第4話 間違ってこの家に生まれてしまった

 通った鼻筋。


 ガラス玉のような瞳。


 白い雪のような肌。


 スノープリンセス、白雪姫のようだとたとえられた母に。


 整った骨格に、長い足。


 モデルのようだとたとえられた父。

 

 その二人から生まれた兄は。


 アイドルにも似た、カリスマ性と、愛嬌を兼ね備えていた。


 その兄のあとに生まれたのだから、ヒエラルキー、家庭内の格差、家庭内での序列、カースト、順位は歴然としていた。


 兄は王子だったので、王子たる兄が私に虐待をした場合、王子である兄ではなく、私に責任をなすりつけた。


 この家で起こるすべての災厄は、私によって起こされる。


 魔女だから、と。


 母は母で、地域の中に王国を作り上げていた。


 日本の第一党たる自由進歩党、通称自歩党の党員として暗躍し、沖城(むなしろ)市の市長、市議会議員、経済界の頂点、政治家、国会議員と仲が良く、母の人柄を疑うものはいなかった。


 母の息子たる兄は、最高傑作だった。


 だから、兄に対して、母も地域の人も甘かった。


 顔立ちが整っていて、人柄も良ければ、人は、そんな人間はめったにいない、ともてはやす。


 その笑顔は、私に暴言を吐き、暴力を振るった後に、作り上げたものだ。


 母も兄もそういった類の人間で、顔も性格も悪い私は、彼らにとって最悪の造形物だった。


 父はまるで幽霊のように影が薄く、その様は、まるで亡霊を思わせた。


 イングランドの偉大なる劇作家、ウィリアム・シェイクスピアが書き上げた悲劇、ハムレットにおいて、父は排除され、母は、父の兄弟と寝る。


 ハムレットはそれをねたみ、うらみ、父の兄弟を殺そうとする。


 要するに、ハムレットに妹はいらない。


 ハムレットという戯曲に紛れ込んだ異物。


 仲が良い、母と兄。 

 王は見て見ぬふりをしていたため、王子たる息子は、ハムレットのようにわがままに育って行った。


 そして。


 父たる王が亡霊をやめる時は、私を殴る時だった。


 つまり、彼らは、殴ることと蹴ることと暴言を吐くことに特化していた。


 殴られ、蹴られ、暴言を吐かれた子供はどうなる。


 従順になる。


 神様みたいないい子になることもあるだろう。


 それを後悔する人間もいるだろう。


 太宰治の死は。


 太宰治が書いた小説、人間失格の主人公が吐いた言葉を、私はこう聞いた。


「私は道化だった」

と。


 しかしそれは、太宰が振る舞いを自然と身につけたからだ。


 私には、道化になる能力が低かった。


 太宰治の時代には白痴、と称された、知的障害が、本当に軽いがあり、知能指数はわずかだが平均値を下回っていた。


 私の知能指数が98だとわかった時、母は。


 私はこう聞いた。


「わたしの知能指数は110ある。


 わたしは東大に入れるぐらい頭よかったのに。


 これじゃあ、東大、入れないじゃない」


 東大、東部帝国大学に入れる娘を生みたかった母にとって、それは絶望の宣告だったらしい。


 ゆえに、わたしは、姫ではなく、奴隷だった。


 なぜなら、私の鼻は低く、目は一重、目はにごっていた。


 だから、奴隷のような扱いを受けた。


 それが、家の決まりごとだから。


 見た目で格差が決まるのだから。

 

 知能指数の期待値を、下回ったのだから。

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