第16話 暗殺者集団

──タァンッ、タァンッ!


はやぶさの車両内に、連続で銃声が鳴り響く。


「ッ!」


俺はもちろん、喰らわない。とっさに【魔力剣】を生成し、すべての銃弾を弾き落とす。


「らぁぁぁッ!!!」


高速で拳を突き出し、発砲してきた後ろの男女たちの意識を刈り取った。


「コウくんッ! 後ろッ!」




──【時間遅延タイム・ディセラレーション】。




わかの声に、俺が頭の中で唱えると──周辺の動きが全て遅くなった。


「さて、と」


後ろを振り返れば、先ほど俺に対してイチャモンを付けてきていたスーツの男が緩慢な動きで俺に飛びかかってきている……その手に逆手に握られているのは鋭利なナイフだ。


「俺のことを殺す気しか感じられないな……」


座席の方を見れば、わかは【魔障壁バリア】の中で目を見張っている。よし、無事だな。


「それにしてもナイフか……【ランク】にもよるけど、危なかったな」


俺は常時発動パッシブスキルで斬撃耐性は付けているけれど……それでもその効果対象はBランク武器までだ。Aランク武器の攻撃では普通にダメージを負ってしまうので注意は必須。


……このナイフはたぶん鉄製、だよな? アダマンタイトやオリハルコンではないはずだ。だとしたら良くてB……いやでも【認識阻害】魔法を付与してる可能性も──




「──って、いやいや。何考えてんだか。ここは日本だろ……」




とっさに異世界基準で考えてしまっていた。現代にはアダマンタイトなどの鉱石は存在しないんだった。向こうじゃそれが命運に直結していたし、敵の持つ武器のランク判定が反射神経レベルで身に染みついちゃってるんだよな……。


「じゃあ鉄製で確定。ってことはCランクだ」


俺は拳でそのナイフの刃を粉砕する。そして次のターゲットはガラ空きのその体。


「なぁーにが、『最近の若いもんは!』だよ!」


体の正中線に沿って顔面、みぞおち、金的に1撃ずつ。両肩に1撃ずつ、両脚の付け根に1撃ずつ。


わずかゼロコンマ数秒での殴打の7連撃を男へと見舞う。


そして、【時間遅延タイム・ディセラレーション】は解除された。




「ヘブブブベブブフぇッ!?!?!?」




スーツの男はきりもみ状に宙を回転しながら、新幹線の前の車両目掛けて吹き飛んでいく。


「──! 잘!」


「あ?」


乗客ども、なんか言語を突然変えてきたので、とっさに【翻訳魔法】を使っておく。


「──いいか、ただの護衛と侮るな! 連携で確実に殺せッ!!!」


元乗客たちはその掛け声とともに、一斉に俺目掛けて凶器を持って襲い掛かってくる。


「コウくん! 韓国語よっ! 連携して確実に殺せ、って!」


「どっちかは知らんが朝鮮半島からの刺客か……! ちょっと座席から離れて戦うけど、その魔障壁バリアからは出ないように!」


「分かったわ……お願いだから、気を付けて!」


「任せろっ!」


ナイフ、刀剣、針、拳銃。様々な武器を駆使する男たちからの攻撃をさばいて、ひとりひとり意識を奪っていく。


……それにしても、キリがない。


俺が前方車両方面の敵を倒していると、後方車両方面の敵がわかへと近づこうとしてきて、そのまた逆もしかりだ。


刺客たちも強い。何かの武術をしっかりと習得しているようで、とにかく俺の方がフィジカルが強いから何とかなっているが、それでも適当な攻撃じゃ一撃で仕留められない。


……一度、わかを何とかして移動させて、俺が戦いにだけ集中できる環境を作った方がいいんじゃ……!


そう思い、わかの方を振り向いた直後だった。




──ギィンッ!




鉄を裂く音が聞こえた。


若が身を縮ませて座っている座席付近の壁・床に、焼き切った跡のようなオレンジ色の線が浮かび上がる。


──ゴトッ。


そして新幹線はやぶさのその一角が──落ちた。


「……はっ?」


それはまるでホールケーキから1ピースをカットしたように。周りの座席を避け、わかの座るその席だけを綺麗にくり抜いていた。


「──コウくんっ!」


わかッ!!!」


急ぎ、駆けよるが遅かった。


時速320キロのはやぶさから、そのわかを乗せた座席は振り落とされ地面へ叩きつけられると──大破した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る