第22話:初配信②

 第22話:初配信②


「さて、リクエストは一旦止めて最初にやる予定だった雑談やるか!」

「そだねー。 説明しなきゃなこともあるしー」


 E奴とネココがそう言うと、メイドが動き出す。

 カチャカチャと音が鳴り、ティーカップとケーキが机に並べられる。


「まず配信が日曜の十五時からなのは、視聴者さんとオヤツを食べながらまったり始めたかったからだな!」

「僕が……時間の共有……したかったから……」

「そうだな、喋って食べて声真似して、そんなゆっくりした時間を過ごしたいってな」

「いいよねー。 みんなも何か食べながらー、笑ったりー和んだりー、そんな感じになってくれたら嬉しーみたいなー?」

「うん……お茶会みたいな……イメージで……」


 :だからメイドさんか

 :お茶会にはメイドだよな

 :雰囲気作り大事

 :テーマがあるのいいな

 :ポテチ取ってこよ


「メイドさんはー、食器のてーきょーしてくれてまーす」

「私が厳選した食器を持参してます。 何種類かありますので、毎回そこにも注目してくださいね」

「今回は……黒猫さん……」

「はい、シッポが持ち手になっているところに一目惚れしました」


 :かわいー

 :普通に欲しいやーつ

 :こういう拘りいいな


「ちなみに、ケーキはご主人様のお母様お手製です」

「こういうのを出せるのは、この配信場所がのなめの自宅だからだな」

「うん……僕の部屋から……配信してます……」


 カメラがゆっくりと回転をはじめ、周囲をぐるりと映し出す。

 モニターやマイク、PCなどが映され、最後に重厚な扉が映って元の位置に。


 :なんだスタジオか

 :これ自宅とかヤバいな

 :金持ちだ!

 :最初のカーテンの向こうって何があるんだ?


「カーテンは……僕のベッドとか……本棚とか……」

「寝室兼防音室で、完全防音されたのなめスタジオだな」

「とーこーされてるやつはー、全部ここで作られてるんだよー」


 :寝室が防音とかヤバ

 :騒音気にしないで寝れるとか裏山

 :のなめスタジオ行ってみてぇ

 :個人所有のスタジオだったのか

 :夢しかないやん


「初めて来た時感動したよ、握手お願いしちゃったしな!」

「あれは……恥ずかしかった……けど……嬉しかった……」

「E奴だけずるいし! あーしも後で握手してもらおー」

「私も後で是非」

「う、うん……」


 :圧がwww

 :細い手潰さないようになwww

 :強制ですねわかります


「えっと……次は……僕たちのこと……かな……」

「名乗っただけだからな、簡単に自己紹介といくか」

「まずは……E奴から……」

「俺はE奴、のなめとはリアルの友達で、たまに投稿の相談受けたりしてる! 実家が飲食店だから、たまにデザート持ってくるかもな!」


 :おーリア友なのか

 :なんか面倒見良さそう

 :絶対弟居るタイプだよな、兄貴と雰囲気似てる

 :モテそう


「いやいやモテないから!」

「んじゃ、あーしはネココ。 あーしもリア友でギャルやってまーす。 アニメはまだ全然詳しくないけどー、ちょっとずつべんきょーちゅーでーす」


 :ギャル!

 :不思議な組み合わせだな

 :謎の安心感はいったいなんなんだ

 :オタクに優しいギャル感

 :俺にも優しくしちくりー


「あははwww ちょーしのんなしwww」


 :ありがとうございます!

 :ありがとうございます!


「次ですね、私はメイドです。 本職でもあり趣味でもあります。 ご主人様方とは本職のメイドの最中に知り合いました。 友人……でよろしいのですかね?」

「僕は……友達だと……思ってるよ……」

「ありがとうございます、感激の極みです」


 :本職メイドって屋敷勤めとか?

 :趣味もメイドって常にメイドなんじゃん

 :ヴィクトリアンメイドふつくしい

 :おかえりなさいませって言われてー


「ふふふ、私は公私共にメイドですから」

「最後は僕……のなめです……。 これでも……男です……」


 :え?

 :え?

 :え?

 :え?


「本当だぞー? 俺は着替えとか見てるから、ばっちり保証するぜ」

「プールのじゅぎょーで海パン履いてたしねー」


 :ええええええええええええええええ!

 :うっそだろ! マジか!

 :うぇぇぇええええ!

 :ロリショタ美少女系男子で両生類で歌上手いとか属性盛りすぎだろ!

 :うわああああ! リアルチーターや!


「その……この外見だから……よくない言葉とか……無視とか……いっぱいされて……だから…………」

「だから、こういう性格になっちまったんだ。 でも声真似が好きで投稿始めて、好き同士で繋がれたらって思ってるんだってさ!」

「ありがとう……。 その……仲良く……してくれると……嬉しい……です……」


 :そっか、辛い思いしてきたんだな……

 :イジメは……辛いよな……

 :もちろんだよ! あたしの声真似もしてね!

 :俺の声は真似しやすいだろうから、是非やってくれ! 大歓迎だ!

 :僕はもうやってもらったからね、あとは仲良くなるだけだね!

 :こちらからお願いしたい、是非仲良くしてほしい

 :すげぇ……有名声優が次々と……

 :声優界のお茶会じゃねえか……

 :声優じゃないけど、仲間に入れてくれ!

 :これからも見るよ! 楽しみにしてる!


「よかったな、のなめ」

「うん……ぐすっ……うん……」

「よーしよし、よかったねー」

「ご主人様……素晴らしいお茶会になりましたね」

「ありがとう……ありがとう……ぐすっ……」


 :てえてぇ……

 :よかったなぁ……

 :俺も泣けてきた……

 :こういうの弱いんだよ……


「もう大丈夫か?」

「うん……ごめんね……」

「だーいじょぶ、だーいじょぶ♪」

「今回はここまでにするか」

「いい時間だし……そうだね……」

「次からは、雑談してからリクエストコーナーの流れで、ギモーブに質問が来てれば回答って感じになるので、是非飲み物とオヤツを用意してから見てください」

「あーしがプイッタで告知とかするからー、見逃さないでよねー?」

「ご主人様、お嬢様のお帰りをお待ちしております」

「今日は……ありがとう……ございました……また次回……よろしく……お願いします……。 お疲れ様でした……バイバイ……」


 :また来るよ!

 :楽しみにしてる!

 :バイバイ!

 :活動頑張ってね!

 :お疲れ様ー!


 沢山のお疲れコメントが流れていく。

 それらを見送るように、配信は静かに終わりを告げる。

 一時的なフォロワーの大半が留まり、最終的に四千人超で安定した。

 初配信は成功で幕を閉じたのだった。



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「お疲れ様!」

「おつかれー」

「お疲れ様でした」

「お疲れ様……」


 失敗しないように気を張ってたからかな、本当に疲れた。

 ぐったり背もたれに背中を預けると、一気に脱力。

 次からはもっとリラックスしないともたないかも……。


「正ちゃん、お疲れ様」

「お疲れ」

「お母さん……お父さん……お疲れ様……」

「みなさんもお疲れ様、大変だったでしょ」

「疲れましたけど、楽しかったです」

「あーしも」

「私もです、非常に楽しめました」

「ふふふ、最初だから近くで見てたけど、次からは大丈夫そうね♪」

「そうだな」

「うん……不安はまだ……あるけど……きっと大丈夫……楽しめる……」

「正ちゃんがそう言うなら、尚のこと信じるわ♪」

「ありがとう……」


 次も成功するとは限らない。

 でもこのメンバーならきっと大丈夫。

 不思議とそんな確信が僕の中に浮かんだ。


 楽しくて、安心感があって、幸せで、胸がいっぱいになる感覚。

 みんなも同じように感じてくれてたら嬉しいな。

 ……ひとまず、この後は簡単な打ち上げと反省会をやらないとね。

 次も成功するために。

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