第21話 尋問 de 飲み会ナイト

 キャンプファイヤーの思い出。

 三年二組 ガルム。


 キャンプファイヤーの思い出は、アイスゴブリンを倒した後に、みんなで「かまくら」をぶっ壊して、そこに生活ゴミを放り投げて、魔術師のヒカが火球を放り込んでつけて、ボワッと火が燃え上がって、冒険者の人たちが奇声を上げていたことです。

 とても臭かったです。

 キャンプファイヤーで冷えた体を温めながら、酒を飲んだり、魔物の皮を剥いだりと、みんな好き好きに過ごしていました。

 氷の壁にぶつかって潰れた魔物は売り物にならないので、キャンプファイヤーで焼いて食べました。

 寒いところの生き物はあぶらが乗っていておいしかったです。


 おわり。


 ということで、アイスゴブリンを倒したケムラタウンの冒険者一同は、街の広場で火を囲んで飲めや歌えや素材を剥げやの大騒ぎをしていた。酔った冒険者たちからオレにかけられる称賛の声々。


「剣聖ゴブリンさん、マジすごかったっす!」

「剣ゴブさん、次も頼んま~す!」


 などなど。

 悪い気はしない。

 なにしろ、みんな手こずってた魔物を一撃で倒したのだ。

 ひいき目に言って、称賛されてしかるべきだろう。

 しかし。

 しかしだ。


 相変わらず誰も「ガルム」と呼んでくれない。しかも「さん」を必ず付けられる。その「さん」にすごく距離を感じる。さらに声をかけてくるのは男ばかりだ。女性からは一度も声をかけられない。当初の目的だった「パーティーの前で華麗にモンスターをやっつけて尊敬されるソロプレイヤーのオレ」という夢は半ば達成されてるような気がするんだが、なんかスッキリしない。


 一体なにが原因なんだろうか。

 今、オレの頭の中では、こういったロジックが建てられている。


【現状】いまだに名前で呼んでもらえない。

【原因】つまり、オレはまだみんなに心からリスペクトされてない。

【転論】なかでも特に女性からはノーリスペクト。


 ということは。

 つまり。


【帰結】このままではシアさんにも振り向いてもらえない。


 ガガガガビーン!


 う~ん……。

 オレは、タイタンゴブリンとアイスゴブリンを倒した。

 さらに発案したトラップもバッチシ的中。

 み~んなオレのおかげでレア素材剥ぎまくってお金持ちになってハッピッピー!

 そんな状況を作っているオレなのに。

 なぜ。

 なぜもっとリスペクトされないのか。

 特に女性から。


 いや、別に女性にモテたくてモテたくて仕方ないってわけじゃないからね! ただ、これだけの功績を残してるのに、なんでもっとモテないのかな~って単純に疑問なだけ! 単純にね! うん、ちょっとだけ! いや、マジで!


「はぁ」


 ため息一つ。

 気分を変えるために、オレは冒険者ギルドへと向かってみることにした。

 そこではマッキンレーやシアさん、マスターが鎧ゴブリンを尋問して情報を引き出してくれているはずだ。

 今回、オレは前の時の反省(イケおじマッキンレーにいいとこ全部持っていかれた)を踏まえて、あえて尋問に加わらなかったんだけど、あまりにも手持ち無沙汰すぎるし……うん……ってことで、結局行ってみることにした。

 べ、別に寂しがり屋とかじゃないんだからねっ!

 シバタロウくんも勝利の宴の対応で忙しそうだし。

 それに、シアさんの顔も見てみたいし。

 い、言っておくが、オレは断じてストーカーなどではない。

 ほら、逆上したゴブリンが、シアさんに襲いかかってる可能性だってあるわけだし?

 そうなったらマッキンレーのおっさんだけじゃ不安じゃん?

 っていうかシアさん。

 会議に顔を出したり尋問に参加したりと、やけに積極的だよな。

 まぁ、積極的な女性は嫌いじゃないですけどね? ふふん?


 と、そんな自己弁護を巡らせながら訪れた尋問部屋の中は。


「わ~はっはっ!」


 楽しげな笑い声と酒の匂いで溢れかえっていた。


「……は? 尋問は?」


 鼻をつまみながらオレは尋ねる。


「尋問? そんな非人道的なことを我々がするわけないじゃないか。ほら、剣聖殿も一緒に飲もう!」


 すっかり出来上がってるマッキンレーが声をかけてくる。


「いや、オレ酒飲めないんで」


「まぁまぁ、そう言わずに一杯くらい付き合いなさいよ、ハンパ魔王!」


 鎧ゴブリンの甲高い声が耳を刺した。

 そう、二人目の鎧ゴブリンはメス──いや、女性だったのだ。


「ケイリさんもそう言ってるんだから、早く座ったら?」


「あ、はい」


 頬を上気させたシアさんにそう言われたので座る。即、座る。

 しかもシアさんの隣だ、やっほい。


「ふぅ~ん……あんたが魔王の器を、ねぇ?」


 ジロジロと上から下まで舐め回すような視線を向けてくる女鎧ゴブリン。なんだろう、八十年代のアメコミに出てきそうな雰囲気だ。ほら、あの赤いボティコン着て睫毛が上下バチバチになってるカーリーヘアーでまんまるお目々のあれ。あんな感じだ。身長一メートルほどのその女鎧ゴブリンは、謎に見せつけている生足を組み変えると、グビッとジョッキを煽る。首筋に一滴、筋が流れる。


「ぷはぁ」


 アルコール臭い。

 きっと人間だったら艶めかしかったんだろうな。

 そんなことをオレは思う。

 彼女はゆっくりと、口を開く。

 舌と前歯の間で糸を引く粘着性の高そうな唾液がてらてらと光る。

 女鎧ゴブリンは舌なめずりをすると、カナリアのような声で、こう囁いた。 


「さぁ、ハンパ魔王。私と子作りをしましょう」

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