50.戦後の魔大陸

「また、自殺した女の子がいるらしい……」

「無理もない……。我ら誇り高き魔人が……。帝国大陸人などに強姦されれば。死にたくもなろうものさ……」


 町に、そんな声が常に流れている。

 一部の魔人たちは。戦争が終わったことを喜び、大陸帝国との商取引で財を成していくものもいる。

 でも、そんなのはごく一部で。ほとんどの魔人たちは自分たちの頂点であった魔帝が皇帝に敗れたことを、相当な無念の思いで胸に刻んでいた。


 帝国大陸の、厳しい貨幣経済性支配が魔大陸全土に徐々に及び。

 魔大陸は帝国大陸の傘下として、富や喜び、それに夢を。


 搾取されていくようになった。


 俺とネレイドは。

 帝国が建てた味もそっけもない機能性だけの住居に住み、配給される無味無臭のビタミンとミネラルとカロリーだけの食事をして日々を過ごしていた。

 男の仕事は、普段は無かった。帝国人は、建設物を作ったり、ダムを作ったり。そういうときにだけ魔人の男手を徴用して、それらの工事に当てた。

 女の仕事は、機械の仕事の手伝いだった。

 ネレイドはある区役所のAIに集められる数値のデータ入力という単純作業を毎日やっていた。


 みんな、そうだった。変わらないのは、そこだけ自治を認められた魔都を含む一地域。そこだけは、戦前と変わらぬままに。魔帝の治世で世が回っていた。


 決められた時間に。決められた仕事をし。決まった給料をもらい。日々変わらない食事をとる。


 これは、何の地獄だ? 自由も夢も。


 何一つとして生まれない。


   * * *


 魔人たちは。余暇の時間に、絵を描いたり、音楽を作ったり。人によっては彫刻を作ったり。そんなことで、無味乾燥な日々に何とか喜びを見出していた。

 かつて、自分たちが過ごしていた無慈悲でも夢も希望もあった、日々のころの夢の形を表すように。


   * * *


 帝国大陸人から見ると、魔人の女性というものは、妙に劣情をそそる物らしい。

 魔大陸にだいぶ入り込んできた帝国大陸人の男が、魔人の女性に痴漢をしたり、強姦をしたりという目を覆うような事態が頻発していた。


 魔大陸の女性は、ただそれに耐えた。耐えきれずに自殺する女性も多かった。女性の伴侶の男が、帝国人に手をあげたときは。罪に問われ処刑されたこともあった。


 要するに、そういうことだ。

 ここは、帝国大陸人の植民地。

 現地民は、非道非法な扱いを、甘んじて。

 受けるしか、生き残る道はなかった。


 俺は、ネレイドを守らなきゃならない。

 ダムの工事や、ビルの建設に動員されているとき。

 俺は、ネレイドがそんな目に遭わないでいてくれることを、願うしかなかった。

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