第8話 6歳になったレオ

「はーい、みんな集まってー!夜ご飯ができたわよー!」


「ご飯だー!」「お腹すいたー。」「もうそんな時間?」「ちょっと院長先生ご飯って言ってるじゃん!早く行こうよ!」



子供達の賑やかな声が響く。


ここは、王都から3日ほど離れた場所にあるロータス王国東部の街、ハウルにある孤児院。


レオはあの後、それほど日を跨がずにこの孤児院へと馬車で送られた。


王都から離れた場所に行きたいというレオの要望を、良かれと思ってではあったが結果的にレオを騙す形になってしまった団長とカールが素早く聞き入れたためだった。


あれ以来レオは人とほとんど口を聞かなくなってしまい、自分達にできることは早く環境を変えてあげることくらいだと団長とカールは考えた。


すぐに手配をし、衣食住がしっかり整っていると評判のハウル孤児院へ送り出すことにした。


2人は最後の瞬間までレオを元気付けようと話しかけ続けたが、たまに返答することはあっても笑顔を見ることはできなかった。





「レオ、ご飯だってさ。早く行かないと怒られちまう。」


「聞こえてなかった。今行くよ。」


孤児院の子供達がみんなでワラワラと庭から孤児院内へと入っていく中、庭の隅の大きな木の下に2人の子供がいた。


名前は、レオとマシュー。この2人はいつも一緒にいた。


孤児院に来てすぐの子供達は、誰もが不安そうで暗い様子ではあるが、レオは他の子供も驚くほどに暗い目をしていた。


何にも期待していない、絶望などゆうに超えた虚無の目。


さすがの子供達も新しい仲間だという喜びよりも気味の悪さを感じ、話しかけるものはほとんどいなかった。


そんな中、マシューだけは違った。マシュー自身、他の子と馴染めず1人で過ごしていた。


マシューは、親が近しい者に殺されるというレオと同じような経験をして孤児院へと来ていた。


何かはわからないがレオにはシンパシーを感じ、これまで他の子には話しかけたことすらなかったにも関わらず、レオには積極的に話しかけに行った。


最初は特に応じることもなかったレオだが、段々とマシューには心を開くようになり、半年が過ぎた頃。


レオの心の壁は崩れ、マシューとは兄弟のような関係になっていた。


以来、2人は常に2人で行動していた。


「今日のご飯にはお肉が入ってると良いな。」


「レオ、肉の匂いがするぜ。多分鶏肉かな?」


「マシューがそう言うならそうなんだろうね。マシューの鼻は僕の何倍も良いみたいだし。」


そんな話をしながら2人が食堂へと入っていくと、他のみんなが集まっていた。


「レオとマシューも来たわね。じゃあ、食べ始めましょうか。全ての食材へ感謝の祈りをしましょう。・・・では、いただきます。」


「「「「「「いただきます!」」」」」」






夕食を食べた2人は、部屋へと帰ってきていた。6歳で同い年の2人は2人部屋を与えられ、部屋も一緒だった。


すると、2人はひそひそと話し始めた。


「マシュー、院長先生の隠し事は何かわかった?」


「いや、わからなかった。まあ、突然ですが院長先生の部屋に忍び込んだりもできねーし、無理だな。」


「そっかぁ、なんか隠しているっていうか嘘をついてる人の顔なんだけどなぁ。一体何を隠してるんだろうね。」


「レオにそう言われてから、なんか院長先生が気味悪く感じる時があるんだよな。早くてこっから出ていきてーよ。」


「でも僕たちの歳で、2人で生きていけるとは思えないよ。・・・どうしようね。」


「とりあえず今は大人しくしとくしかねーな。まあ、なんかあったら言うよ。」


「うん、何回も言ってるけど無理に調べなくて良いんだからね。危ないかもしれないしさ、隠し事によっては。」


「わかってるよ、心配すんな。院長先生の匂いは覚えてるからよ。見つかることはねーよ。」


マシューの言葉を最後に2人はヒソヒソと話すのをやめ、ベッドの下からボードゲームを取り出して遊び始めた。


レオは王都での事件以来、人の嘘や隠し事に敏感になっており、院長先生を怪しんでいた。


院長先生は初めてレオを迎えた時、


「今まで辛かったでしょう。これからは仲間がたくさんいるし、私もいるの。不安なことがあったらなんでも相談してね。」


と、優しく言葉をかけ、普段も誰にでも分け隔てなく聖母の如く接していた。


しかし、レオはそんな言動一つ一つに違和感と嘘臭さを感じて、あまり信用していなかった。


それどころか、重大な何かを隠しているような気がしていた。


そのためレオは仲良くなったマシューにそのことを打ち明け、少しずつ院長の身辺を探っていた。


果たして、どんな秘密が隠されているのだろうか。


はたまた、全てはレオの勘違いなのだろうか。

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