49.MG=00 シン

「社会復帰しないとね、マカナちゃん」

「うん……。わたし、せっかく退院できたんだから。働きたいな」


 帝国大陸の、とある地方都市。

 国立精神病院から退院の日を迎えた女性が一人。


「このノート。預けていきます。私には、もう必要ないものだから」

「いいのかい? 大切にしていたノートじゃないか。ここには、私の歴史が書いてあるんですっていって」

「今後。私みたいな病気にかかった方たちがいたときに。参考になるかわからないけれど、回復していく患者の記録として。先生に預けていきます」

「……わかった。預からせてもらう」

「じゃあ、お母さんもお父さんも待っていますので。失礼します。本当にありがとうございました、先生」

「ああ……。元気でね、マカナちゃん。今日で退院だけど、通院はしてくるんだよ?」


 女性の長年の主治医だった初老の医師は、ノートを受け取ってから、そう言った。


「だいじょうぶよ、先生。私には、神様が三人もついているんだから」


 女性、名越マカナはそういって、笑った。


「神様か……。正気の神様と、狂気の神様と。本当の神様だったね」

「うん!! 三人の神様は。私に色々なことを教えてくれた。たとえそれが、私の妄想の中の出来事でもね」

「通院は、するんだよ。君の精神状態は、ようやく平衡を取り戻したけど。薬が無いと、まだ危険だ。わかったね?」

「はい。わかりました。これからもよろしくお願いします、先生」


 マカナはそう言うとふわりと笑って、両親の方に駆けていった。


「……原因不明の、精神疾患。世の中が一応落ち着いたら、退院していく子が増えてきたような……。考えすぎか、環境病と考えれば当然なのか。何にしても、私もまだ未熟なのかもしれない」


 初老の医師は、顎をポリポリと指で掻いて。


「さて、次の仕事にかかるか……」


 と、独り言を言って病院の中に戻っていった。

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