第43話 百合さんと聖女の祈り


姫子さんがドレスをオーダーしたと言う先輩のお部屋にお邪魔しております。

お礼をしなければいけませんからね。


まるでブティックのように並んだ衣服


裁縫能力を持つ先輩でございます。

ラフなイメージ画があれば衣服を作り出してしまう能力

尊敬致します。しかも職業としてではなく完全な趣味


この能力を生かしましてコスプレイヤーとして活躍されております。

衣服を作るだけでなく自分で着ることで別人になりきる事を楽しまれる方でご

ざいます。


コスチュームを着て人前で披露する機会が多い方ですので優れた容姿でござい

ます。姫子さんほどではございませんが「巨」でございます。



「どうしてもお雪ちゃんに着せたくてね。 自信作だよ。

 まずは着てみて」


奥から出してきたドレス ・・・既視感


浅緑色のワンピースの上に重ねるような赤いドレス

黄色に縁取りされて正面には独特の模様が施されています。

青い襟は細く白い線で飾られております。


これは聖女『セイ・タカナシ』さんのコスチュームではありませんか

「聖女の魔力は万能なのです」の聖女さまですよ。


「だって聖女さましているんでしょ」


私は聖女ではありませんからねっ

それにこんなに立派なドレス作ってもらってお礼が・・・


「今度バザーやるからその時にこれ着て」


バザーで売り子のお手伝いなら喜んで協力致しますよ。


「その時に舞台で寸劇も・・・」


やりませんよっ


――――


結局バザーの売り子とイベントとしてバイオリン演奏で妥協致しました。

聖女さまとバイオリン演奏って全然関係ないじゃないですか


何か騙された感が・・・



「私も参加するからね」


姫子さん そのコスチュームは・・・


「宮廷魔道師団 アイラちゃんです♪」


同じ作品内で揃えてきましたか

広義では魔道士と魔女・・・ まあ 方向性は同じでしょう。


「恋愛の魔女さんですよ♪」


ノリノリですね。

でもアイラさんはそんなに「爆」では無いと思いますよ。




「これも作っておいたからね」


レースのような生地で作られたケープでしょうか

お揃いで五枚


「聖女見習いにはこのくらい必要でしょ」


なるほど 百合さんは喜びそうですね。


「これを渡す前に『聖女の術』を・・・」


やりませんよっ


――――


作って頂いた恩義もありましてサイズ合わせをしながら試着しておりますと

だんだんその気になってくるのでございます。


参考にと写真まで撮られ・・・げふん 撮って頂いて


ポーズなんかしたりして・・・


姫子さんと並んでみたり・・・


流されてますね。

思った以上に私はチョロイのでございます。


流石に『聖女の術』は発動させませんでしたが『聖女の祈り』のポーズはやってしまいましたね。

祈る恰好をしただけですが・・・


姫子さんは終始ノリノリでございました。

後日、バザーで注目を浴びることになった姫子さんのお話は別の機会に・・・


――――


クリスマス当日 浮かれている雰囲気の音無家でございます。


先日の可愛い淑女さんの来訪以来、今日の日を楽しみにしているのですよ。


私の母が・・・


おかげでランチとは思えない料理が並ぶこととなりました。華やかです。

軽い食事とケーキのはずでしたが、ディナー並みになってしまいました。


そして到着する淑女さんを捕まえてきっちりヘアセットまで行いまして

やり遂げた感を出しておりました。


「やっぱり女の子っていいわね」


だから目の前に居るあなたの娘は女の子ではないのですかっ

ぴちぴちのじゅうななさいの美少女ですよ。


――――


「雪ねえさまのお友達の姫子お姉さんです」


百合さんのご紹介でみなさん綺麗なカーテシー


「可愛らしい淑女さんばかりね」


でしょ でしょ みんな可愛いです。

姫子さんも可愛がりたくなりますよね。


自己紹介しながらきゃいきゃいしております。

こんなに話が合うなんて私たち同世代ですよねっ

(異論は許しません)


食事を終えてデザートの前に・・・


「お姉さんたちもしてくるから少し待っていてね」


一旦 退席致します。


さてと・・・ 覚悟をしましょう。

みなさん喜んでくれるでしょうか。


――――


「お待たせしました」


息を呑む百合さんと水玉さん

おそらく違う意味で驚いていますね。


「雪ねえさま 良いのですかっ」


今日は特別ですよ。


「その服は聖女さまの服ですよね」


水玉さんは原作を知っていますからね。コスプレと思ってくれますよね。


一番慌てているのは百合さん


「みんな 今日は特別だからね。聖女さまは特別っ

 だからここだけで ないしょのひみつですからね」


なんとなく意味は伝わりました。

守ろうとしてくれているのですね。嬉しいですよ。


今日はクリスマス 特別に聖女さまでお迎えしましたよ。


百合さんは原作と同じ『セイ・タカナシ』さんと同じ服装を見て

私が本物の聖女であることを公開したように見えたのでしょう。

キラキラの目で感動してくれています。


でもひとりだけ

「雪ねえさまは本物の聖女さまだったんですか」

百合さん側の淑女がいらっしゃいました。


ないしょのひみつですよ。


そして

「魔女の姫子ですよ」


こちらも衝撃を持って迎えられました。

コスプレ抜きにしてもですからね。


――――


今日はみんなが聖女になれるように贈り物がありますよ。


先輩に作って頂いたケープ

一人一人にかけてあげます。

ドレスに合って素敵ですよ。小さな聖女さまの誕生です。


「私が聖女に・・・」

「聖女さまみたい」


喜んで貰えているようです。

別の意味で盛り上がっている聖女見習いが約二名


これでみなさん『聖女見習い』さんですよ。


「『聖女の術』使えますか」


やはり百合さん気になりますよね。

『いつか分かる日が来るかも知れませんよ』

その時、百合さんが『聖女の術』を使えたのなら私のことを分かって貰えると

思います。


今日はみんなで祈りを捧げましょう。

『聖女の祈り』の日ですからね。


指を絡めて祈りの姿勢 心静かに祈りましょう。


何を願っているのかは分かりません。

でもみなさん目を閉じて何かを心に描いているのでしょう。

この健気な姿 神様がいるのでしたらきっと見てくれていますよね。

彼女たちに幸あれ




『聖なる力よ 心優しき者に幸あれ ブレッシング』



あっ・・・ 勢いで・・・ これは衣装のせい・・・

やってしまいました・・・・


【聖女の術ワンポイントレッスン】レベル2

  必要なもの : 衣装と雰囲気と勢い

          周囲の理解

  いらないもの: 羞恥心


固まる百合さん 感動するご学友さん

何か感ずる水玉さん

お祈りの言の葉と思い聞き流すご学友さん


そして隣でにやにやと笑う親友・・・

一番問題なのは扉のかげで口を手で押さえて笑いをこらえる私の母


あぁぁぁ 音無雪 思考停止モードに移行します。


――――


興奮気味の聖女見習いさん方

ある意味 効果はあったようです。

代償は大きかったですが・・・仕方ないです。雰囲気に流されたんです。

チョロイのでございますです。


帰り際にはみんなに握手を求められてしまいましたよ。

繰り返すようですが、ないしょのひみつですからね。


百合さん あなたにはまだ重要な使命がありますよね。

今年は何を贈るのですか


いまのあなたはとっても美しいですよ。

その姿のまま行ってあげましょうね。


良いクリスマスになりますように


「『聖女の術』で祈ってもらったからばっちりです」


・・・いってらっしゃい



――――


ひーくんのお母さまより打電

オヒメサマキタル


上手く行ったようですね。


「良かったね」


色々ございましたがみなさん幸せそうです。


「『聖女の術』良かったよ。心から素直に出てきた感じがしたよ」


今日はいじめないのですね。

私も素直に口に出たことに驚いています。


「本当の聖女さまに近づいたかな」


違いますよ。今日が特別ですよ。



百合さんはひーくんからの贈り物を胸に騒いでいるでしょうか

ひーくんは百合さんの美しさに驚愕したでしょうか

水玉さん きっと連絡していますよね。もしかしたら・・・


「なんだか私たちだけ置いて行かれたかな」


そうですね。恋人のことを想う夜でもありますからね。


「いまは私で我慢してね」


こちらこそ


「眠くなるまで話そうか」


その前にお祈りしましょう。


『聖女の祈り』の夜ですよ。



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