第14話 東北新幹線

「──ところで、永久機関ってどういう形をしてるんだ?」


電車で揺れること10分、特に話題が無かったのでそんな話を振ってみる。


「さあね。私も見たことはないから」


わかからは、そんな気のない返事が返ってきた。


「というか、想像もつかないと言った方が正しいかもね。だって、私は私の【超能力】が何であるかを知らないんだもの」


「……え?」


自分の超能力を知らない? どういうことだ、そんなことがあり得るのか?


「知らされてないのよ。超能力の発現後に、何も」


俺の疑問を見透かしたように、わかが言う。


「超能力なんていうのはそもそもね、自分が何をできるのかが分からなければ使いようが無いのよ。だから、研究者たちが私に対して『あなたは○○の力があります』と伝えてくれない限りは無力なの」


「そういう……ものなのか」


「ええ。まあ、ケガがすぐ治ったり、人の心が読めたり、そういう分かりやすい能力だったらすぐに自覚できるでしょうけどね」


なるほど、そういうものか。自分が超能力を持っているのにその正体を知らないなんていうのは少し歪にも感じたけれど……当のわか本人は対して気にもしてないようだ。


……なら、別にいいか。




そんなことを考えつつ、俺たちはJR東京駅へと到着した。




「みどりの窓口へ行きましょう」


俺とわかはそこで、東北新幹線はやぶさの指定席を取ることにした。まだ朝だったからか、9時10分発の新青森行きはまだ結構空いていた。


「窓側がいいわ! 窓側! ねっ!?」


例のごとく、わかはちょっと興奮気味だった。


……クールな性格かと思いきや、朝ムックで喜んでいたり、新幹線で喜んでたり……結構面白いよな、わか


いっしょに行動していると次々に新たな一面を知ることができて、俺はなんだかちょっと嬉しい。


東京駅構内で駅弁を買い、新幹線の出発15分前にはホームへ。時間になると、エメラルドグリーンのスタイリッシュな新幹線がスッと目の前に止まった。


「これが国内最速のスーパートレイン、はやぶさ……! なんて美しいフォルムなのかしら……!」


「確かにかっこいいなぁ……」


「いいかしら? コウくん、はやぶさはね、日本が積み重ねてきた英知の結晶なのよ? 時速320キロを安定させるために着目されたのは線路設備! これがどう特別なのかというと──」


「はいはい。話は中でゆっくり聞くからね、後ろ詰まっちゃってるから、乗るよ」


目をウットリとさせるわかの背中を押して、俺ははやぶさへと乗り込んだ。




新幹線に乗るのなんて、中学校の修学旅行以来だ。2人掛け席の窓側へと座るやいなや、わかはボイスレコーダーを取り出した。


「4月30日午前9時5分……念願叶ったわ。最高の気分。まさか人生で新幹線に乗れる日がくるなんて……!」


「……そういえば今朝からちょくちょくやってるけど、それなに?」


「? ボイスレコーダーよ?」


「それは見れば分かるんだけどさ……なんで録音?」


「決まってるじゃない。それが一番鮮明に記録を残す術だからよ。声には文字には無い情報がたくさん詰まっているわ。それに、メモは容易に改ざんされる恐れがあるけれど、声の改ざんは難しいもの」


「なるほど……」


「私が信じるのは事実と論理と前に言ったわね。機械は論理的に動く上、ボイスレコーダーは事実だけを残してくれる……信頼に値するわ」


「すごいわからしい理由だな。相変わらず考え方がクールだ」


「あ、でも……もちろん、今は事実と論理以外にも信用しているものはあるのよ?」


「えっ? なに?」


「言わせるの?」


わかはいたずらっぽく微笑んだ。


「あなたよ、コウくん」


「え、あっ……」


「フフ、照れたわね」


「そりゃ、いきなり言われると……でもその、ありがたき幸せです」


「なんで武士言葉よ」


あははっ、とわかが笑う。


俺はなんか1本取られた感覚で、決まり悪く辺りを新幹線の通路の方を向いた。


GWの連休だからか、こんな朝からもたくさん人が乗車するようで通路は人が慌ただしく往来していく。


「……?」


ただ、なんだろう? 猛烈な違和感があった。


……なんか、おかしい気がする。でもなにが?


立ち上がる。辺りを見渡す。乗客がたくさんいて、満席になっているだけだった。


「どうしたの?」


「いや……なんでも、ない。と思う」


「歯切れ悪いわね」


わかは首を傾げ、


「それよりもワゴン販売はいつからかしら? 私、熱々コーヒーとカチカチでキンキンなアイスを頼んでみたいのだけれど」


ひたすらソワソワとしているだけだった。

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