-3- 洋館のような白壁の家

「ここよ」


 アリスは、街の中心にある森の中に伸びる石畳の階段を指差した。雨に濡れて滑りそうになっている階段を、アリスは慣れたように上っていく。足取りはとても軽い。俺はため息をついて、スーツケースを持ち上げながらゆっくりと階段を上がっていく。


 森の静かな景色を横目に階段をしばらく登ると、急に開けた場所に出た。森に囲まれた見晴らしのいい高台のような場所に、白い壁の洋館が建っている。洋館と表現するには小さいかもしれないが、かなり大きい民家だ。

 軒下にはこじんまりとした花壇があり、色とりどりの花が顔をこちらに向けている。これを俺が手入れするのかと思いつつ、周りを見回す。他の建物は見えない。森に囲まれているからだ。


「すごいところに家を建てたものだなあ」


 思わずつぶやくと、アリスはこちらの顔を伺うように振り向いた。


「気に入った?」

「ええ、まあ」

「それは良かった」


 アリスは元気に笑っている。その軽快さにどことなく付き合いにくく感じているのは、俺が彼女のことをよく知らないからでもあり、彼女がアンドロイドだからだろう。


 軒下に入り雨を払っていると、アリスは装飾された玄関の扉を開けた。中からは暖かな空気が流れてくる。


「さ、入って」


 促されるまま中に入ると、広めの廊下がまっすぐ続いていて、いくつかの部屋の扉が見える。そして木製の階段が2階に続いている。


「広いですね。一人で暮らすには大変でしょうに」

「あら、一人じゃないわよ」

「え?」

「もう一人いるの。ルームメイト」

「……え。ちょっと、聞いてないですよ」


 俺は瞬きしながら、靴を脱いでスリッパに履き替えるアリスをじっと見つめる。

 アリスは視線に気づいて振り向き、俺にスリッパとタオルを差し出した。


「忙しいルームメイトだから、会うことはあまりないと思うけどね。ごめんなさいね、言ってなくて」

「ええっと……その方の了承は」

「こういうこともあるかも、って話はしていたから。心配しないで」


 両手を開いて笑うアリス。まったく、いまいち信用ならないな……。本当に大丈夫か? とにかく靴を脱ぎ、差し出された可愛らしいデザインのスリッパに足を差し込む。


「あら、かわいい」

「……からかってます?」

「まさか、それしかないのよ。堪忍ね」


 アリスはくすくす笑っている。早速洗礼を受けた気分だ。かなり恥ずかしい。


「……いいですよ、もう。無事に部屋を貸していただけるなら、別に」

「とりあえず、荷物を置いてきてちょうだい。あなたの部屋は2階の一番奥の部屋。案内するわね」


 アリスは振り返って木製の階段を上がっていく。俺は濡れたスーツケースをもらったタオルで拭いてから、彼女の後についていった。

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