第二話 出会った素敵な男の子


 四つ葉学園へ転校する事を決めた数日後。


 その前に面談に来て欲しいと言われ、土曜日にママと二駅先にある四つ葉学園に向かった。


 高級住宅街が立ち並ぶ緩やかな丘の上に建てられた四つ葉学園。

 クローバーをモチーフとした細工があしらわれた金の柵門を潜り、木洩れ日差す森林に囲まれたレンガ道を進めば、まるで王子様が住んでいそうな真っ白なお城……じゃなくて、学校があった。


「まあ、素敵な学校ねぇ……!」


 ママも四つ葉学園の素敵な外観に、ほうっと吐息を漏らす。


 ――確かに。

 こんな素敵な場所で学校生活が送れるならば……と思うと、ロマンチックな恋愛物語が大好きな私はつい妄想してしまう……。



 キラキラふわふわのドレスを身に纏う私。

 見つめ合い、微笑みながら踊るのは、それはそれは素敵な王子様。


 優雅に踊り、音楽が鳴りやめば、王子様は私の目の前に跪いた。

 

 そして、私に愛を告げて……。







 ――……いやいやいや!!

 無理っ!!


 学校へ満足に行けない私が、何が王子様とダンスよ、愛の告白よ!


 スタート地点にも立てていないのに、妄想ばかりおっきいなんて……恥ずかしい!!


 頭をブンブンと振って妄想を打ち消していると、背後から私達を呼び止める声がした。




「あの、何か学校に用ですか?」


 ――振り返れば。


 そこにはさっきの妄想から出てきた様な、素敵な男の子が佇んでいた。


 少し癖っ毛の青みかかった黒髪、切れ長の大きな目に長い睫毛、しなやかな体つきのクール系男子。


 白いブレザーに紺ネクタイ、グレイのズボン姿の彼は『四つ葉学園』の生徒なんだろう。

 ブレザーの胸ポケットには四つ葉の校章がデザインされている。


「あら、ここの生徒さん? 私たち、理事長室へ行きたいのだけど……」


 ママがそう尋ねると、素敵な彼は口角を上げて、にっこり。


「わかりました。先ずは事務所で受付をして頂けますか?」


 ママをエスコートする様に、事務所へと案内してくれる。

 その動きもスマートで。


 ママも私と同い年の男の子なのに、大人びた仕草にドキマギ、タジタジ。


 男の子に誘導されて、ママは事務所で受付の書類を書いている。

 それをボンヤリと眺める私。


 視線を感じて、振り返れば男の子と目が合った。

 男の子の目線は私を値踏みするかの様に、上から下までジロジロ……。


 なに!?

 なんで、ジロジロ見ているの?


「かりん、お待たせ! 理事長室はこの先ですって。君、案内してくれてありがとう!」


 ママの声に、再び彼はにっこりと笑顔を作った。


「お役に立てて良かったです。それでは」


 と颯爽に去っていく。

 その後ろ姿を見つめながら、ママはほぅと吐息を吐いて言った。


「とてもカッコいい子ね。この学校には、あんな素敵な子がたくさん居るのかしら?」


 ――私は。

 さっきの絡む様な視線が気になってしまい、素直に返事をする事が出来なかった……。

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