第35話 懐かしの異世界/丸山コウの独壇場

魔王の力、そして魔王軍四天王たちは──やはり強力だった。


「くっ──!!!」


次々に襲い来る多様な攻撃を、俺は魔力剣ソード魔障壁バリアでやり過ごす他ない。下手に避ければ、わかが居るマシンに攻撃が当たるかもしれない。


「丸山くん……抵抗なんて無駄ですよ。どの個体も、あなたが接戦で制してきた相手ばかり。それを5体同時に相手にするなんて……到底無理なことなんですから」


「うるせぇ……ッ!!!」


俺は先ほどの大月駅前で拾ったナイフを片手に魔力剣を生成し、反撃に転じる。その攻撃は四天王のひとり、ダークエルフの首を正確に刎ねた──が、しかし。


「無駄ですよッ! 夢幻むげんの世界においての生死は私が決めるものなのですからッ!」


エルフの首から上が急速に回復し、再び攻撃魔法を俺に向けて放ってくる。


……キリが無いッ!!!


連続する攻撃の中でも、やはり別格なのは魔王のソレだった。


「──っ!!!」


いつの間にか俺の背後に回っていた魔王の、禍々しい魔力が俺を包み込む。




──【大地砕く渾身撃アース・ブレイカー




魔王の近接攻撃の内で最大級のソレが、来る。まともに受ければ俺の最大強化した魔障壁バリアをもってしても防げない。


「らぁぁぁッ!!!」


砕かれた魔障壁の内側で魔力剣を構え、その攻撃を何とか受け止める。


……まるで見境なしだ。俺が避けて居ればこの研究所が跡形もなく吹き飛ぶほどの力を、魔王はそのまま振るいやがった。


もしかして、この研究所内も夢幻むげんの力が及んでいるのかもしれない。夢幻むげんの世界においてはどんな攻撃が降りかかろうとも、この研究所が崩れることはない……なんていう、到底理解しがたい法則が働いている可能性もある。


だが、もちろん確証はない。


「……仕方ないっ」


とにかく、このとんでもない一方的なチート・フィールドで、しかもマシンを守りながら戦い続ける限り俺に勝機はない。なら──




「行ってやるよ、浜百合ツバメ!」




俺はそう言って──魔王たちの攻撃をかわし、ワームホールへと飛び込んだ。


「なっ──!?」


ツバメの驚く声を後ろに残し、俺はその青色の光が渦巻く孔へと身を沈める。


ギュルルルッ、と。体が巻き込まれていくような、酔いそうになる感覚。


そして──




一瞬の前後不覚の後、俺の目に映ったのは──空。




「──うぉぉぉっ!? 本当に、戻って来た──ッ!」




気付けば俺は仰向けに空を見上げていた。100の天体が明るい水色に照らす、その懐かしき異世界の空を。


「ていうか、なんで上空にいるんだよぉぉぉ──!?」


俺の体は風を切って落下し始める。直後、俺が出てきたのと同じワームホールから複数の影が現れる。


「──ふふっ、まさか自分からワームホールをくぐるとは思っていませんでしたよ、丸山くんっ!」


ツバメと、魔王たちが俺の上に現れる。


「こちらの世界であれば、私の夢幻むげんの力が弱まるとでも思ったのでしょうか……? 残念ながらそれはありませんよ、丸山くん」


ニヤリ、と。ツバメはしたり顔で微笑んだ。


「それに、ある程度は私たちの世界から出口の位置をズラすことができたので……上空にワームホールを設定しておきました。地に足のつかないこの世界なら、丸山くんは本領を発揮できませんからね。あなたは自ら窮地に飛び込んでしまったのです」


ツバメが俺を指差すと、それを指示ととらえて、魔王たちが俺へと一斉に襲い掛かってくる。鳥人やドラゴンだけではなく、これもツバメの振るう夢幻むげんの力の効果なのか、全員が宙を自在に翔けて迫り来た。


「さあ、チェックメイトですよ丸山くん! あなたの魂は私が背負います。そしてこの世界で私が魔王となり、その無念を晴らして見せましょう……!」


ツバメの言葉を、俺は半ば聞き流しながら──大きく深呼吸をしていた。




……ああ、懐かしい。




異世界の澄んだこの青空、そして魔力に満ち溢れる大気。今日、ここに至るまで消費し続けてきた魔力が体の隅々まで充填されていくのを感じる。




俺は、スゥ────と、深く深くひとつ息を吸い込んでから、呼吸を止める。




──【時間遅延タイム・ディセラレーション




俺の周囲の時間の流れが途端に遅くなる。




──【爆発エクスプロージョン




俺は手のひらに集めた魔力を強く爆発させ、空を上へと滑空した。さきほど無重力状態で戦ったときの応用技だ。魔王たちの横をすり抜けて、俺は上の位置を取る。


そして、ポケットにしまっていた、大月駅前で武装解除させたブラック・ブライトの持ち物──大量の刃物の武器を宙へとバラまき、それらに触れる。




──【魔力剣ソード




宙に舞う全ての刃物に魔力が宿る。俺はそれらを投げ飛ばし、




──【魔障壁バリア




魔王、そして四天王たちそれぞれの前後左右へと飛んでいった魔力剣たちを魔障壁の内側へと閉じ込めて、その場に固定する。


……ここまでで俺の体感上は数秒、しかし時間遅延魔法によって実際上の時間経過はゼロコンマ数秒だ。その魔法も解け、再び周囲の時間が正しく流れ始めるが、しかし。


「この数秒で充分だ──魔障壁、解除」


魔王たちの周りに、魔障壁によって固定化されていた魔力剣が露わになる。




「爆ぜろ──ッ!!!」




周囲の大気中に含まれる全魔力を注ぎ込んだ一撃──【超絶・究極・極大爆発ぜんりょくエクスプロージョン】。


俺の【大爆発エクスプロージョン】魔法は魔力を爆発させる魔法。つまり、なにも拳からしか出せないものじゃない。


俺が大きく手を振りかざすやいなや、魔王たちの周りにある魔力剣すべてが大爆発を引き起こす。




「──っ!?」




驚きの悲鳴さえも飲み込む勢いの爆発が周囲を包み込んだ。




──豪快な爆発音の後、宙へ残ったのは俺とツバメのただふたり。




「……なっ!? そんな、バカな……!」


俺の下で、ツバメが目を丸くして息を飲んでいた。


「お、おかしいです……! これまでの、魔王や四天王たちに苦戦していた時の戦闘データに、まるで当てはまらな──」


「だからさ、どいつもこいつも前提条件が不足してるんだよ」


俺は、空中でまたもや爆発魔法を使い、ツバメへと向かって加速する。そして懐から取り出す──わかから借りたままの、その十徳ナイフを。


「俺が空中戦が苦手なのは、守るべき対象が居る時。わかも、これまで【俺を屠るためにわざと俺の足を引っ張ってきた元仲間】も居ない今……俺に死角はない」


「……まさか、苦戦していたのはシルヴィエが居たから……!?」


俺は答えを返さない。十徳ナイフへと魔力を込め、魔力剣を作り出す。


「もうひとつ、訂正しておくよ……。俺がこの異世界に来たのはあんたの夢幻むげんから逃れるためじゃない」


「……!」


「俺は、魔力供給が充分にできる、万全な状態で戦える場所に戦う場所を変えただけだ。その夢幻むげんとやらを、真正面から叩き潰すために──ッ!」

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