

「はいはい、塩胡椒の在庫確認もしといてね? 途中買いに出るの難しいと思うから」

「わかった!」


 良かった、バイトの人達の手伝いが無い上に、チキンステーキは妙に売れるから。

 毎年人手足りなくてバタバタしてたし、ダメって言われるかと思ってた。

 クッキーくんをションボリさせずに済んで本当に良かった。


 他にも予定立てられたし、楽しみが一気に増えたのはすごく嬉しかった。

 あんまり外に出たくないタイプだと思ってたから、ちょっと誘い辛かったんだよね。

 でもクッキーくんから声かけてくれて、みんなも協力的で助かった。


 楽しいことでいっぱいな夏休みにしてあげたい。

 そうすれば、周りも自然と幸せな気持ちになれると思うから。

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