第17話 レッツ設営

 カコーン! カコーン! カコーン!


 異世界に行ったらやってみたいこと第三位!


 どぅるるるる~、ドンッ!


『辺境の村の軍備を強化する!』


 パンパカパ~ン!


 それに今、オレは取り組んでます!

 あ、ちなみに「異世界に行ったらやってみたいこと」の一位はハーレムで、二位はオレに反抗的な国王を国民の前で断罪して「うおおお! さす(が)ガル(ム)!」って民草から言われることね。


「ギンパさぁ~ん! こっち終わりましたぁ!」


 職人──ではなく、手の空いてる冒険者たちが街の外に防柵を作っている。オレもその中のひとりだ。現場監督はユージのパーティーでタンクを務めていたギンパという名前のドワーフ。彼の監督の元、次に襲ってくる可能性の高いというアイスゴブリンに対抗するため、街の防備を固めていた。


「うぉ~い、物見櫓の壁は必ず二枚だぞぉ~! そして二枚は必ず離して設置すること~! そうすることによってアイスゴブリンの氷柱つらら攻撃を防ぐことが出来るからな~!」


「うぃ~~~っす!」


 冒険者は肉体労働だ。魔物たちの巣窟へわざわざ赴き、そして命がけで戦って帰ってくる。ネトゲ中毒だったようなオレにとっては魅力的な世界に見えていたが、いざ生身の体で放り込まれてみると、いかにコスパ、タイパが悪いかを実感させられる。


 その点、同じ肉体労働でもこの設営作業は気楽なもんだ。作業中に命を落とすことはないし、街から給金まで出る。なので、みんなノリノリで現場作業に精を出していた。そもそもが、みんな体を動かすことが好きなのだ。


「よう、剣聖ゴブリンの旦那。どうだい、調子の方は」


「肉体労働は苦手かなぁ。後は、みんなに任せて宿で寝たいよ」


 冒険者の中にも色々いる。例えば今、声をかけてきたこの男。見た目はムキムキでモヒカン頭。肩の部分をワイルドに切った革ジャンを着ているが、職業は薬師だ。昔は、王宮で様々なトラブルに巻き込まれつつも、その薬の知識で次々と事件を解決し、一躍有名人になったらしいが、今は薬師冒険者だった育ての親の跡を継いで、こうして各地を冒険しているらしい。そして、彼は──おしゃべり好きで、ちょっぴり好奇心が旺盛だ。


「しかし、次は本当にアイスゴブリンなんてものが来るのかねぇ。酒場のマスターがそう言ってるってだけなんだろ?」


「ああ、【ゴブリンの魔王】の座を狙ってるのは、他に六人。アイスゴブリン、シャーマンゴブリン、ビッグフットゴブリン、ストームゴブリン、デスゴブリン、ドラゴンゴブリン。で、最初に来たタイタンブブリンの次に、ここの近くにいるのがアイスゴブリンらしい」


「なるほど、つまりは──ゴブリンだな?」


「ああ」


 モヒカン男のよくわからない返答にオレは適当に相槌を打つ。モヒカン男(名前は「ネココ」というらしい。可愛らしい名だ。でも、なんとなく彼をネココって呼びたくないのでモヒカン男と呼ぶことにする)は、自慢のモヒカンヘアーをさらりと撫でると、キメ顔を作って言葉を続けた。


「で、そのマスターの言うことが本当だってなんでわかる? ゴブリンだろ? 嘘ついてオレたちを全滅させようとしてるのかもしれねぇじゃねぇか」


「各魔王候補のゴブリンの元に、一人ずつ鎧を着た語り部の一族がついてるから間違いないらしい」


「へぇ、あのマスターみたいなのが、あと六匹もいるわけか」


「六人って言わないと怒られるぞ」


にん? いやいや魔物だろ?」


「まぁ、そうなんだが本人が怒るんだから仕方がない」


「へぇ……。ま、なんにしろ、さっさと設営終わらせて酒でもかっくらおうや」


「ああ、オレは酒飲めないからミルクだけどな」


 他には、こんな冒険者もいる。


「にゃにゃにゃ~! ネズミにゃ! ネズミがいるにゃ! 貴重なタンパク源にゃ~!」


 白猫獣人のシロだ。必ず言葉の後ろに「にゃ」と付けるのが特徴だ。この街には現在、魔に由来する住人が三人いる。柴犬獣人のシバタロウくん、鎧ゴブリンのマスター、そしてシロだ。


「おい、シロ。今は工事中だから危ないと言うとるじゃろうが」


 現場監督でもあり、シロとパーティーを組んでいるギンパが注意を促す。


「にゃにゃ~? なぜにゃ? シロは、そんなことで危険な目に遭うような間抜けじゃないにゃ」


 ネズミを咥えて口ごたえするシロ。その背後で、フラ~リとシロの方へと向かって倒れてくる木材が。


「シロ、危ないッ!」


「にゃ?」


 ヒョイと横に飛んで木材をかわすシロ。

 しかし、その着地した場所は、落とし穴を掘っている真っ最中の場所だった。


「にゃ~! にゃにゃにゃにゃにゃ~!」


 ジタバタと手足を動かし、穴から脱出したシロは「フー、フーッ!」と息を吐きながら柵の上へと避難した。が、次の瞬間。


 フラ~リ。


「ああっ! そこの柵、まだ固定してないんですよっ!」


 バターン!


 一つの柵が倒れると、つられて隣の柵が倒れる、その柵が倒れると次の柵がつられて……。


 バタバタバタバタバターン!


「…………」


 コツンッ。


 全ての柵が倒れきった後、現場監督ギンパのヘルメットの上に、どこからか跳ね飛ばされてきた小石がぶつかる。


「こ、こ、こら~~~~! シロ! 今夜は飯抜きじゃ~~~!」


「にゃにゃにゃ~! ごめんにゃ~!」


 そんな感じで、工事は進んだり遅れたりしながら、やがて来たるアイスゴブリン軍団への防備を着実に固めていった。ちなみに会議では置いていかれたオレだったけど、その後の防備(主にトラップ)を考える時には、タワーディフェンスゲーで培ったノウハウをふんだんに注ぎ込んで口出ししてやったぜ! ってことで、現在設営中の防備が以下だ!


物見櫓ものみやぐら。高いところからいち早く敵を発見するぞ! 氷柱つらら対策済。

防柵ぼうさく。数で押し切られないように立てた簡易柵。簡単に設置的出来てしょぼいが、敵にとってはかなり邪魔だ!

・落とし穴。罠の古典であり基本。中には油を染み込ませた布が敷いてあるぞ! 落ちたら火を付けて一網打尽だ!

・かまくら。氷魔法で凍えたら街中央広場のかまくらでガンガン暖を取って復活だ!

・毛布。上に同じ。寒さに負けず頑張ろう!


 う~ん、マスターの予想では、アイスゴブリンが来るのは一週間後。まぁ、時間がない中での最低限の設営って感じだな。

 ネトゲのソロプレイみたいに、タワーディフェンスでちまちま敵を削っていくのも好きだったオレ。

 なんで、こういった即席の設営でもめっちゃワクワクしてるんだよね。

 ってことで、早く来い来いアイスゴブリン。

 オレのトラップで、お前らをじわじわと削り取ってやるぜ~。

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