第23話:広がる波と聖風

 第23話:広がる波と聖風


 --正優の初配信直後、様々な方面がザワつく。

 --それは波が波を呼び徐々に大きくなろうとしていた。



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「アキちゃん?」

「あーごめん、ちょっと放心しちゃってた……」

「まあ、あんなの見ちゃったらねぇ」

「うん……凄い……」

「うんうん、分かる分かる」

「凄い……可愛かった」

「うん?」

「もー全部が可愛かった! 抱きしめたい! なでなでしたいー!」

「アキちゃん……いや可愛かったけどさ……」

「ウチらの事務所に入ってくれないかなー。 一緒にアイドル声優ユニットやりたい!」

「新メンバー加入ってこと? 悪くないわね」

「性格的に無理かもだけどね……せめて一緒に仕事してみたいなぁ」

「まだ業界に入るかも分からないし、できてコラボ配信とかじゃない? 私たちはUTVでの配信しかやってないけど」

「はぁ~……切ない……」


 大人気アイドル声優ユニット『イヤーマフラーズ』のアキとリノ。

 マネージャーにかけあってコラボできないか話し合いを始めることに。

 声優事務所『SHP』的にも悪くない話なため、前向きに検討がされるのだった。



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「よっ王子」

「みっちゃん、どうしました?」

「見てたんだろ? のなめの配信」

「当然見ましたよ、コメントもしちゃいました」

「外見も性格も予想外だったな、神様は三物も四物も与えすぎだろ」

「相応に苦労もしてきたみたいですけどね。 若い子たちは簡単に心無い言葉をかけられますから……」

「まあな……。 なあ、来ると思うか?」

「どうでしょうね? 並んで仕事ができたら楽しそうですけど、趣味と仕事は別物ですから」

「社長は興味津々だった。 もしかしたらスカウトに動くかもな」

「あまり心を乱すことはしないであげてほしいですが、もし叶ったらとは思いますよ」

「だな、それは俺も同じだ。 はてさて、どうなることやら……楽しみだ」

「えぇ……」


 光彦と若王子が所属する事務所『松竹バイオレット』。

 モデルやタレント、歌手、声優と幅広く手がける社長が動くのかどうか。

 二人以外の所属声優たちも、その動向に注目することになる。



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「松下! お前スカウトに行ってこい!」

「え! 俺ですか!」

「お前全然スカウト成功してないだろ! のなめを引き込めたら、良い実績になると思わないか!」

「そりゃ思いますけど……住んでる地域も分からないのに、無理ですよ!」

「バッカ野郎! 探り入れて情報引き出すとか、やりようはあるだろうが! このままだとマジでクビになるんだからな!」

「それは困りますよ!」

「ならとにかくやってみろ! どうにも難しいなら声かけろ、サポートぐらいはしてやる!」

「わ、わかりましたよぉ……」

「結果出せるようにとにかく頑張れ!」

「はい……」


 グラビアアイドル事務所『フライアゲハ』のスカウト部門。

 のなめのビジュアルに目をつけて引き込む手段を手探ることになる。

 しかし本人が望むはずもない業界、どう転がるのか松下には想像できるべくもない。



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「お嬢様、紅茶をご用意致しました」

「美沙理……ありがとう」

「いかがなさいましたか? 何やら楽しげに見えますが」

「あら、そうかしら」

「はい、今も口元が笑ってらっしゃいます」

「ふふっ、勧められた配信を見ていたのよ。 声を真似るのが得意な男の子のね。 投稿された動画に歌っているのもあったのだけど……」

「お上手ではなかったのですか?」

「とても上手かったわ、間違いなく私以上に」

「まさか、歌姫と称される浜崎奈美恵様を超えるなどそんな……」

「あくまで私の感想よ、美沙理が聞いたらどう思うかはまた別。 ただね、声を真似て歌っていたから、地声での歌がどの程度かは分からないわ。 もし音楽業界に来るのなら他者の声で歌うなんてことは許されない。 だから面白い『原石』を見つけた、と思っていたのよ」

「左様でございましたか」

「いつか会えればと思ってるけど、今はまだ静観かしらね」


 音楽業界は全体的に動きが鈍かった。

 理由は浜崎奈美恵が言った通りであり、まだ判断材料が少なく博打がすぎるからである。

 しかし注目している者は少数ながらおり、今は静かに見守る形をとっているのであった。



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 ものまね・声真似界隈はお祭り騒ぎになっていた。

 プイッタでは『超新星現る』と賑わいを見せ、更に拡散されていく。

 UTVで話題に出す声真似師も出始めているが、快く思わない者もまた居るものだ。


「ちっ……みんな騙されてるだけなんだ、音源使った偽声真似師が! 俺様の世界に土足で入り込んできやがって……バカ面できるのも今のうちだ、絶対に後悔させてやる!」


 彼は界隈で中の下の下と評価されている『まねマネ真似コピー』。

 自己評価が非常に高く、自分が認める声真似師以外は全てゴミだと思っている。

 その為、掲示板などで高評価されている、話題の中心に居るゴミたちを許せないのだ。


「必ず潰してやる……俺様の力なら掲示板の評価なんかいくらでも操作できる! 信者だって沢山居るんだ、あんな奴ゾウに踏み潰されるアリに等しいぜ! あははははははは!!」


 界隈でどう見られているかを知ろうとせず、目に入っても無意識に記憶に留めない。

 信者と呼ばれる者たちも大半が炎上を楽しんでいるだけで、真の信者は両手で事足りる。

 だからこそ危険とも言え、何をしでかすか分からない爆弾でもある。


 肝心の界隈の動きはというと、完全に受け身の体勢をとっている。

 声真似を仕事にする難しさを知るからこそ、自分の足で踏み込むならと考えているのだ。

 配信を見ていた者は性格を知ったことで、尚のことその考えは強くなっている。

 来るなら来い、趣味に留めるなら優しく見守ろう、そんなスタンスだ。



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 冒険者界隈ではまた別の動きが起こっている。

 のなめの歌声にバフ効果があるのではないか、その検証の規模が大きくなっていたのだ。

 危険地帯での検証になる為、個人では無駄な被害が出るのではと危惧されたためである。


 その結果、一定の効果が確認できている、確かにバフ効果があると。

 しかし相手は一般人な上に未成年、引き込むことはおろか声をかけることもできない。

 検証で使用はしたが、本来勝手に音声を使うのも著作権の問題が残る。

 せめて音声の使用許可を取れないかと、日本冒険者協会で議論されていたりする。



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 様々な業界・界隈を賑わせる結果となったライブ配信。

 しかしまだ正優の耳には届いておらず、安穏と生活を送っている。

 このことが生活にどのような影響を与えるのか、それは神にさえ分からない。

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