第19話 たとえそれが世界を滅ぼすチカラだとしても

──俺たちが着地したのは午前にもかかわらず人気の無い、荒涼とした畑道。


砂利を踏みしめ、俺は生み出した魔力剣をしっかりと握る。


……力は入る。力が入るなら、戦える……!


「……満身創痍まんしんそういだな、少年よ」


「……」


「だが、俺は油断はしない。なぜならヒーローというものは、往々にしてピンチに追い込まれ……しかし、最後まで諦めずに勝利をもぎ取る者たちだからだ」


ジャーマノイドは再びその体に青白い閃光を纏う。


「ハ──ッ!」


雷が一直線に、俺めがけて飛んでくる。




──スドォンッ! 落雷の音が響いた。




「……」


「……? な、んだと……?」


雷が落ちたのは俺から数メートル横にずれた場所。ジャーマノイドが、唖然とした表情を向けてくる。


──俺は、剣を大きく横に振るっていた。


「まさか……空気ごと、電気の通り道を弾き飛ばしたのか……!」


……その通り。雷がジグザグに進むのは、通電性の高い空間へとその進路を選ぶからだ。ならば、剣の風圧でその進路を無理やり変えてしまえばいい。




「──なら、また直接その体に流し込むまでだッ!!!」




ジャーマノイドは飛び上がって俺から離れると、その手に黒鉄の塊を生み出した。恐らくその正体は──砂鉄。電磁波を生み出して、高圧力で砂鉄を固めたのだろう。


「──ハァッ!」


それが、一瞬にしてジャーマノイドの手元から細長く伸びた。黒いひも状の砂鉄が鞭のようにしなって、俺の足首へと巻き付こうとする。


「させないッ!」


砂鉄を介して俺の体に電流を流し込もうという魂胆だろう、俺は魔力剣でそれらを弾き消す。




「──獲った!」




しかし、ジャーマノイドの狙いは他にあった。


「なっ……!?」


地上に落ちるいくつもの影に、思わず上を見上げればそこにあったのは細長い形状の鉄の塊──小型のミサイル群だった。


……砂鉄は囮かッ!!! 


その小型ミサイルらのジェットは機能していない。恐らく磁力で自分から離れた場所──例えば雲の裏側などにずっと浮かせて忍ばせておいたのだろう。


「少年よ、いくらお前がタフであろうと……兵器には敵うまいッ!!!」


「──いやッ!!!」


俺は跳び上がった。そして、その迫りくる小型ミサイル群へと向けて、




「お前らが先に吹き飛べェェェェッ!!!」


勢いよく拳を突き出した。




勇者として習得した魔法のひとつ──【大爆発エクスプロージョン】。




それは、超極大威力の爆発を生み出す攻撃魔法。魔力の消費量が激しく、周辺被害も大きいため【ここぞ】という時にしか使えない魔法だったが……まさか現実世界で使う日が来ることになろうとは!


俺の殴りつけた空間が、濃い紫色へと変色し、渦巻いて歪む。限界までねじれた空間がその圧力に耐えかね……ヒビ割れると同時。




──空気が押しのけられるような爆音が鳴り響く。正面の広範囲に、星を散りばめたような瞬きを放つ紫色の魔力が、勢いよく拡散する。




小型ミサイル群は俺を捉えることなく、【大爆発エクスプロージョン】の奔流に飲まれて小さく爆発し、消滅した。


「ぐっ、クソッ……!」


爆風が吹き荒れ、翼から噴き出す風力で体を支えていたジャーマノイドの体勢が大きく崩れた。


俺はそれを、見逃さない。


「フ──ッ!」


一度地面に着地した後、再びすぐに跳躍。爆風が生み出す衝撃波に飲まれ、身動きの取れなくなったジャーマノイドの正面へ。


「……!」


「隙あらば飛んで逃げやがって……! 墜落しろッ!!!」


「──ガァッ!?」


メキメキッと、ジャーマノイドの背中についている機械の翼を叩き折りながら、地上へと蹴り飛ばす。約30メートル、その距離を垂直に落ちたジャーマノイドは派手な音を立てて地面に小さなクレーターを作った。


「ぐっ──フゥッ!」


「……まだ意識があんのかよ。あの高さ、俺の蹴りの勢い、どんなに頑丈でも内臓にもダメージがいってておかしくない衝撃のはずだぞ……? お前もお前でタフ過ぎるな」


まあ、ヒーローとか名乗ってたし? ヒーローならこれくらいは耐えられて当然なのかもしれないけど……ボコボコにされるのが前提の耐久性重視のヒーローってなんか嫌だな。


「とはいえ、さすがにもう動けないだろ、ジャーマノイド」


「……誰、が……!」


ジャーマノイドが、フラつきながら立ち上がろうとする。


「E.H.Aとかいうトコの所属って言ってたが……他にもまだ、仲間は居るのか?」


「……居ない。他のヒーローは、ここに来る前に俺が倒した……!」


「……? どういうことだ?」


「E.H.A……EUヒーロー協会は、そこの少女──石神 わかを捉え、その永久機関を利用する気でいる」


「っ! やっぱり……!」


魔障壁バリアの中のわかの表情がこわばった。


「だが、それは絶対に……阻止しなければならない。石神 わか……お前は【世界を滅ぼす能力者】だ……!」


「っ!?」


「お前はいつか必ず、この世界を滅ぼす……!」


ジャーマノイドは断言した。


「E.H.Aの感知系ヒーローが石神 わかの能力を知覚した。少女ほどの能力が、それを悪用する国のてに渡ったならば……世界は、終わるんだ……!」


「世界が……終わる……?」


「ああ、そうだ。少年よ、問おう」


ジャーマノイドが、立ち上がるのもままならないその姿で、俺の目を力強く見つめた。


「それでもなお、石神 わかと共に逃げようと言うのか? 俺と直接戦ったお前だ、俺の言葉に嘘がないことくらい分かるだろう!? 俺が、真実しか話していないと!」


「……!」


……ああ、分かる。このジャーマノイドは、わかの命を狙い、殺そうとした。それは絶対に許せることじゃない。


……でもそんな行動の中でも、わかへと引導を渡そうとした場所、俺への言葉、その他の配慮にも信念があった。彼には彼なりの、俺とは異なる正義があるということも実感した。


だからきっと──ジャーマノイドの言葉には本当に嘘などないのだろう。


それを踏まえて、俺は──




「──俺はそれでも、わかを守り続けるよ」




俺もまた、断言した。


「それにな、俺はわかと共に逃げようとしてるんじゃない。ただ普通の恋人として、当たり前のように、楽しくふたりで生きたい……そのために理不尽な結末に抗っているだけだ」


「……その結果として、その少女が世界を滅ぼすとしてでもか……?」


わかは世界を滅ぼしたりなんてしない。それは、わかを利用しようとしているヤツらの勝手だろーが」


「利用されてしまえば、同じことだ……!」




「俺がわかを最後まで守り抜く! 最後まで手放さない! だから誰にもこの世界を滅ぼさせたりなんて、しない……!」




「……この、悪党ヒーローめ」


ジャーマノイドは、悔しげに口元を歪めた。


「ならば、俺は最後まで、俺の正義を果たすまで──!!!」


ジャーマノイドがその体に雷を宿し、俺に向かって放った。


俺はそれを、かわす。


「そうかい、なら俺も俺の正義を果たす! だから──寝てろッ!」


ジャーマノイドの顔面へと、俺の拳が突き刺さる。


「ぐっ……ガァ……ッ!!!」


ジャーマノイドはその体を大きくのけ反らせ、地面へと崩れ落ち──意識を失った。

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