第9話 引っかかること

「おいレオ、今日養親?とかいうのが来るらしいんだけどなんか知ってるか?」


「あぁ、結婚してるけど子供が出来ない人とかが、

親がいなくなった僕たちを子供として育てる、みたいな感じだった気がする。」


「なんだそれ、そんなのあんのかよ。死んでもごめんだな俺は。家族ごっこを今更するなんて反吐が出る。」


「安心していいよ。普段みんなの輪に入ってないような僕たちが選ばれるようなもんじゃないから。もっと素直で良い子の方が好かれるだろうしね。」


とある朝、マシューがどこからともなくそんな情報をつかんできた。


自分以外に友達もいないのに、どこでそんな情報収集をしてくるんだと、呆れ半分でレオは聞いていた。


「まあ、でも僕も今更いらないかな。マシュー以外信用する気にもなれないし。」


「・・・お前って急にそういうこと真顔で言うよな。俺も同感だけどよ。

てか、この孤児院には15歳までいられるけどレオはどうするつもりなんだ?

俺は自由に動けるし、冒険者にでもなろうかと思ってんだけどよ。」


「冒険者は8歳から登録できるらしいし、孤児院から早く出て行くのにも丁度良いんじゃない?

マシューが行くなら僕も行くよ。戦い方とかわかんないからそこはどうしようね。」


「お、レオも一緒に来てくれんなら冒険者で決まりだな。

戦い方は〜・・・まあ、やってりゃそのうち身につくだろ。・・・多分だけど。」


会話の流れで2人の将来設計が決まったところで、勉強の時間となったため2人は孤児院内の教室へと向かった。






孤児院では、一人一人を学校に通わせることのできる余裕はないため、各孤児院の職員が最低限の勉強を教えている。


レオがいる孤児院は全20名で大所帯ではないため、職員は院長1人であり、当然院長が20名全員の面倒を見ている。


5歳から12歳までの子供達がいるこの孤児院では、8歳までに社会に出るために最低限の勉強を終わらせる。


そのため、9歳以上の子どもたちは勉強の時間ではなく読書の時間として静かに過ごす。


教室の右端では使い古した教科書を手に、院長が子供達に勉強を教えている。


しかし、そこにいるはずの年齢である6歳のレオとマシューは、9歳以上の子供達と一緒に教室の左端で読書をしていた。


2人は孤児院を胡散臭く感じているため自立志向が強い上に、地頭がいいこともありすでに最低限の知識を詰め込み終わっていた。


そんなわけでいつものように読書をしていたレオだったが、横に座っているマシューが小声で話しかけてきた。


「レオ、この時間が終わったら少し話したいことがある。一旦部屋に戻ろう。」


この読書の時間を終えると、庭に出て木の下で遊んだり話したりすることが日常だったため、少し疑問に思うレオだったが、


「わかった。」


と、短く返答をして再び読書へと戻った。





読書を終えた2人は、他の子供達が庭へと走り出す中部屋へと戻ってきていた。


「で、どうしたのマシュー?なんかあった?」


部屋に入って早々にレオは聞いたが、マシューは何かを考え込むように眉間に皺を寄せて黙っていた。


30秒ほど黙っていたマシューだったが、


「・・・なぁ、レオ。俺はお前ほど頭が回るわけじゃないから一緒に考えて欲しい。

今日、院長から何かはわかんねぇけど、大量の鉄かなんかの金属の匂いがしたんだよ。

それだけだったらなんも引っかかんなかったんだけどよ、前も嗅いだことあんだよ俺。しかも院長から同じ匂いだ。

そんでいつのことだったか考えてたら、思い出したんだよ。丁度3ヶ月前くらいだったなって。

で、半年前くらいにも嗅いだことある気がするんだよ。もしかしたらその前にも嗅いだ事あるかも知れねーけど、俺が思い出せたのはそこまでだ。

別にどうってことねー話だとは思ってんだけど、なんか引っかかってんだよ。

レオ、お前なんか気付かねーか?何もわかんねーけど嫌な感じがしてよ。」


「マシューにわかんないものが僕にわかるかな?頭の良さで言ったらほぼ同じじゃない?」


「なんつーか、自分で言うのも何だけど俺は感覚でやる方で、レオは考えながらやる方だろ?だから、レオなら俺のもやもやを取り払えるんじゃないかと思ってな。」


そんなマシューの言葉を受けて、レオは自分の記憶をフルに回転させて考え始めた。


(記憶の中の何かと何かが結びつきそうで結びついていないって感じなんだろうな。勘のいいマシューがここまで強く違和感を感じてるんだし、何かあるはずなんだ。しかも嫌な勘が働いてるんだもんなぁ。・・・本当になんだろ。)


ひとしきり考えた結果何も分からなかったレオは、マシューに言った。


「マシューは院長からした匂いについて違和感があるの?」


「うーん。・・・うまく言えねぇけど、それは違和感の中の1つなんだよ。それだけにってより、今日を通しての違和感なのかもしんねぇ。」


「今日を通して・・・か。うーん、もうちょっと考えてみる。」


(今日って何があったっけ。おきて、ご飯食べて、マシューと部屋で話して、読書して、今か。・・・普通だな。

あ、でもそういえば養親の話が出たな。マシューは知らなかったみたいだけど、前もあったんだよな。僕が知ってるだけでも、僕が初めてここにきた約1年前のやつと、3ヶ月くらい前のやつかな?)




・・・・ん?3ヶ月前?

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