第10話 浮かび上がる疑念
マシューが同じ匂いを嗅いだことがあるという3カ月前には、今日と同じく養子として孤児院の子供を引き取りに来た者がいることをレオは思い出した。
(まあ、だからってなんの関係があるかって言われたら、わかんないけど。マシューが言った3ヶ月前とそれが同じ日なのかどうかもわからないしなぁ。
ただこれくらいしか共通点が見つからないのも事実だし・・・どうしようかなぁ。
ここでマシューの勘違いでしょって終わるのは簡単だけど、マシューの勘はよく当たるしモヤモヤするなぁ。)
「なんかわかったか?レオ。」
虚空を見つめ、思考の海へ潜っていたレオの様子が変わったのを見てマシューがレオへと問いかけたが、まだか細い糸口をつかんだだけのレオは、
「マシューが言ってた、3ヶ月前にも同じ匂いを嗅いだっていうことについてなんだけど僕も、3ヶ月前に今日と同じく養親が来てたのを思い出してさ。
でも、それがどう繋がるかがわからなくてね。もうちょっと考えてみるよ。」
「そうか。俺も少し考えてみるわ。」
(まあ、そうは言ったものの3ヶ月前のことなんて細かく覚えてるわけないんだよなぁ。一旦この情報だけで考えてみるしかなさそうだなぁ。)
余りにも限られた情報ではあるが、マシューの勘を信じてレオはまた深く考え込み始めた。
(・・・そもそも僕たちは院長のことを信用出来ていない。初対面の時から、なんというか嘘くささ?みたいなのがあったからなんだけど。
それで院長に何か隠し事とかがないかマシューと探ってるわけなんだよね。そんなところに今回の出来事があったわけだし、無関係とは思えないなぁ。」
レオは院長が隠していること、または孤児院の子供達に嘘をついているという自分の直感と、今回の出来事に因果関係があると考えた。
またしばらく考え始めたが、レオはふと初めて院長と対面した時のことを思い出した。
「では、この子をよろしくお願いします。」
「はい、お任せください。」
「それでは我々は王都に戻りますので。失礼致します。」
「はい、お気をつけください。
・・・初めまして、レオ君。ここにはレオ君と同じような過去を持つ子達がたくさんいます。きっと仲良くなれる友達も見つけられるはずです。大丈夫です、これからは私がレオ君を守りますから。」
院長はそこまで言うと、レオを優しく抱きしめて頭を撫でてくれた。
一見すると、聖母の如く優しく温かい場面に見えるが、レオは鳥肌と嫌悪感が止まらなかった。
(この人・・・気持ち悪い。嘘しかついてないし、何か隠してる!絶対に信用しちゃいけない人だ。)
これがレオと院長の初対面だった。
院長と初めて会った時のことを思い出していたレオは、
(そうなんだよなぁ、なにもかもが嘘くさくて絶対に信用できないってすぐに思ったんだよあの時。その後、マシューっていう心から信用できる友達というか、家族みたいな存在ができたわけだけど。)
と心の中で思い、改めてマシューの存在のありがたさに思いを馳せた。
そんな時、レオはふと気付くことがあった。
(そういえばあの時は院長の存在自体が気味悪すぎて考えてなかったけど、院長の言葉に本当のことを言ってるって思える部分が一つもなかったな。
・・・てことは、院長が僕を守るっていう言葉も嘘ってことになるよな。
でも特に雑に扱われたこともないし、僕たちが気味悪がってるだけで何か具体的にされたわけでもない。
なんであれを嘘だと思ったんだろ。直感的に思ったことだし、僕は嘘や隠し事をしてるのがわかるから、嘘なのは確定だと思うんだけど・・・)
ここにきて、レオは今回の件では無く院長との初対面での感覚を疑問に思ってしまった。
(普段の生活の中で雑に扱われていないってことは、これから何かあるのかな?
でも、仕事が決まった人達は普通にこの孤児院から去っていったし、たまに元々この孤児院にいた人が顔を覗かせるくらいだから、全員におきるものじゃなさそうだよね。
てなると僕個人をターゲットにってこと?いやでも、あの時点で僕だけがターゲットになる理由がわからないな。
・・・あれ?養子に行った人でここに顔を出した人っていたっけ?
新しくできた家族がいるからもうここには来ないっていう見方もできるけど、1人も来ないことあるかな。)
レオは、孤児院卒業生達がこの孤児院に物資を提供しにきてくれたり、院長に挨拶をしにきたりすることを思い返すうちに、養子として孤児院から出ていった者たちがその中にいないことに気が付いた。
(僕はほとんど他の人と関わることがないし、もしかしたら中には養子になってこの孤児院から出た人がいたのかもしれないけど、記憶の中ではないな。
今回の件と関係があるかはわからないけど、かなり院長の秘密に近づけそうだぞ。
本当にあの人達は養子としてこの孤児院を出て行ったのかな。
もしそうじゃないとしたらいったい・・・)
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