第三話 マカロンと理事長先生


 『天花てんげ先生せんせい』こと、天花てんげ理事長先生はグレイヘアーの高齢女性だった。


 ハキハキとした口調に、凜とした姿。

 皺一つないグレイのスーツ姿は「とても出来る先生」に見える。


 これは真波叔母さんが慕うのも頷けるな。


 私を見つめて微笑む姿には温かさも感じて。

 でも、照れた私はつい俯いてしまう。


 ――すると、俯いた先。


 テーブルの下から何やら生暖かい空気を感じた。


 ハッハッハッハという、荒い息遣いも……?


 恐る恐る覗き込めば……。

 暗闇に光るギョロッとした二つの……目!?


「お、お、お、お化けー?!?!」


 驚いてその場に飛び上がった。


「あっ、ごめんなさい! ほら、マカロン! こっちへおいで!」


 チャッチャッチャと、リズミカルに爪を鳴らしてテーブルの下から現れたのは、犬だった。

 茶色い耳がピンと立ち、好奇心旺盛な黒目に、胴長短足の犬……。


 知っている、この犬はコーギーだ!


「かりんさん、驚かせてごめんなさい。この子はマカロン。この学園で飼っている『学園犬』です」


 ワフワフと、嬉しそうに理事長先生の足元でお尻をフリフリするマカロン。

 マカロンは理事長から何かを貰うと、立ち上がっている私の元へと再び爪を鳴らしてやって来た。


 マカロンは口に真っ白なボールを加えている。

 そのボールを私の手にぐいぐいと押し付ける。


 その行動に戸惑う私。

 理事長先生は言った。


「かりんさん、お願いがあるの。お母様と少しお話をする間、マカロンにボール投げをして遊んであげて欲しいの」


「え? え?」

「お願い」


 そう言われて、嫌だと言えないのが私。


 学園犬だと言われたマカロンは、勝手知ったる学園の中庭まで一目散に駆けていき、ボールを投げろと鼻でぐいぐい、私のシューズに押した。


 私はそのボールを掴むと、えいっとボールを投げた。

 すると、地面に落ちる前にマカロンはジャンプしてキャッチする。


「わー!! マカロン、上手上手!!」


 嬉しそうに耳を揺らして、ボールを持ってくるマカロン。

 再びボールをえいやと投げる。

 キャッチするマカロン。

 投げる私、キャッチするマカロン。


 それを繰り返す事、なんと三十回以上……!


「――ま、マカロン……! 一体、いつまで投げればいいの〜!?」


 まだまだ嬉しそうに目を輝かせてボールを持ってくるマカロン。

 投げろとボールを私の足元へと押し付ける。

 運動不足の私の肩は、もうかなり前にズキズキし始めている。


「えーん! マカロンが体力おばけだったなんて!!」


 しかし、ワンコにも嫌と言えない私。

 しょうがなくボールを拾おうとすると、先に誰かの手がボールを奪われた。


 それは、さっき出会った男の子だった。

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