第九話:宇宙猫と外出③



「女の買い物って何でこんなに長いの……」


 当然のように荷物持ちにされたのは予想の範疇。

 だが、その規模は想定を超えていた。

 無数の紙袋を横に置きモールのベンチで弌華は黄昏ていた。


『不明。人類の神秘。一考の価値あるか?』


「無いと思うぞ」


『了解。それならば攻略サイトを確認して効率的なコンボの組み合わせを考察することに時間をしよう』


「いや、それも有意義かな?」


 そう尋ねるもエイブラハムはこちらの話を聞き流しながら弌華の携帯端末をタッチで器用に操作して、ゲームの攻略系サイトや実況動画を見るのに夢中だ。

 この間、複数人の対戦プレイゲームで弌華と紫苑が手を組んでエイブラハムを叩き落としたのを根に持っているようだ。


(まあ、それ以前に漫画やらアニメやらの沼に積極的につけたからな……もうダメかもしれんね)


 なんか星のことを詳しく情報収集するのが生態らしいので、最初こそ真っ当に地球の事とか国とかのことを調べていたような気がしたが――もはや、普段の検索履歴が完全にサブカルに汚染されていた。

 サブカルに果てはなく、一度嵌ってしまえば抜け出すことは難しい。

 特に飽き性ではなく、好奇心に旺盛なタイプだともはや回復は見込めない気がする。


 やらかした感じがするが話しやすくなったのでこれはこれでいいやと弌華も紫苑も一先ずは思うことにした。


「あの……失礼します」


 それにしても水着を買いに来たのではなかったのかと、何故かペットコーナーで魚を見ている二人を遠目に眺めながら休んでいると唐突に声を弌華は声かけられた。

 そこには黒いスーツに身を包んだ麗人がそこに居た。


「えっと、確か貴方は……」


火根津ひねづです、如月様」


「ああ、そうだったそうだった。一度出る時に紹介はされたっけか」


 火根津ひねづ七夜ななよ、それが彼女の名前である。

 七夜はリオの護衛班のリーダー役をしている立場の人間らしい。

 二十代前半の若さに見えるのに総裁の娘の護衛を任せられるとは随分と優秀なのか、あるいはリオが年頃の少女であることを慮っての人事なのかもしれない。

 何せ他の護衛の人は見るからに大きく強そうな男ばかりなのだ、そう言った配慮があってもおかしくはないだろう。


 ――「今回はちゃんとは私を……ついでにこの子分たちも守るようにね?」


 ――「は、はい。お嬢様……」


 まあ、出る時の様子を見ると仲が良さそうに見えなかったが。


(流石に大チョンボをした後だからなぁ)


 弌華としてもなんとも言えない部分がある。


「えっと……なにか?」


「いえ、あの後は色々と時間が無くてちゃんという機会もなかったので改めてお嬢様の件でお礼を……と」


「ああ、なるほど……大変だったんですね」


「ええ、まあ」


 見れば化粧で誤魔化しているが目元に隈が見えた。

 相当に突き上げがあったのだろうと推察が出来る。

 仕方ないと言えば仕方ないのだが……。


「だ、大丈夫です。もう今後あのようなことが起きないように常に厳戒態勢で、人員も増加しました。お嬢様たちは何一つ心配せずにショッピングをお楽しみください」


 七夜の言葉に辺りを見渡すと居る居るは黒スーツの見るからに目立つ男が何人も。

 バラバラに分かれて一帯を警戒していた。


 ざっと見ただけでも結構な数である。

 そして、恐らくは目立たないように黒スーツじゃなく溶け込んでいる者も居るのだろうと考えると――リオが外を出歩くのをうんざりとしていた気分もわかるというものだ。

 こんなのが付いてくるとなるとそりゃ楽しめない、彼らには彼らの言い分もあるのだろうが。


「凄い数ですね。普段からこんなに?」


「いえ、普段は。お嬢様は我々のことを嫌っていますから……多感なお年頃、というやつなのでしょうけど。――ただ、犯人の方もいまだに捕まっていない以上こちらとしても注意を怠るわけにはいきませんので。少々、息苦しくは感じると思いますが」


「まあ、慣れない感じはありますけど別に負担には思いませんよ。……毎日だと無理かもですけど」


 弌華の言葉に七夜は困った顔を浮かべた。

 護衛の立場からすれば言われても困るとしか言えないだろう。

 少し言葉の選択をミスしてしまったようだ。


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