第2話 音ゲーマーの日常と転機

 俺は高校生音ゲーマー、本名は天羽奏音だ。

 ネットではAMKN(あむくん)として活動している。

 何故AMKNなのか、それは本名のイニシャル、《AMOUKANON》から文字ったからである。

 実際学校でもネット名で呼ばれることもあるくらい有名にはなった。

 時々先生からも呼ばれたりする。

 まぁそんな学生兼、音ゲーマーの生活にもいい加減慣れたわけだ。

 そして人には定期的に、習慣的にやること、つまりルーティンという物が存在する。

 俺にもある。音ゲーマーなら少しは共感できる部分もあるのではないだろうか。

 先ず、朝起きたら指慣らし兼目覚ましとして音ゲーを何曲か行う。

 そしてtnitterを使ってエゴサや音ゲー関連の情報を仕入れる。

 学校の時間が近付いてきたらイヤホンを装着して音ゲー曲を聴きながら登校する。

 もちろん下校も同じく。

 時々学校の昼休憩にも数曲行い、授業が終わり家に帰ったら課題を終わらせる。

 そしてまた数曲行う。

 これらが俺のルーティンだ。

 何故一日に何曲も行うか、それは音ゲーはやった数に比例すると言っても過言では無い程慣れによる成長があるからだ。

 数学の基礎だって同じだと思う。公式を幾ら覚えたって、解き方を幾ら覚えていたって、演習を沢山しない限り数学が出来るようにはならない。

 学問や趣味、何事だってとにかくやることが出来るようになる為には必要だ。

 当然、失敗する事で後悔が伴う。挑戦しなかったらしなかったでまた後悔が伴う。

 後悔を越えた先に新たな道が開ける。

 だがそんな綺麗事ばかりな世の中は存在しない、するわけが無い。

 後悔の奏でた音をずっと覚えたまま生きていく事もある。そういう生き物だから仕方がない。

 けどやらなきゃ何にも始まらない、いつまでも逃げてちゃ掴めるはずのオポチュニティもどこかに消え失せる。

 オポチュニティって言葉良いよね。チャンスよりも英語感があるから。

 要するに今言いたいのは音ゲーもその例に漏れないってことだ。

 慣れこそが唯一の近道、それは間違ってはいないと思う。

 慣れてきてある程度出来るようになったのならそこで運指やらを考えるようになる。

 慣れるのが第1優先、運指とかは二の次だ。

 そんなこんなで勉強に音ゲー、食事に筋トレをする1日が終わる。

 これが音ゲーマー天羽奏音の日常だ。

 そして時にはゲーム内のキャラクターの推しイベントという物があり、推しキャラがメインとなるストーリーやガチャ、ランキング称号などがある。

 俺はガチ勢の部類には含まれる。だが同時にエンジョイ勢でもある。この兼勢をしてる人も多くいると思う。

 ずっと曲をプレイしている訳では無い。

 推しの好感度を上げたり、推しをレベリングをしたり、推しを眺めたりと、所謂オタクがする事もやる。

 そして今月、推しキャラのイベントが始まったのだ!

 生きていく上での希望である。推しは希望なのである。

 今回もガチャイラストのビジュアルも最高で、ストーリーも脚本した人を胴上げしたいくらいに良かった。

 ランキングの上位に入る為、ライブ配信をしながらイベラン──イベントを走る(=run)ということ──を何時間か続ける毎日を過ごした。

 イベント最終日、いつもよりもランキング争いが激化する時間帯、俺は本気で走っていた。もちろん物理的な走りじゃないぞ。

 そして迎えたイベント終了後。

 アクティブユーザーが100万を越える中、見事3桁の315位を取る事が出来た。

 素直に嬉しい。

 さいこー!って叫んだくらい嬉しい。

 何はともあれ何事もなく無事に終わり、夜食のカップラーメンでも買いにコンビニに行った。深夜に食うカップラーメンは美味いのじゃよ。

 だがその行き道で、フラフラ蛇行していた車に俺は撥ねられた。

 俺は長時間のイベランによって疲れており心ここに在らず、と言ったような状態で歩いていた。

 それが原因で飲酒運転していた車に気付かず、撥ねられた。

 近付いてくる救急車のサイレンの音、住民のざわめきの音、そんな不協和音が聞こえた。

 その後俺は夢を見た。もしかしたら夢じゃないのかもしれない。

 医者の「手術は上手くいったが未だ危ない状態だ」という声と共に、家族の、親戚の、友達の泣き声がトラバーチン模様の天井に反射して響き渡る。

 自分が今病室に居ることが理解できた。

 皆酷い顔をしていた、当然だろう。

 そんな中病室に花が描かれた絵画があった。あれはラッパスイセンだ。

 小学生くらいの頃に読んだ花図鑑に載っていて印象に残っていたから覚えている。

 夢が覚める、そんな時が近づいてきたのだろう。

 夢に眠気が襲う。

 そして俺は"この世"からは去った。





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