第二話 モテる俳優、バレる原作者
「ちょっと待って」
桃色の女性が目を
彼女の視線の先には、瞠目しているイケメン俳優がおり。
「ひょっとしてあんた、甲斐田豪じゃない?」
「あ――ああ。その通りだが……」
普段とは打って変わって、歯切れの悪い様子を見せている。
対して女性は、手を打って喜ぶ。
「やっぱり! あたしは、
桃色の手術着を着た彼女は満面の笑みで豪さんへと歩み寄り、その豊満な身体をこすりつけるようにして抱きつく。
「あとでサインくれる? 写真とかも撮って。そしたらなんでも言うこと聞いちゃうかも」
ずいぶんと都合のいいことを並べ立ててくれるが、我らが甲斐田豪は硬派な男。
こんなことではなびくはずもない。
「……わかった。善処しよう」
「豪さん!?」
「なんだ」
「いえ……べつに……」
じろっと睨まれれば、反論など出来ようはずもない。
ぼくは言葉を飲み込んだ。
しかし、息子さんか。
どう高く見積もっても、ぼくより年下だろう。多感な年頃の子どもが魅了される俳優となれば、日本でも数少ない。
120億の男の面目躍如とでもいうべきか。
そんなことを考えている間も、二人は談笑に花を咲かせている。
勝手なイメージだが、豪さんは常に上からぼくらを見下ろしている怖いところがあると思っていたので、その姿はかなり意外だ。
腐っても芸能人、ファンサービス、ということだろうか?
「そうだな……ファンであれば、応じるのも俳優の務めだ。田代七生……そう名乗ったな? 本当に間違いないか?」
「ええ、そう。七生よ」
「一つ答えてくれ。あんたは――いや、あんたの父親は、以前飲食業を営んでいなかったか?」
「え?」
首をかしげる田代さん。
彼女は、なんでそんなことを聞かれたのかわからないという顔で、
「店、いまでもやってるわよ? ジビエ専門店〝田代〟。まー、借金まみれのちっちゃい店で、一回潰れてるけどね!」
陽気に語って、最後にはゲラゲラと笑い出した。
「…………」
豪さんは、なぜか戸惑いを隠せない様子でいる。
眉に唾をつけ、かいてもいない汗を拭い、自分の目を信じられないのか何度も擦っていた。
……よもや女性に耐性がない?
そんなバカな、トップスターだぞ?
「
「お医者さんは性別判定がされないのでは?」
「……たまに失礼を平気で口の端に乗せますよね、羽白氏。私にも、怒りという感情ぐらいありますよ?」
ご立腹なのか、表情を変えずにこちらをジッと見詰めてくる六車さん。
なんだろう、今日は全員面倒くさくない?
「ちちくりあうのはよそでやってくれ!」
そんな雰囲気を吹き飛ばしたのは、茶色い手術着の男性があげた大声だった。
彼はぼくらを順番に凝視し、どもりながら告げる。
「ま、まずは……そう、猪対策、だろう? どうしてくっちゃべっていられるんだい!? 大ピンチだって事、忘れてないかい?」
えっと……おじさんのお名前は?
「ひ、ひぃぃ……名前を尋ねてどうするつもりだい? ひょっとしてわしの個人情報を売りさばくつもりじゃ」
「この島を脱出しないと、それはどうやっても無理でしょ」
あと、名前単体だとこの情報社会ではさほど価値がない。
「なんて冷めた子なんだ、おじさんびっくりだよ。わしは……
「みりゃわかるわよ、おっさん」
「ひぃいいいい……!」
田代さんにべーっと舌を出され、顔を引きつらせる海島さん。
なんだか尋常ではない怖がりのようで、瞳は常に周囲の様子を伺っている。
風の一つ、森で梢がぶつかる音一つ聞こえるだけで、ビクビクと身体を震わせているさまは、病的ですらあった。
もっとも、こんな意味不明な死亡遊戯へ参加させられたのだから、気持ちはわかる。初対面の相手にコミュ力を発揮できるほうがおかしい。
もしかするとおじさんの反応は、僕が想定したゲームユーザーとして一番正解かも知れないほどだ。
「と、とととと、ともかく……
ぼくだって、生きながら食われるなんてまっぴらごめんだ。
この場にいる誰も、そんな結末は望んじゃない。
……とはいえ、口は災いの元。
余計なことを口にして、トラブルを招くなど、愚の骨頂。
これまでの戦いで、それを十分に学んできたぼくである。
素性を隠すべく動こうとして。
「
六車さんが。
随分と嫌なタイミングで、こう言い放った。
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