第四話 押し付けられたボール係


 男の子はマカロンのボールを掴むと、綺麗なフォームで風を切る様にボールを投げた。


 数十メートルも先に飛んだボール。

 さすがのマカロンもジャンプキャッチが出来ない。

 ダダダッと短い脚を動かして、ボールを追っかけて行く。



「……あんたの投げ方じゃ、マカロンは疲れないよ。あいつはアクティブな犬種だから、もっと運動させないと」


 マカロンは遥か遠くから、見つけたボールを咥えて帰って来た。

 そして男の子にボールを渡すと、彼は無垢な笑顔でマカロンの頭を撫で、それから再び遠くまでボールを投げた。


「……あんた、転入生?」


「あ、は、はい。その予定で、ですが……」


 知らない男の子と話す緊張から、どもるし語尾が小さくなる私。


「その予定ってどういう事?」


「て、て……! て、転入は、し、しますけど……お、オぅ、ンラインの授業を希望していまして……」


 ううう。

 どもって、変な感じな口調になってしまった。


 すると、小学生時代の嫌な思い出が頭の中を埋め尽くして、緊張が体を硬直させる。

 ガタガタと震える私。

 どう見ても、変な人間だと思われた。

 実際、男の子は黙ってしまった。


 すると、男の子はマカロンのボールを私に差し出してきた。

 反射的に受け取ってしまう私。


「分かった。今日からあんたを、マカロンのボール係にするわ」


「はへ?」


「理事長にマカロンの世話係を頼まれていたんだけど、ボール係はあんたね。名前は?」


「あ、あの、わたし……」


「名前!」


「は、はい! の、の、野乃原かりん、れすっ!!」


「じゃあ野々原、マカロンと遊んでやって」


「え…………?」


「いいね? 野々原が来ないと、遊ぶのが大好きなマカロンがとーーっても悲しい思いをするからね」


 と、言いつけられた。そして去ろうとする。


 私はオンライン授業をするので遊んであげるのは無理です! と断ろうとすれば、男の子は「あ、そうそう」と自分のペースで話し出し、


「俺、八神やがみ悠月ゆづき


 と名乗り、それからブレザーの胸ポケットから金の王冠の付いたクローバーバッチを取り出し、襟に取りつけたのだった。


「四つ葉学園、初代・生徒会長だから」



 ……か、彼が?

 四つ葉学園の生徒会長……!?!?


「この学園では、生徒会長の命令は『絶対』だから。ちゃんと学校へ来るんだぞ!」


「え? え? え?」


「返事は? ハイか、イエス!」


「……は、はいっ……!」


 すると八神君はにこりと微笑み、マカロンに語るような優しい口調で言った。


「ん、良い子だ」

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