第9話 狙われる理由

消毒はいちおう無事に終わった……のだけれど。


「……」ムスッ


「ごめんて……ワザとじゃないんだよ、怒らないで……?」


「……別に怒ってないわよ。頼んだのは私だもの。どうもありがとうございました!」グスッ


うーん、涙目。痛いの、本当に苦手なんだなぁ……たぶん注射とかもダメなタイプだろう。


「……ごめんね?」


「もういいの! それより……話を進めましょう」


わかはウーロン茶をひと口飲むと切り出した。


「改めて訊かせてほしいの。丸山コウくん……あなたはいったい何者なの?」


「何者って……」


「あなたが私の味方だってこと、その理由も……いちおう分かったわ」


テレたようにわかは言う。


……まあ、一目惚れだの初恋だの、オブラートにいっさい包まず伝えちゃってるからね。そういう反応をされるのも仕方ない。


「分からないのはその【力の源】よ。研究所に居たときもあなたのウワサなんて耳にもしたことが無いわ。いったいあなたはどういった存在なの? 超能力者? 魔術師? あるいは……もっと別の……?」


「ちょっと待って? それに答える前に、俺も聞きたいんだけど……」


「なにかしら?」


「超能力とか、魔術とか……そういうのって、ぜんぜん一般的ではないよね? なんていうか、ファンタジーの世界の産物っていうかさ……。君は信じてるの?」


「『信じてる』?」


わかはキョトンとした。


「信じるも何も、今しがた目にしてきたところじゃない。夢でもファンタジーでもないわ。私にとって、アレはただの現実よ。だいいち、あなただって十徳ナイフから剣を生み出したり、何もないところから障壁を生み出したりしていたでしょ?」


なるほど、どうやらこの現代にもそういう特別な力は【在る】らしい。一般的には認知されておらずとも、知る人は知っており……そしてわかは知っている人間なのだ。


……であれば、俺の出で立ちも信じてもらえるかもしれない。




「実は、俺──」




俺は話すことにした。


実はつい1カ月前まで【異世界】へと転移していたこと。そしてその世界で勇者として剣と魔法を鍛え上げ、魔王を倒し、こちらの世界に戻ってきたことを、全部。


わかの反応は──




「──ふっ」


「あれぇ?」


すっごい鼻で笑われた。


「え、もしかして全然信じてません……?」


「そうね、だってまるで厨二病の妄想だもの。でも安心して? 私は信じてるわよ」


「えっ……?」


戸惑う俺に、わかは微笑んだ。


「さっきからあなたの反応は新鮮なものばかり。超能力も魔術も霊能力も……きっと本当に知らなかったんだろうってことは分かったわ」


「うん……まるで聞いたことなかったよ」


「にもかかわらず超常の力を扱える理由……異世界というフィルターをかけて考えれば、確かに納得できるもの」


饒舌じょうぜつに、わかは語る。


「それに、あなたに仮にどこかの組織の息が掛かっていたとして……だとしたら、昨日の接触の時点で無理やり私を拉致しない理由が無いわ。だからあなたは本当に、純粋に私の味方で居てくれるんだろうって判断できる。であれば、今私に対して無意味な嘘を吐く理由も無い……以上、Q.E.D.証明完了よ」


「お、おぉ……すごい、論理的だね……?」


「事実と論理は裏切らない。そして人の行動は意識的であれ無意識的であれ、全て論理に紐づくもの……」


おお……クール系な見た目の通り、思考回路も大変に理知的らしい。


「でもまあ、俺が君に声をかけた理由は論理すっ飛ばした感情的な行動だけどね。一目惚れっていう」


「……///! それは、置いておいて!」


顔を真っ赤にして、わかは話題を変えようとする。めちゃくちゃウブな反応である。わかちゃん可愛い。


「コホン……まあ、大体あなたがどの程度【この件】に関わっているかは分かったわ。ほとんど無関係ってことがね」


「【この件】?」


「……あなたにはちゃんと話すわ、全てを。それが私があなたに返せる最大の誠意であり、感謝の気持ち」


わかはひとつ息を吸うと、真剣な表情で口を開く。




「私は──【永久機関を実現させる超能力者】なの」


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