第10話 永久機関と世界と若

──石神 わか。彼女が全世界に命を狙われる理由は……【永久機関を実現する超能力者】だから……?




「……なんで?」




俺の口から出たのは、純粋な疑問だった。


「いや、だって……永久機関ってあれでしょ? 長年研究されてきたものの、まだ誰にも実現できてないっていう……」


「そうよ」


「アレって確か、永続的に勝手に動き続けるから、理論上は無限のエネルギーを供給出来て……実現できたらエネルギー問題とかも解決して、すごい便利な世の中になるってだけのヤツじゃ……」


「あら、よく知ってるわね? おおむねその解釈であってるわ」


「じゃあ、なおさらなんでだ? 良いことづくめじゃんか」


「それがそうとも限らないのよ」


わかは肩を竦めて言う。


「仮に永久機関の理論が発明されたというのであれば素晴らしいことよ? でもね、今回の場合、永久機関を実現できるのは【私1人】だけなの。この意味が分かる……?」


「……あ、もしかして永久機関は、君がいる国でしか利用できない……?」


「そういうコト」


わかはウンザリしたように眉をひそめて、ウーロン茶をちゅるちゅる吸った。


「無限のエネルギーを得たいばかりに私を確保しようと躍起やっきな発展途上国もあれば、現在のエネルギーバランスを崩したくないがために私の命を狙う先進国や資源大国もいる……日本の研究所もそうだった」


「研究所?」


「ええ。日本先進科学開発研究所、その存在を知る人からは【JAS.Labジャス・ラボ】と呼ばれているわ。元々私はそこで研究員として働きながら暮らしていたのよ」


わかは小さくため息を吐いた。


「能力測定という名目で検査を受けていく過程で、私は、私の能力が永久機関作成に利用されている可能性にたどり着いた。研究室内部からデータサーバーをハッキングしてみたらビンゴだったわ。

 検査データにはところどころプロテクトがかけられていたものの……その裏の目的のほとんど全てがエネルギー生成に関するものだったのは間違いなかった。そして、間近に【最終実験】が迫っていることを知ったワケ。……それが約1カ月前の出来事よ」


「それで、研究所から逃げ出してきたのか……」


「ええ。その実験が終わったが最後、私に自由はなくなると直感したから」


超能力研究が日本で現代にも行われていたなんて話、以前の異世界に転移する前の俺が聞いていたら鼻で笑っていただろう。でも、さまざまなファンタジーの現象をこの肌で体験してきた今、俺にはそのひとつひとつの話はとてもリアルで、実感深かった。


「……まあ、最初から私に自由なんて無いようなものだったけれどね」


「……どういうこと?」


「私はね、JAS.Labジャス・ラボの研究過程で、超能力が宿りやすいように遺伝子操作された受精卵から生み出された人間なのよ」


「……!」


「私の存在、それ自体が国家機密でもある……ってワケ。もう分かったでしょ、私がこうして狙われている理由。全世界が敵だと言ったその理由が。どうあっても私は研究や、永久機関や、交渉材料として使われる道しか用意されていない、そういう【モノ】なのよ」


わかはそう言って儚げに笑う。


「……以上が、私を取り巻く話の全容よ。分かったでしょ? 私の敵は途方もなく大きなもので……決して敵対してはいけないものだって」


「ああ、分かった」


俺は頷いた。




「──どこの国も、研究所も、大人も……自分の利益だけに目が行って、君のことなんて少しも考えようとしようとしない、クソばかりだってことが」




俺は、それがとてつもなく腹立たしかった。


今の説明の中に……どれだけ石神 わかという女の子に関わることがあった? まったく、どこにもないじゃないか。みんな見ているのは彼女に宿っている超能力のことだけだ。


「分かるよ、永久機関ってのが喉から手が出るほど欲しいものだって。何百万、何千万……何億人の暮らしに関わってくることなのかもしれないって。でもそれは……誰かひとりに、君にジョーカーを押し付けていい理屈にはならないだろ……ッ!」


「……丸山くん」




「──俺はやっぱり、君の味方でいたい。君のことが好きだから。君を守るために動きたい」

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