第12話 運命の分かれ道

「「「「「ごちそうさまでした!」」」」」


いつも通りの美味しい夕食。


孤児院の子供達がいつも美味しいご飯を作ってくれる院長へ感謝を持って挨拶をする中、マシューとレオは院長の様子を伺っていた。


「・・・院長はいつも通り大部屋に行ったな。行こうぜレオ。」


「いよいよだね。緊張してるし怖いけど、ここで覚悟決めて頑張らないと。もし見つかった時の逃げ方はさっき話し合った通りにね。

・・・よし、行こうマシュー。」


かくして2人は、周りに怪しまれないように普通を装いつつ、激しく鼓動する心臓に気付かないふりをしながら院長室へと向かった。





キィーー・・・・


立て付けの悪いドアをできるだけ静かに開けて、2人は院長室へと初めて足を踏み入れた。


部屋は簡素なもので、必要最低限の家具しか置いていなかった。


しかし、奥には簡素だからこそ目立つ立派な書斎机があった。


他に資料が並ぶ棚などがないことから2人は、その書斎机に目を付けて証拠探しをすることにした。


「マシュー、僕はこっちの左の三列の引き出しを探すから右の三列を探して。」


「おう、わかった。急ぎ目でいこう。」




「・・・ないな。こっちは買い物の記録とか生活用品とかの記録ばっかりだ。そっちはどうだレオ。」


「こっちも怪しいものは何もないよ。この引き出し以外にパッと見でわかる隠し場所もないし、どうしようか。」


「・・・悔しいけど今日は撤退じゃないか?この時間は院長がいないって言っても部屋をくまなく探すには短時間過ぎる。

見つかるよりは一旦出直してまた今度時間を見つけて来るしかねーよ。」


「・・・そうだね、そうしよう。ここでこのまま探し続けるのは流石に無理そうだ。元の位置に書類を揃えて早く帰ろう。」


2人は今回の捜索を一旦諦め、また出直すことを心に決めて撤退することにした。


そしてレオが書類を戻し終わり、マシューの方を振り返ったその時、


カチャ・・・キィーー。



「お探しのものはこれかしら?」


そこには今もっともこの場にいて欲しくない、院長の姿があった。




レオとマシューは驚きのあまりその場で硬直した。


それでもマシューより一足先に現実へと帰ってきたレオは、


「な、なんで?」


という一言を絞り出すことが精一杯だった。


「なんでと言われたら、あなた達の動向に気付いていたからというしかないわねぇ。」


企みが成功した子供かのように、ニヤニヤと笑いながら院長はレオに向けて言い放った。


「そ、その紙は何?」


「何って、あなたが1番よくわかってるんじゃない?思ってる通りのものよ。」


「何で!何で知ってるの!?」


レオは混乱していた。自分たちの部屋で話していた時は終始小声で、部屋の外に聞こえるような声では一度も話していなかった。


マシューが密告したとも思えないし、何よりマシューの今の表情が演技だとも到底思えない。


「んふふふ。私普段は隠してるけど、風魔法が少し使えるのよ。それで風魔法にはね、風の通り道さえあれば音を拾える魔法があるのよ。


今日あなた達の、特にマシューの様子がおかしい上に私の方をチラチラと見てることに気づいてね。

前々からあなた達が私のことを信用してしていないのは気付いてたし、今日に限ってあなた達がそんな様子なものだからおかしいなと思ったのよ。


だから、あなた達の部屋の音を拾って聞いてたの。幸いこの建物は古くて隙間風が通る場所なんていくらでもあるからね。


ま、そういうことであなた達の企みを知ったってわけ。わかった?」



5歳の頃、混乱の最中にあった自分さえも魅了した魔法は6歳になった今、最悪のタイミングでレオに牙を剥いた。


風魔法で盗聴できることなど知る由もないレオにそんなことを予測しろなどということは無理な話だった。


「で、それを聞いて自分たちが正しかったことを確認できたあなた達はどうするつもりなの?」


それを聞いて我に帰ったレオは、マシューに目配せをした。


一瞬の目配せでレオの意思を汲み取ったマシューは、次の瞬間後ろを振り向き院長室唯一窓へと走った。


当然それと同時にレオも走り出し、ほぼ2人同時に窓から外へと抜け出した。


その時、レオはチラッと後ろを振り返り院長の動向を確かめた。


しかし、院長は意外にも追いかけて来ずに、先ほどと同じ位置で、同じ笑顔でこちらを見ているだけだった。


それを見たレオは嫌な予感がした。


(なんであんな余裕そうなんだ?この情報を僕たちが他の人に話すかもしれないのに。


・・・あれ?院長は盗聴してたんだよな。それで僕たちが院長室に忍び込むのを知って来たくらいだし。

てことは、僕たちがどうやって逃げるかも知ってるはず。だとすると・・・!!)


「マシュー!!止まれ!!」


「え?」


レオが勘付いたころには時すでに遅し。2人はすでに窓から出てしまっていた。


そして横の草むらからは大柄な男が1人。


2人は一瞬で男に包み込まれ、口に布を当てられたと気づく頃には意識を失っていた。





「頭が良いと言っても所詮子供ねぇ。

あぁ、面白かった。


さて、明日の朝ごはんの用意でもしましょ。」


院長はいつも通りの日々へと戻っていった。

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