第3話:それから、これから

 第3話:それから、これから


 フラれてから二週間が経った。

 相変わらず思い出すと声が出なくなってしまう。

 いつになったら立ち直れるのか、今はまだ分からない。


 学校には事情を説明してくれたみたい。

 そのお陰で週に一回ノートとプリントが届くことになっている。

 今日はその二回目。

 手を煩わせてしまって申し訳ない気持ちになる。


「男の子の字よね、これ。 学級委員の子なのかしら?」

「分からない……でも……見やすいし……嬉しい……」

「そうね、上手くまとめられてて凄いわ。 字はちょっとだけ汚いけど」

「悪く言っちゃ……駄目……」

「ふふ、そうね。 今度クッキー焼いてノートと一緒に渡しておくわ」


 その時は一緒に作ろう、感謝を込めて。

 それで、学校に行けるようになったら真っ先にお礼を言おう。

 ありがとうって、精一杯の感謝を込めて。



 ----


 あの日から三週間ちょっと経ったけど、お兄ちゃんは家にずっと居るようになった。

 可哀想なお兄ちゃん。

 わたしが慰めてあげられればいいのに。

 きっとそれだけじゃ駄目なのよね、失恋経験ないから説得力ないし。

 魅惑のセクシーボディならどうにかできたのかな? こう、胸を押し付けたりして。


 小学校から帰ると、今日もリビングで勉強してる。

 自分の部屋でやらないのか聞いたら、一人だと色々考えちゃうからですって。

 可愛いお兄ちゃん。

 はあー大好き、この胸に抱きしめてあげたい。

 まだ全然大きくないけど、バインバインになる予定だし。


「なんの教科やってんの?」

「あ……おかえり……。 今は数学……」

「ふーん」


 あーんまた素っ気なくしちゃった……うー。

 まあでも、数学より算数って言ったほうが可愛いよ、お兄ちゃんの場合。

 数学って顔してないし、平仮名で言ってほしい。


「学校……」

「ん?」

「学校……楽しかった……?」

「楽しかったよ。 こないだのポ○モンの話でミキちゃんと盛り上がったし」


 授業はべつに楽しくないし、あんま好きじゃない。

 真面目に受けてはいるけど、やっぱり休み時間のお喋りと給食食べに行ってる感じ。

 受験組でもないから、だいたいみんなそんな感じでしょ?


「ポケ○ン……」

「ほら、新作も出るしアニメも盛り上がってるでしょ?」

「バトルしようぜ! ピ○チュウ! アイアンテール!」

「きゃー! サ○シー!」

「ピカピカ! ピー○ーチュー!」

「可愛いー! もっとちょうだい! もっとちょうだいお兄ちゃん!」

「絵……描いてくれたら……もっとあげる……」

「待ってて! スケブ持ってくるから! すぐ!」


 慌てて階段を駆け上がって床にランドセルを投げ捨てる。

 急いでスケブとドデカペンケースを持って対面に着席。


「今から描くからね~でへへ♪ なんの真似してもらおっかな~♪」

「うん……ゆっくりね……キレイなイラスト……見たいから……」

「任せて♪」


 これがわたしたちの日常風景。

 小さい頃から声真似が得意なお兄ちゃん。

 美少女なお兄ちゃんは声変わりが来なかったから、必死に低音ボイスの練習もしてた。

 幼女からダンディーなおじ様までできるとか完璧超人すぎるでしょ。

 真似も似てるなんてレベルじゃない、本人ですって言われたら絶対みんな信じるレベル。


「できた! リヴ○イ兵長とエレ○!」

「悔いが残らない方を自分で選べ」

「きゃー! リッヴ○イ! リッヴ○イ!」

「駆逐してやる!」

「やったれー! ふぉー!」

「……今日は……テンション高いね……」

「久しぶりなんだもん! しょうがないじゃん!」


 普段喋るのもたどたどしくて苦手なのに、声真似の時だけ何処かに置き忘れてくる。

 嬉しそうに、楽しそうに、身振り手振りを交えて真似してくれる。

 そんな姿も可愛くて、格好良くて、愛おしすぎて押し倒したい。

 その神様から貰った可愛いお口をぺろぺろしたい。


「そっか……ずっとやってあげれて……なかったもんね……ごめんね……」

「いいよ、今日聞けたし。 嬉しかったし……」

「よかった……」


 きゃー! 頭撫でられちゃった!

 んふふー♪ もっと撫でてー♪

 ……っと危ない危ない、落ち着け落ち着け。

 だらしない顔になるところだった。


「……勉強中だったんだっけ、邪魔してごめんね」

「ん……大丈夫……気にしてくれて……ありがとう……」

「べつに……勉強頑張って」

「うん……」


 一旦撤退して落ち着かないと。

 てか宿題あるんだった、忘れるところだった。


「そういえばさ」

「ん……?」

「勉強以外は時間あり余ってるんでしょ? せっかくだし何かやってみれば?」

「何か……?」

「気晴らしくらいにはなるんじゃない? んじゃね」


 お母さんたちが帰ってくる前に終わらせないと怒られちゃう。

 スケブとドデカペンケースを持って二階に駆け上がった。



 ----


 何かってなんだろう。

 何すればいいんだろう。

 確かに勉強以外は寝てるかゲームしてるかになってるし、時間無駄にしてたかな。

 どうしよう。


 何も浮かばないまま勉強を再開。

 数学を終わらせれば今日の分はお終い。

 考えるのは一旦置いておいて、サッと終わらせてしまおう。


「それにしても……本当にテンション……高かったな……」


 自然と笑顔がこぼれながら、サラサラと勉強を終わらせた。

 ノートの続きはまた明日。

 今日もお疲れ様でした、ノートくん。

 軽く一息ついてソファにダイブ。


「何すれば……いいんだろう……」


 なんだろう。

 うーん。


「何をしたいか……なのかな……」


 何か作ってみる?

 料理やってみる?

 バイト……は校則で禁止されてたっけ。

 動画撮るとか?


「動画……」


 悪くない、というか全然ありな気がする。

 見るのも好きだし。

 でも喋るのは苦手だし、実況とか雑談はちょっと……。


「…………声真似……あ……」


 声真似動画、楽しそう。

 声だけでも良いよね、流石に。

 何か画像表示させておけば……。

 あれ、本当に悪くないんじゃないかな。


 スマホだけでできるのがいいよね、手軽だし。

 なんかティックノックっていうのを聞いたことがある。

 スマホのアプリだったかな、若い世代に人気があるんだよね?

 合わなかったら別の探せば大丈夫だよね?


 他に分かるのはニッコリ動画とユーティービー。

 流石にちょっとハードル高いや。

 それ以外に有名なのは……疎すぎてわからないや。

 なんにしてもPCが必要なねは、今は敷居が高いかな。

 いつか、いつかそういうところにもってことで。


「やって……みようかな……」


 まずはティックノックの規約から調べてみよう。

 何か違反とかあったら怖いし。

 その前にアプリのインストールからか。

 すごい、優香のお陰で楽しくなってきた。

 ありがたいな、嬉しい。


 エフェクトとか文字も入れられるんだ。

 へー、すごい多機能なんだ、面白そう。

 セリフとかを文字表示しても良さそう。

 あ、短くてもいいんだ、長くないといけないのかと思ってた。


「すごい……こんなこと……考えたこともなかった……」


 悲しいは楽しいで上書きすればいい。

 有名な人がそう言ってた気がする。

 たぶん本当のことなんだ。

 まだ全然消えてないけど、ほんの少しだけ軽くなった気がしたから。


「本当に……優香には感謝しないと……」


 後で直接言わないと。

 今はとりあえず二階に向かって手を合わせておこう。

 なむなむ……ありがとう。



 ----


 ん? お兄ちゃんに見られてる?

 どこから?

 なんかおしりがムズムズする?

 下から? んん???

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