第6話 誤魔化しと違和感

「い、いやそんなはずないよ。さっきの騎士さんも、お父さんとお母さんお迎えに来るから元気だそうって言ってたもん。」


「レオ君。認めたくない気持ちはわかる。でも、冗談を言っているわけじゃないんだ。」


「嘘言わないで!お父さんとお母さん生きてるもん!迎えにくるもん!」


受け入れ難い事実を前に、レオは必死に団長の言葉を否定した。


覚悟を決めてレオに話し始めた2人も、レオの様子を前に顔が歪む。


「レオ君、辛いと思う。君くらいの年齢で親を失うっていうのは想像も出来ないほどだと思う。だけど、それでも前を向いて歩いていかなきゃいけないんだ。5歳の君に辛いことを言っているのはわかってる。でも、俺を恨んでくれてもいいから受け入れて欲しい。」


「ご両親の分もレオ君には前を向いて生きて欲しいんだ。2人もそれを願っているはずだから。」


2人は自分達が恨まれてでもレオの気持ちが立ち直ってくれればと思うが、レオは泣きじゃくるばかりで応えることもなかった。






泣いていたレオだったが、しばらくすると2人へと語りかけた。


「・・・本当にお父さんとお母さんはもういないの?」


「っ!あぁ・・・もういない。」


「燃えちゃったおうちの中にいたの?」


「そうだね。私たちが入った頃には手遅れだったよ。」


沈黙と泣き声が長く続いた中、ようやくレオは両親の死を受け入れた。


想像よりも早く両親の死を事実として受け入れたことに2人は驚き、幼いレオを尊敬した。


そして、詳しい死因については触れずに、火事で亡くなってしまい手遅れだったことを伝え、このまま上手く誤魔化せると思ったその時、


コンコン


「団長がここにいると聞き、伺いました。団長はいらっしゃいますか?」


「いるぞ、何か用か?」


「失礼します。先ほど出頭してきました、夫婦を殺害後、放火した容疑者の拘置所への護送の準備が整いました。」


いち早く団長に報告との指令を受け、急いでいた彼はようやく報告できたことに安堵感を覚えていた。


しかし広がる静寂。そして、冷や汗をダラダラと流す団長と付き添いの騎士。


(こ、この野郎!!レオ君には両親が殺されたことを伝えないと通達しといただろうが!!)


一方報告を終えた騎士は、なぜ誰も反応してくれないのかと不思議に思い、辺りを見回した。


そして、部屋の隅にレオがいることを認識した彼は目を剥き、同じく冷や汗が垂れた。


自分がしてしまったことを認識した彼は、なんとかレオに悟られまいと頭をフル回転させ、話し出した。


「い、いやぁ、今日は本当に悲しい日でした。1年に1回あれば珍しい火事が2回も起きて、片方では殺人事件まで起こっているとは。」


団長はあまりに稚拙なシナリオに目が回りそうだったが、何も言わないよりはマシだと思いこの騎士の話に乗っかることにした。


「あぁ、大変な1日だった。そうか、そちらも解決したか。ご苦労だった、戻って良いぞ。」


「はっ、失礼いたしました。」



騎士が去り、一瞬の静寂が広がった後レオが喋り出した。


「今の人は何?」


「あぁ、さっき話していて聞こえたと思うが、ある夫婦が殺されてしまっていてな。その犯人を拘置所っていう閉じ込める場所に運ぶぞって報告をしてくれたんだ。」


「ごめんねレオ君、こんな話を聞かせてしまって。レオ君には何も関係ないことだから気にしないで欲しい。」


「・・・・・・・・・・・・ほんとに?」


「っ!あぁ、本当だとも。」


レオは2人の様子が、何かおかしいことに気付いていた。違和感があった。


さっきまで神妙な面持ちだった2人が妙にニコニコしながら自分に話しかけてくる。


レオはまだ5歳。


何がおかしいのか、今がどういう状況なのかは理解出来ていなかったが、得体の知れない不安がレオの中で渦巻いていた。


「・・・・・・わかった。・・・僕はこれからどうなるの?」


「レオ君にはおじいちゃんやおばあちゃんもいないみたいだから、レオ君と同じように両親がいなくなってしまった子達がたくさんいる、孤児院っていうところで生活してもらおうと思ってる。」


「僕と同じ・・・?」


「あぁ、レオ君は1人じゃないんだよ。たくさん仲間がいる。新しいお友達や家族がこれから出来ていくんだ。もちろん私たちも何かあったら助けるからね。」


「そっか、1人じゃないんだ。」


「そうさ、1人じゃない。だから、今すぐにとは言わないけど、元気に前を向いて生きてくれると嬉しい。」


「・・・うん、わかった。」





「レオ君、俺は少し用事があるからこの部屋を出る。なんかあればこいつに言ってくれ。」


「自己紹介をしてなかったね。私はカール。団長はいなくなるけど、私がそばにいるから安心してね。」


「・・・うん。」


「疲れてるだろう、レオ君。少し横になって休もう。」


団長は、ベッドへと向かうレオを尻目に部屋を出た。






団長が部屋を出ると、先ほど報告に来た騎士が待っていた。


「だ、団長。本当にすみませんでした!早く報告しようと視野が狭くなっており・・・。」


「はぁ。お前もわざとじゃないんだろ?やっちまったことはしょうがねーよ。それより、犯人の護送だったな。行くぞ。」


悪気のない部下を怒る気にもなれず、ただレオに悟られないようにこれからどうするか考える団長であった。

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