ヴィクトリア朝舞台の初心者向けミステリ? いいや、異常ミステリだ!

本作はKADOKAWAから発売されたマーダーミステリー『アストリアの表徴 ─名探偵アルフィー最後の事件─』の販促の一環として連載された外伝小説である。しかし外伝と侮るなかれ、この作品は単体でしっかりしたヴィクトリア朝ミステリでもあるのだ。
ヴィクトリア朝を舞台とし、「解決すれども推理しない」異端の探偵アルフィーの活躍を描く本作は、一章では「Twitter」、二章では「ウマ娘」というヴィクトリア朝には一見そぐわないモチーフを外連味たっぷりに用いながらも、ミステリの基本に忠実な構成をしている。
推理の難易度自体は高くなく、初心者でもおおよそ想像は着くだろう。しかし丁寧に張り巡らされた伏線を鮮やかに回収する手腕、そして「推理しない」探偵であるアルフィーが如何に事件を解決するか、にはミステリの旨味が詰まっている。文章もキャラもユーモラスでとっつきやすい、初心者にもオススメの良作ヴィクトリア朝ミステリだと胸を張って言えるだろう。


と、ここまでが二章までの話である。

二章までのこの作品は「初心者にもオススメの良作ヴィクトリア朝ミステリ」であった。あえて悪いように言うと、そこ止まりであったとも言える。


だが三章で……奴は弾けた。


何がどう弾けたかは是非その目で確認していただきたい。その『ヤバさ』は語って聞かせるより読んだほうが早い。
とにかく、初心者向けミステリであるかに思われたアルフィーは第三章でいきなり異常ミステリへと羽化する。いや、正確に言えば布石自体はあったと言えなくもないが、しかしアクセルブッちぎり過ぎである。分かる人に分かるように言えば「これもうメフィスト賞だろ」となる。
恐らく、この作品に類似するであろうモノは今後一切現れないだろう。そう言い切れるほどの怪作だ。ミステリ好きなら是非ご一読することを強く、強く薦める。