第7話 気付いた真実
団長が部屋から出て行った後、レオは崩れ落ちるように再び眠りについた。
「・・・この歳で両親共にいなくなるとは、どれだけ辛いことなのか私には想像もできないよ。そしてそれを受け入れたこの子の強さ。尊敬に値するよ。」
カールは、レオの寝息しか聞こえない静かな部屋で1人呟いた。
(しかし、先ほどは本当に危なかった。レオ君の疑いは完全にはれてはいないようだが、なんとかレオ君が大人になるまでは事実を知らずにいてほしい。でないと・・・・・。)
そして、今思い返しても冷や汗をかきそうになる先ほどの出来事を思い出していた。
それから、持ってきていた騎士団の資料を見ながら今後の部下の育成などを考えていると、不意にレオが目を覚ました。
「おはようレオ君。早い目覚めだったね。」
「・・・そっか、夢じゃなかったんだ・・・。」
目を覚ましたレオは自分がいる場所を確認し、悪夢では無く現実で起こった出来事だったことを認識した。
「お腹は空いてないかい?サンドウィッチでよかったらすぐに出せるんだけど。」
「ちょっとだけ食べる。」
「それは良かった。食事は大事だからね。今持ってくるから、少し待っててね。」
「うん。」
1人ベッドの上で窓から外を眺めるレオ。
両親が亡くなったと聞いた時は、この広い世界でひとりぼっちになってしまったように感じ、不安で胸がいっぱいだった。
今ももちろん不安でいっぱいなことには変わらない。両親の死を完全に受け入れて前を向けているわけではない。
しかし団長が言っていたように、自分と同じ境遇の仲間がいること。
自分がこれからずっと1人で生きていくわけではないことに、少しの希望を見出していた。
外を眺めながら、レオは幼いながらにこれからの生活の行く末を考えていた。
そんな時、一台の堅牢な馬車が宿舎へと訪れたと同時に団長が宿舎から出て、その馬車へと歩み寄っていった。
そのまま団長は馬車のドアを開けて中へと入っていったが、その瞬間レオは息を呑んだ。
「っ!?・・・スレイ・・・おじ・・・さん?」
レオからは一瞬しか見えなかったし、だいぶ印象が違かったが、確かにスレイに見えた。
その時、レオの中で認めたくない真実が浮かび上がり、必死にそれを否定した。
「違う、そんなわけない。スレイおじさんは優しくて、お父さんとお母さんとも仲良かった。そんなわけない。そんなわけない!!」
レオが自分の中で葛藤していると、サンドウィッチを持ったカールが部屋へと帰ってきた。
「レオ君、ハムとレタスのサンドウィッチなんだけど、お野菜が嫌いとかないかな?もし駄目なら卵のサンドウィッチもあるんだけど・・・。
だ、大丈夫かいレオ君!?どうしたんだそんなに慌てた様子で!」
気がつけばレオは過呼吸のようになりながら、息を乱していた。
そしてレオは違う違うと思いつつも、聞かずにはいられなかった。
「ふぅ、ふぅ・・・・お父さんとお母さんは、スレイおじさんに殺されたの?」
「っ!?!?誰がそんなことを。違うよレオ君。レオ君のご両親は家事で亡くなってしまったんだよ。どうしてそんなことを思ったんだい?」
急な問い詰めにカールはサンドウィッチを落としそうになりながら必死に答えた。
カールの中では誤魔化し切れたとは思っていなかったものの、一旦は納得してくれたものだと感じていた。
なぜ急にそんなことを言い出したのかと疑問に思っていると、
「・・・今、窓から、外を見てたら、急に来た、馬車の中に、スレイおじさんが、いた。」
カールは、愕然とした。
そんな偶然があって良いのかと。
なぜスレイを護送する馬車が開いた、一瞬の隙間を見てしまったのかと。
なぜこれほどまでにこの少年に災いばかり降り注ぐのかと。
そして、なぜ自分は団長を乗せるためにここに護送馬車が来るとわかっていながら、宿舎の庭が見渡せるこの部屋のカーテンを閉めておかなかったのかと。
カールが言葉も出ない様子を見て、レオは確信してしまった。
自分で聞いておきながらではあるが、心の中では自分の言葉を全否定してほしかった。
そんなわけないじゃないかと。見間違いじゃないか?と。
しかしカールには今、そんな余裕すら無かった。
「やっぱり、そうなんだね。さっき別の騎士さんがきた時の話は、僕のお父さんとお母さんの話だったんだ。」
レオの中では全てが繋がってしまっていた。
ジュンの家に遊びに行く時に見た、血走った目をしたスレイ。
護送の準備が整ったと報告しにきた騎士と、団長とカールの焦った表情。
急に神妙な面持ちから、何かを誤魔化そうとするようにニコニコとしだした団長とカール。
そして、馬車で拘束されていたスレイ。
「ち、違うんだレオ君。そのスレイっていう人が誰なのかは知らないけど、きっと見間違いだと思うよ。
いいかい?君のご両親は「もう、いいよ。」・・・レオ、君?」
「僕はまだ5歳だけど、僕がもうこれ以上悲しまないようにって、嘘をついてくれたことくらいわかるよ。
でも、お父さんとお母さんもいなくて、スレイおじさんには裏切られて。
せめてなんでお父さんとお母さんが死んじゃったのか知りたくても、嘘をつかれてて。
もう・・・疲れちゃったよ。」
カールは涙が止まらなかった。この5歳の少年が一身に背負ってしまったものの大きさと、自分の不甲斐なさに。
しかしレオからは一滴の涙も流れなかった。もう何も考えたく無くなってしまった。
レオが僅か5歳の、春の出来事であった。
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