第19話 迷宮と鑑定

 ワーベアを皆の力で瞬殺した一行。

 何故かその死体は消えてしまい、そこには魔石が一個転がっただけだった。


「昔の文献で迷宮の事を読んだ事があるのですが…」


 そう、魔法士のヴィルトスが言った。


「ん?文献?」


 ガランは眉を顰めて振り返る。


「はい。イロハさんの推測で言った通り、迷宮の中は特殊な次元空間で、そこは死を拒絶すると言う書物を読んだ事があるのです」

「拒絶ぅ?…つまり何か?俺達ももし、死んでしまったら消えて無くなるって事かよ?」

「恐らく…」


 ヴィルトスの言葉で皆、暫く言葉を失う。


「んだよ!お前ら、ビビってんのかよ?死ななきゃいいんだろ?」

「ガラン、あんたさぁ…」

「つまり…蘇生の魔法も役に立たないって事ですよね?…まぁ…わ、私はまだそんな大魔法使えませんけど…」


 治癒魔法士アイネはそう小さい声で言った。


「とりあえず、前に進みましょうか?Dランクのワーベア辺りなら、問題なく倒す事は出来ますよね?」

「そうだ!イルメイダ、その通りだぜ!どちらにせよ危険を冒さねえと宝にはありつけないんだからよぉ」


 イルの言葉でガランがイキってそう叫ぶ。


「そうね…ここで引き返したって。何するのあたい達?」

「うむ」

「はい…そうですね」

「うん。進もう」


 最後に僕が言葉にすると皆は頷いた。


 ◇


 それから2時間探索した。

 迷宮は中々広い上、定期的に魔物が出現し、襲って来るのだ。


 しかし皆にまだ疲労の影はない。


 僕はここに入る前に、この迷宮の設定画面を見た。

 その時は7階層になっていた。

 ここはまだ1階層。

 1階層でもこれだけ広いんだ…それが設定画面では50階層までの設定出来るようになっていた。

 これって踏破出来る物なのだろうか?…


「ここは…行き止まりね」

「いやチーヌ見ろよ。あそこに箱が置いてあるぜ」

「…明らかに罠って感じね。ガランどうするの?」

「勿論、行くに決まってらぁ!」

「でしょうね…」


 ガランはゆっくりと行き止まりの部屋へ入って行く。

 僕達にはそこで待てとジェスチャーをして、暫く進むと。


 複数の黒いモヤが現れた。


 そのモヤはワーベア、ワーウルフなどの魔物を形作った。


「ほう…そうやって魔物が現れるわけか」


 ガランはニヤリとして、盾を構える。


「皆、ガランの後に続くわよ!自分の持ち場の体勢へ散って!」


 チーヌがそう言うとガランを先頭に、イルメイダ、七羽、チーヌ、後ろにヴィルトス、アイネが控えた。


 ワーベアは、一番近くにいるガラン目指して突進し、それをガランは、いとも容易く止めて応戦する。


 ワーウルフは機動力を活かして、チーヌ、七羽、イルメイダへも襲い掛かるが、ミスリル武器の刃は次々とその首を落としていった。


 ヴィルトスも上手く魔法攻撃で皆が戦いやすいように牽制していた。

 アイネはここでは出る幕もなく、大事に備えて状況を見守っていた。


 数十匹の魔物は、そこまでの時も掛からず討伐され、魔石を残し消滅したのだった。


「終わりか?」

「…のようね?」


 ガランの言葉にチーヌはそう返す。


「てか…イロハ君?」

「はい?」

「貴方…本当に人間族?」

「え?…見たままだと思いますが…」

「ふ~ん。今の戦いの動き、エルフ族や獣人族の、あたいと同等なくらいじゃなかった?」

「そ…そうでした?…僕、結構、身体能力褒められるんですよ?あははは…」


 チーヌは眉を顰めてじっと七羽を見ていた。


「…まあいいわ。貴方が強いって事が少しでも分かれば、こちらも他に目を向けられるしね」

「はい…有難うございます」


 だよね。

 自分でも体が軽くて思うように動くし。勿論それは脳豆のお陰だろう。

 そして、このドワーフが造ったと言うミスリルの剣が凄い。あのワーベアの堅い皮膚も容易に斬れてしまう。


 イルが言ってた通り、鉄の剣の数倍、切れ味も扱いやすさも抜群に良い。

 値段が張る理由は分かった気がする…。


「よう、チーヌ。罠ないか調べてくれよぉ」

「はいはい。あたいの出番だね」


 チーヌは宝箱を念入りに調べる。


「罠はないわね」


 そう言って、箱を開けて中を覗く。


「これは…」


 チーヌが箱から出した物は、小さな盾が1個、少し豪華な造りのダガー1本、小さな宝石10個、金塊2個だった。


 皆集まり、チーヌが並べた物を見る。


「このダガー!そこそこ良い物だわ」

「ほう‥まあ、俺には無用なもんだな」


 七羽は鑑定してみた。


「へぇ…ポイズンダガー。鋼製、攻撃力12、敏捷+2%上昇、毒付与54%かあ…良い物そう?」


 七羽がそう口に出して言うと、少し驚いた表情で皆がじっと見ていた。


「ん?何か…?」

「あちゃ…」


 イルメイダは片手を額に当てて気まずい顔をしていた。


 僕はイルのその顔を見て察した。

 ああ…やってしまった。この世界の人にはステータスも鑑定画面も見えないんだったと…。


「イロハ君…あなたってほんとに一体何者なの?」

「え?…な…何者とは一体?…」


 慌てて苦笑いした。


「確かに、このダガーは毒の香りがするから、すぐに毒が付与された鋼製武器だと鑑定人に出さなくても、あたいでもわかるわ。でも、素材と毒はまだしも、その数値は一体何?」

「そ…そんな事言いましたっけ?…ははは…」

「イロハ君!あたいは人の言動、動き、罠などには敏感なのよ。器用2%に毒付与54%って言ったわよね?」


 これは逃れられないと七羽は思った。

 そこで、自分は特異体質で、多少の人や武器を鑑定出来る能力を持っていると言わざるを得なかった。


 ◇


「ふーん。そんな能力があるから、遺跡も解放する事ができたのね」

「そうかと…思いますです。はい」


 暫くいろいろ問い詰められたが、そう言う能力の持ち主で、他言はしないと言う事で皆も納得してくれた。


「じゃあ、イロハ。この戦斧見てくれるか?」

「はい」


 僕はガランの持っている戦斧をじっとみる。


「鋼製。攻撃力30…それだけです」

「むう…」

「じゃあ、私の杖はどうでしょう?」


 ヴィルトスの杖を鑑定した。


「樫の木製。攻撃力2。風、火属性アップ触媒付」

「ほう。杖に嵌めてある触媒宝石の種類まで言い当てますか…」

「私のはどうですか?」

「アイネのは、チーク製。攻撃力1、光属性触媒付」


 2人はうんうんと頷いていた。


「で、この宝箱に入っていたこの小さな盾はどうなの?」


 チーヌが残っていた盾を指さして言った。


「鉄、木製。防御力11、火属性無効化率7%、力+1%上昇…」

「ふえ?」

「ええ?」

「何ですかその…」


 皆、同時に変な声をあげた。


「コホン…つまり、これが迷宮品って事ですな。」


 ヴィルトスがそう言った。


「迷宮品ってこんないろいろと内容が付くのかよ?」

「文献には、迷宮品の事をマジックアイテムと書いてありました。つまりは…魔法が付与されている物と言う意味です」


 ヴィルトスは得意げにそう言う。


「僕も初めて見たのは、エルフの長老の部屋に飾ってあったオリハルコン製の滅竜葬刃って剣でした。あれは物凄い物だと思いましたが…、この攻撃力や防御力ってのは、その物の目安にしかすぎないと思うのです…、で、力上昇や器用さ上昇と言った物は、それを使う者の能力上昇を意味するのだと思います。


「つまり、例えば。あたいが、このポインズンダガーを持つだけで、身体能力の速さみたいな物が、少し上がってしまうって事なのかい?」

「そう言う事になりますね」


 チーヌは深く頷いた。


「イロハ。それで…なんで攻撃力ってのは目安になるんだ?」

「そこは僕もよく分かりませんが、その武器の攻撃力にプラスして、身体能力がありますよね?ガランさんの斧を僕が扱うのと、ガランさんが扱うのでは同じ攻撃力30でも意味が違って来ると思うんです」

「おお?なるほど!」

「あたいがその斧を振り回すにしても扱い方で変わると言うことね?」

「そうです」

「大体はわかったわ。この盾の魔法付与はもう一つ、火属性の無効化ってのは火に対して僅かな確率で無効で受け止める…か受け流すかって事なのでしょうね…」

「だと思います」


 皆はうんうんと頷いていた。


「あの…チーヌさん、鑑定人にださなくてもって、さっき言ってましたが、鑑定人って職業の人いるんですか?」

「ああ、いるね。ただ、イロハ君みたく正確にわかるわけではないわ。ベテランの商人が大体どのような物かを鑑定してくれるだけ。そもそも迷宮品はあまり出回ってないし、素材は何で、何処で造られた物で、その武器の精度を計ってくれるくれるくらいかしら?」

「なるほど…分かりました。皆さんこの事は…」

「わがってるって!誰にも言うなって事だろお?」

「はい…」

「わかってるわ、もしそんな能力があるってバレでもしたら、盗賊や何処ぞの王族だってだまっていないわ。これはこのパーティだけの秘密ね」


 そのチーヌの言葉を、皆、頷いてくれた。


「で、イロハさん、このダガーと盾、分配どうするんですか?」

「ああ…」

「イロハのお陰でいろいろ分かったんだ。イロハが決めて良いぞ?どちらにしても俺は使わん!」


 ガランはそう言って箱にまだ何か入っていないか覗きに行った。


「じゃあ、このダガーは一番適役なチーヌさんで」

「あたい!?やった」

「この盾は…」

「盾はイロハさんね」


 イルメイダは笑ってそう言った。


「え?」

「イロハさん、このくらいの盾なら剣を振るのに邪魔にならないし、私は風魔法でヒラリと躱すのが性にあってるので」

「それがいいですな」

「うんうん」


 皆頷いたので、小さな盾は僕が貰う事になった。


「マジックアイテム旨すぎるぜ!もっと探索しようぜ!ガハハハ」



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