第13話 一か八か

「・・・ん?・・・ここは?僕なにしてたんだっけ?」


何かの振動でレオは目を覚まし、自分の状況を把握しようとあたりを見回そうとした。


しかし何故かうまく動けない。異変に気づき自分の体を見ると、ロープで縛られていることに今更気付いた。


横ではマシューも同じようにロープで縛られており、2人とも身動きが取れない状況で、さらにその奥には体格の良い男が1人座って寝ていた。


そこまででようやくレオは、院長から逃げようと窓からの逃走を図った後に、布のようなものを口に押し当てられ、そこから意識がなかったことに気付いた。


(まずい、最悪の形になっちゃったな。もうちょっと早く院長の違和感に気付いてマシューに声をかけられればもっと違う未来があったかもしれないのに。


いや、反省よりまずはここからどうするか考えないと。とは言うものの、自力での脱出は無理だしどうすれば良いんだろう。

交渉したいけど、僕らが差し出せるものなんてないし無理だよな。


・・・あの男のベルトにあるナイフを取れればなんとかこのロープ切れないかな。

どうせこのままの状態だったらどこかに売られて、そこで良い環境が待ってる可能性なんてほぼないんだ。だったらここで一か八かに賭けるのもありか?


正直今出来るのはそれくらいだと思う。

・・・やるしかない。)


それ以外の方法が浮かばなかったレオは、寝ている男へとじりじりと這い寄り始めた。


全身をロープで縛られているため、ゆっくりと徐々に徐々に男へと近付き、ついにナイフへと手が届いた時、


「さっきから何してんだガキ。逃げようなんて考えんのはやめろや。捕まえるのがめんどくせぇだろうが。もう睡眠薬もねぇから力加減間違えたら殺しちまうぞ。商品だから殺すのはまじぃんだけどよ。」


男はレオの接近、そしてレオがやろうとしていることにも気付いていた。


その上で、レオに警告をした。睡眠薬が無い今、次逃げようとしたら力で気絶させることになる、と。


「・・・なんでこんなことをするの?」


「なんでって?そりゃ金になるからだろうよ。しかもお前ら孤児がいなくなったところで、悲しむ奴も探す奴もいねぇからよ。

あの協力者の院長もいたから、こんな簡単で大金が手に入る仕事やんねぇなんてありえねぇのさ。まあ、死んじまった両親でも恨んどけや。」


レオは久しぶりに人の醜さを肌で感じ、心が冷えていくのを感じた。


「ってわけだからよ、俺はもうちょい眠りたいし大人しくしとけや。次はねーぞ、ガキ。」


(マシューと2人で過ごした時間が長くなって、忘れてたわけじゃないけど実感出来てなかったな。

やっぱり人って信用できないな。

・・・とりあえずしばらくしたらマシューも起きるだろうし、そこからまた考えるしかないな。)





しばらくすると男はまた一定の呼吸音を立てながら眠りにつき、それとほぼ同時にマシューの意識が戻ってきたのにレオは気づいた。


「マシュー、大きな声を出さないでね。今僕たちは、縛られて馬車に乗せられて移動させられているところだよ。

なんとか脱出できないかと思ってそこにいる男の腰のナイフを奪おうとしたんだけどバレちゃった。ごめんね。」


レオは一気に小声で今の状況をマシューに伝え、意識が覚めたばかりで何が起きているかわからなかったマシューも今の状況を理解し、真剣な面持ちになった。


「・・・一回バレてんのはいてぇな。もう同じことはできないから他の方法を探そう。

このまま行って幸運だったなんてのがあるわけないことくらい俺でもわかるからな。」


2人は頷き合い、何か脱出する方法がないか探り始めた。


「・・・うっ!いってぇ・・・なんだこれ?あぁ、釘かよ。刺さったかと思ったぜ。」


急にうめき声が聞こえたレオがマシューの方を見ると、馬車の床から飛び出た古びた釘が見えた。


所々錆びついているが、先端はしっかり尖っている釘を見てレオは、


「その釘でロープ切れないかな?時間かければ。錆びてるけど、それが逆にノコギリみたいになって切れるかも。マシューすぐにやってもらって良い?」


マシューは頷くと、すぐに行動に移した。


体の自由が効かないためかなり難航したが、徐々にロープが切れていくのをマシューは感じていた。




そしてついに、


「・・・っ!やばい、ついでかい声出しそうになっちまった。レオ、しっかり切れたぜ。良い具合に錆び付いてなかったら無理だったな。レオのロープもほどくから少し待ってろよ。」


喜びの感情を押し殺しながらマシューはレオにゆっくりと静かに近寄り、ロープをほどき始めた。


「・・・なんだこれ、かてーな。ここをこうして、こうして・・・・よし、もう少しだ。ほどけたらすぐに逃げ・・」

「2度目は無いって言ったよな?クソガキが!」


ハッとしてレオが上を見上げると、そこには眼前に迫る男の拳があった。


レオとマシューがロープをほどくのに夢中になっているのに男は気付いていた。


もちろん2人は、寝ていれば気づくはずのないほどの最低限の音しか出さずに、警戒しながらの作業を行なっていた。




2人はまだ知らなかったのだ。この世界には特殊な能力を持った人間がいることなど。


頭が回ると言ってもまだ6歳の2人。根底の知識はまだまだだった。




しかしその時、ドゴッ!という大きな音と共に大きな衝撃が馬車を襲った。


レオを殴ろうとしていた男であったが、商品となることがわかっていたため殺す気は無く、気絶させることを目的とした殴打をするはずだった。


だが、殺すつもりのなかった拳の軌道と勢いは衝撃によって変わり、レオの眉間へと直撃。


それにより大きくのけ反ったレオは壁に後頭部を強打し、レオの後頭部からは大量の血が流れ出た。


「やっべ、やり過ぎた。死んでねーだろうなこのガキ。だからガキの子守りなんてやりたくねぇって言ったんだよ。

てかなんだ今の衝撃は。おーい、ハミル!!何があった!!」


「レオ!!大丈夫か!聞こえてるか!?めちゃくちゃ血出てんじゃねーか!

おい!お前ふざけんなよ!レオは大丈夫なのかよ!?」


「ちっ、うるせーな。だいたいお前らが大人しくしてねーのが悪いんだろうがよ。

けど、上から怒られんのも面倒だな。どうすっかなこれ。」 


しかしそんな状況の中、外からは怒号が響いてきた。


「うわぁ、マジか盗賊かよ。めんどくせぇがおれも出るしかなさそうだなこりゃ。

そういうわけだからオメェら黙って大人しくしとけよ。これで外出たりしたらまじで殺すかんな。」


男はそう言い残すとさっさと馬車から降りて外へと行ってしまった。


「おい、レオ!!聞こえてるか!

クソ!!駄目だ、とりあえず傷口を押さえねーと!レオ!しっかりしろ!レオ!」


マシューは必死にレオに呼びかけながら、自分の上着を脱いでレオの血を止めようとした。


しかし、溢れ出る血は止まる様子を見せず、レオが応答することもなかった。






(マシューの声が聞こえるな。殴られて痛いはずなんだけど、何も感じないな。今はとにかく寒いや。

・・・死ぬのかな、僕は。・・・死ぬんだろうな。お父さんとお母さんが殺されてから、完全におかしくなっちゃったな。


ただ、マシューと会えたことは僕の誇りだ。お父さんとお母さんがいた日々と、マシューと過ごした日々があっただけで後悔は、ないかな?


・・・いや、綺麗事か。もっと遊びたかった。もっと勉強もしたかった。マシューと冒険者にもなってみたかった。もっと、もっと!やりたいことがたくさんあった!


何より、僕はもっと愛されたかった・・・!血が繋がってなくても、家族と呼べる。信用できる人が欲しかった。常に疑い続けるのは辛かった。


マシューはいたけど、僕を愛して包みこんでくれるような存在じゃなくて、僕の気持ちをわかってくれる理解者であり、絶対に裏切らない親友のような存在だったから。


そんなマシューを残して悲しませるのは辛いけど、駄目だな。もう意識が保たなそう。


ごめんマシュー。マシューには強く、幸せに生きてほしい。君ならやれるさ。いつかこっち側に来た時にいい話を聞かせてもらえるように待っておくよ。


ふぅ・・・それじゃ、またね。)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る