52.社会不適合の二人

「やっちゃったのね……」

「ああ。ぶちかましてきた」

「後先考えないんだから……」


 帰ってきた俺の服がズタズタになっていた様子を見て。

 ネレイドはそう言いつつも。少し嬉しそうに、ししっ、と笑った。


「でも、スッキリした。あー、でも。まずいよね、やっぱり」

「流石にな。逃げないといけない。指名手配になったらIDカードも使えないから、徒歩で逃げるしかないぞ」

「逃げるって、どこに?」

「魔都。あそこは、魔帝の自治区だ。エルズたちもいることだし……」

「炎魔将フレイヤ様が死んだあと。屋敷を引き継ぐ必要があるって言ってたわね」

「それに、魔都に行って調べたいこともある」

「調べたいこと? なにそれ?」

「俺の体のことだ。魔神の肉を食った人間が、魔神になるにはどうすればいいのか。そこら辺のことは、魔都に行けば何かわかるかもしれない」

「調べて、どうするの?」

「魔神になる。俺が。そうすれば、魔の因子も作り出せて、魔族も作れて。魔人たちが魔法を再び使えるようになる」

「それって……?」

「沢山なんだ。帝国の支配が。そりゃ、昔いた魔将たちは、たしかに帝国大陸に攻め込んだかもしれない。でも。今の俺たちがこんな辱めを受ける理由にはならないよ、それは。俺も、もし魔神になれたとしても、もう帝国大陸に攻め込む気はないし。帝国大陸人と魔大陸の住人は価値観が違う。どちらかが無理に支配しようとすれば、大きな軋轢を産む。大切なのは、棲み分けなんだ」

「……なるほど。魚にも、縄張りがあるもんね」


 流石に、漁村育ち。たとえが海の縄張りとは。


「まあ、そういうことで。ありったけの保存食を買って、バックパックに突っ込むぞ。IDカードが使えなくなる前に」

「うん!! 行こう、アルバド!! 魔都に!」


 俺たちは、二人で。帝国の支配する世の枠から外れた行動を始めた。


   * * *


 帝国の手が入っていない、山間部や海沿いを歩いて。ああ、なんだ。魔大陸はまだまだ元気で。何も終わったわけじゃないんだな、と。


 俺とネレイドは自然におおいに触れて、心が和んだ。


 持ってきていた保存食を食いつくし、そのあとは。山でイノシシを狩ったり、川や海で魚を取ったり、貝を拾ったりして食べて。そうやって、俺たちは魔都に向かっていった。


 久しぶりに、ずっとネレイドと一緒に居れて。俺も幸せだったし、ネレイドも幸せだと言ってくれた。

 旅の最中なので、川や湖があるごとに、ネレイドも俺も水浴びをして旅の垢を落とした。そんなときに裸身をさらすネレイドの体は随分成熟していたけれど、初めて見たときの眩しさは失わないままだった。


   * * *


 そんな感じで見事に野趣に染まった俺たち二人は、魔都にたどり着いた。

 魔都の門を守る古式の番兵に、エルズの名刺を見せる。じつは、ずっと持ってたんだ。


「炎公エルズ様の……名刺か。随分と古いな」

「貰ったのが昔だからな」

「きさま、名は何という?」

「アルバド。こっちの海魔人族の女は、ネレイド。俺の妻だ」


 番兵は、暫し待て、という。

 エルズの所に確認の使者を向かわせるとの話だ。

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