第20話 1階層の大物

 ここまで、1階層を探索し、チーヌが地図を付けていたが、どうやら広い正方形の形が想像できた。

 半分しか完成していない地図だったが、右壁に沿って歩いていたため、端の壁が真っすぐ直線になって角が2つ出来たためにそう推測した。


 今ここは3つ目の宝箱のある部屋である。

 この部屋を入れてここまで、最初とここを入れて3つあった。

 どの部屋も、沸く敵自体は大した事はなく。


 宝箱の中身も、鉄製の胸当て、鋼製槍、革製小手と…何故かTシャツが出て来た。

 どれも一応、迷宮品なので、マジックアイテムで魔法付与がついていたが、これと言って良くもなかった。


「むう…そのシャツは論外!そして、胸当ては、力が1%上昇するが…鉄の重さを考えたら別に良くもない。槍も、小手も似たような1%身体能力増えるだけとは…イロハよぅ、もっと良い物とかでないのかよ!」


「ガランさん…僕に言わないでくださいよ…。あ、でもこのTシャツ意外と良いマジック付いてますよ?」


「む?」

「収縮自在、温度調整+-3度、絶対抗菌仕様ついてます!これは良い」

「むう…誰でも着れるのは何となくわかるが…他はなんぞ?」

「多分ですが、これを着てると暑い時は3度涼しくて、寒い時は3度温かい、しかも絶対抗菌って事は、菌が繁殖しないって事でしょうね」


 ガランはしかめっ面のまま、七羽の言葉を聞いていた。


「きん…ってなんだ?チーヌわかるか?」

「さあ?何でしょうね、初めて聞く単語だわ?」


 ガランが他のメンバーに目を配ったが、皆、首を横に振った。

 ああ…この世界の人、そう言うのは知らないのか。


「えーと…つまり、清潔を保てるって事です。汗とかかいた後の嫌な臭いの原因が菌って物なんです。絶対抗菌という事はその菌の発生は絶対ないわけで…」

「あの…私欲しいかも…」


 それを聞いてイルメイダが手をあげた。


「それなら…私も欲しい」


 直ぐにアイネがそう言って手を上げる。


「ふん、俺は汗をかかないからな、それに、もっと良い物以外は俺はいらん」

「そうね。あたい達獣人は口と手足の表面で体温調節してるから要らないわ」


 ガランとチーヌはそう言った。


「コホン。それなら、女性陣に私は譲りましょうかね」


 ヴィルトスはそう言った。


「ああ、じゃあアイネちゃんに私譲りますね」

「え?良いんですか、イルメイダさん」

「うん。私の方が多分年上なので、そこは年下へ譲りますわ」

「わーい」


 流石、女性達…このTシャツの価値にすぐ気づいたね。

 って事でこのTシャツはアイネへ渡した。


「ヴィルトス。他のマジックアイテムも次元箱に入れててくれるか?」

「はい、よろしいですよ」


 ヴィルトスは空間に歪みを造り、革小手と鋼槍を仕舞う。


「ヴィルトスさん、その次元箱ってどのくらい入るんですか?」


 次元箱を見て疑問を持った僕はそう聞いてみた。


「そうですねぇ…私の次元箱で人3人分くらいでしょうかね?」

「へぇ…」

「私もそれくらいかな?」


 イルメイダはそう言い。


「私は…まだ私自身がやっと入れるくらいの大きさかなあ?」


 アイネもそう言った。


「ガランさんとチーヌさんは?」

「次元箱ってのはな、魔力に依存して使える能力なんだろ?俺ら獣人は魔力がそこまで多いわけでないからな。殆どの獣人はそんなもん使えないぜ。まあ、稀に魔法士している獣人も居ない事はないがな」

「そうね。とても便利そうで羨ましいけど…あたい達はその代わりに、そこの脳筋戦士のように強靭だったり、あたいのように柔軟だったり、身体能力が人間やエルフよりも優れているのが特徴よ」

「オイ…誰が脳筋だ!」

「なるほど…じゃあ僕も訓練すれば使えるようになるのかな?」


 七羽が最後にそう言うとイルメイダがその問いに口を開く。


「勿論。イロハさんだって魔力操作を訓練すれば出来ると思います」

「おお、それは良いなあ。イル、今度戻ったら訓練付き合ってくれる?」

「はい、勿論です」


 イルメイダは笑ってそう答えた。


 ◇


 一行は更に探索を進めた。

 時折、魔物が出て来るけど、大体が獣系の魔物で強さも6人には大した事はなかった。そして、誰がどう動くかも皆が把握して来たので、徐々にだけど連携がとれてきたのだ。


 そしてとうとう、ボス部屋らしき大きな扉の前に一行は立っていた。

 壁には何かの模様が掘られていてとても重そうな扉に見える。


「これって…」

「十中八九、この中には大物が待っているだろうなあ」


 イルメイダが扉の大きさに驚いて呟いた所に、ガランがそう言った。


「そして下か上へ降りる階段がその先にありそうね」


 チーヌが付け加えて言った。


「どうします?このまま行きます?それとも…」

「おい、イロハ!戻る選択肢はないだろうがよぉ。ここまで来たんだ、大物倒して凱旋して帰ろうや」

「ガ‥ガランさん、でももし強敵だったらどうするんですか?…」

「そんときゃ、息合わせて逃げるんだよ!」

「ええええ…」


 ガランはイキって七羽にそう言った。


「ガランはこう言ってるけど皆はどう思う?」

「ど…どうでしょう?」

「ふむ」

「私は…皆が行くって言うのなら従いますが…」


 イルメイダ、ヴィルトス、アイネはそう言った。


「ここまで大した敵はいなかったんだから、大丈夫だろうよ!ちゃんと俺が守ってやるからよ!って事で…」


 ガランは皆の返答を聞く前にそう言って扉に手を掛ける。

 ガランが力を入れて扉を押す。


 ゴゴゴゴ…


 重厚な扉は少しずつ内側へ開いていく。

 皆、一瞬溜息をついたが両方の扉を一緒に押し開けて行く。


 そこは、大きな広間になっていた。


 完全に扉は開き、ガランを先頭にして中へ入って行く。

 広間は何故か見渡せるくらい明るく、石壁で正方形の部屋になっていた。

 通路の時より天井も高く、先を見ると扉が見えた。



「あの扉が下への階段か?」


 ガランは盾を構え進んで行く。


 すると、大きな黒いモヤが扉前に現れる。


「来るぞ!」


 ガランは叫んだ。

 皆、武器を構える。


 そこに現れたのは大きな牛で、体長5mはありそうな魔物。

 頭が牛で、4本の太い腕に筋骨隆々の体。

 全ての手には手斧を持っており2本脚で仁王立ちして出現したのである。


「牛…ミノタウロスか?」


 七羽はすぐにそう言って鑑定した。


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 ミノタウロス・ジェネラル


 体力: 1567

 魔力: 10

 筋力: 1565

 知力: 26

 器用: 86

 敏捷: 27


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「名前はミノタウロス・ジェネラル。力と体力は凄いけど、魔力は殆どないから魔法は使えないのかも!後、敏捷も人並みだから僕達なら上手くやれば勝てるかもしれません!」


 鑑定結果を七羽はそう叫んだ。


「ほう…お前、そんな事まで分かるのかよ!頼もしいなあ。イロハ分かったぜ、まともに受けたら危ないって事だな!」

「はい!」


 会話を聞き、皆頷き散開する。


 ミノタウロスは大きな体で4本の斧を振り回す。

「ブモモモモーーー」

 大きな雄たけびを上げて片腕の斧がガランを襲う。


 ギャリン!


 ガランは、盾で襲って来た斧を受け流す。


「なるほど…これはまともには受け止められねぇなあ、大体、そのサイズの斧なんてどこに売ってんだよ」


「火よ踊れ。大きな炎となりて敵を焼き尽くせ…ファイヤーボール!」


 ヴィルトスはバレーボールほどの火球を数発、生み出して放つ。


「風の精霊さん。力を貸して!」


 イルメイダは風の精霊に呼びかけ精霊術を行使する。

 そうすると、ふわりとイルメイダは宙を舞い弓で矢を放つ。


 チーヌは、その身体能力でミノタウロスを翻弄し。

 迷宮品のポイズンダガーで皮膚を斬り付けていたが。

 しかし、その分厚い皮によって中々身を切り裂く事が出来ないでいた。


 七羽も脳豆で上がった身体能力は、チーヌと同じくらいの身体能力を発揮する。

 ヒラリと振り下ろす斧を躱し、ミスリルの剣を振るう。

 七羽の攻撃は腕の皮膚を切り裂き、ミノタウロスの血が噴き出す。


「これは行ける!」


 七羽は自分の攻撃がダメージを与えられると確信し、そう言葉を漏らした。


「おらおらあ、何処見てんだよ!こっちだこっち!」


 ガランは盾を戦斧で叩き、より一層ミノタウロスを挑発する。



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