「うわ開き直った。このシスコン」

「どうしてそんな嘘をついた……」

机に突っ伏して苦し気に話すセイレン。青い顔をしてかろうじて椅子に座っているルナ。アリシアは自分の料理を一つつまんで悶絶していた。


「ふっ、ふふふ、嘘じゃないわ。私は料理が上手なのよ。ただ、今日はちょっと失敗しただけよ。たまにはあることよ」

アリシアは引きつった笑いを浮かべながら言った。

「人間界の調味料と魔界の食材の相性が悪かったみたいね」


「アリシア様、でもこれは辛すぎるのでは」


「そーね、人族にはちょっとね」


「君だってひっくり返っていただろ」



「ほら、ルナが来てくれたのが嬉しくて、つい盛り上がっちゃったのよ。私は本当はもっと上手に料理できるのよ。ねえ、セイレン、そうでしょ?」

アリシアはセイレンに助けを求めるように目配せした。


しかし、セイレンは苦しそうに首を横に振った。

「ごめん、アリシア。でも、これは本当に食べられないよ。ルナも大変だったろう」

セイレンはルナに同情の目を向けた。


ルナは微笑みながら言った。

「いえいえ、アリシア様の気持ちが伝わってきました。ありがとうございます。でも、次回はもう少し辛さを控えていただけると嬉しいです」

ルナは丁寧にお礼を言ったが、その表情には苦痛の色が残っていた。


「ふん、わかったわ。次回はもう少しマイルドにしてあげるわ。でも、それでも私の料理の素晴らしさに驚くことでしょう」

アリシアは自信満々に宣言した。セイレンとルナは顔を見合わせて苦笑いした。




「アリシア様、兄さん、今回はありがとうございました」


「ルナにはエデンヤードの発展に協力してもらい、感謝してる」

セイレンは笑顔でルナの手を握った。

「ルナにはアヴァロンの女王として、苦労をかけるな。もし何か困ったことがあれば、いつでも私たちに連絡してくれ」


「そうよ、私たちはいつでもあなたの味方よ」

アリシアは優しくルナの手を握り返した。

「イシュタラとの間に問題が起きたら、私に言ってね。あなたを助けてあげるわ」


「ありがとうございます、アリシア様。あなたは本当に素敵な方ですね」

ルナはアリシアの温かい態度に心を打たれながら、感謝の言葉を述べた。



「アリシア様、ちょっと」

ルナがアリシアを呼ぶ。


「なに?」


「兄さんのことよろしくお願いしますね。アリシア様が隣で支えてくだされば、兄はとても幸せだと思います」


「えっ、な、なに言ってるの、ルナ」

アリシアはルナの言葉に顔を赤くしながら、慌てて否定した。

「私たちはただの共同領主で、呪魔法の研究者で、たまたま仲がいいだけよ。セイレンを支えるなんて、そんなことは……」


「アリシア様、ごまかさないでください。私はあなたと兄さんの関係を見てきました。あなたは兄さんに対して素直になれないだけで、本当は兄さんのことが大好きなんですよね」

ルナはニコニコしながら話した。

「あなたが兄さんをからかったり、怒ったりするのも、気にかけているからですよね。兄さんもあなたに対して同じ気持ちだと思います。だから、お願いします。兄さんを幸せにしてあげてください」


「そ、そんなこと……」

アリシアはルナの言葉に動揺しながら、目をそらした。

「私は魔王だったのよ。人族の王と恋愛なんて、ありえないことよ」


「そんなことありません。兄さんはあなたを大切に思っています。あなたが危険にさらされたら、必死に守ろうとします。あなたが悲しんだら、優しく慰めてくれます。あなたが喜んだら、一緒に笑ってくれます。それが恋愛じゃないとしたら、何ですか?」

ルナは真剣にアリシアを見つめた。

「アリシア様、私はあなたと兄さんが幸せになることを心から願っています。どうか、自分の気持ちに素直になってください」




ルナを乗せた馬車がエデンヤードを離れていく。馬車が遠ざかるにつれて、セイレンとアリシアの間には静寂が広がった。二人はしばらく無言で立ち尽くしていたが、やがてアリシアが口を開いた。

「ルナは優しい子ね」

彼女の声には少し寂しさが混じっていた。彼女はルナと仲良くなっていたが、今日でしばらく会えなくなるのだ。ルナはアヴァロン・レインの女王として、国務に専念するためにエデンヤードを離れることになったのだ。


「ルナに女王としての重責を任せたこと、正直少し悔やんでいるんだ」

セイレンが話す。

「自分の勝手な理想のために、ルナをつらい目に合わせているんじゃないかって」


「馬鹿ね」

アリシアが答える。彼女はセイレンの肩に手を置いて、彼の顔を見つめた。

「ルナはあなたの理想のために、自分の意志で女王になったのよ。あなたが彼女を無理やりそうさせたわけじゃない。彼女はあなたのことを誇りに思っているし、あなたも彼女のことを信頼しているんでしょう?」


セイレンはアリシアの言葉に心を打たれた。彼はアリシアの手を握って、感謝の気持ちを伝えた。

「ありがとう、アリシア。君がそう言ってくれると、少し安心するよ。ルナは本当に優秀な妹だから、きっと大丈夫だろうね」


「そうよ。ルナはあなたに似ているからね」

アリシアはセイレンに微笑んだ。しかし、その微笑みはすぐに皮肉な表情に変わった。

「でも、あなたはまだまだ甘いわ。ルナは女王として強くならなきゃいけないのに、あなたは彼女に甘やかしすぎるのよ。今日もお別れの時に、泣きそうな顔をしていたじゃない」


「泣きそうな顔をしていたんじゃない。泣いていたんだ」


「うわ開き直った。このシスコン」


「まだ言うか。ルナは私の大切な家族だから、心配になるのは当然だろう」

彼はアリシアの手を離して、彼女の横に座った。

「それに、君もルナと仲良くなったんだろう? 彼女がいなくなって寂しくないのか?」


「寂しくないわよ。ルナは可愛いけど、あなたと違ってしっかりしてるもの。私が心配する必要はないわ」

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