第10話 三枚のお札

 ドン! ドン!


 扉を乱暴に叩く音が、場の緊張感を一気に高めた。


「ユウタくんがここにいること、勘づいたんだ!」


 恋人ラバーズ(男)が小さく舌打ちした。


「そう言えば、なんで小アルカナ達は俺のこと追いかけるの?」


 ユウタは気づいていた。大アルカナ達が自分のことを匿っていることを。小アルカナ達がユウタのことを、快く思っていないことも。


「あいつらは人見知りなのさ。慣れれば良い隣人なんだ。けど、今はただでさえ愚者フールが不在で、奴らの心も不穏な状態だ。下手に刺激しない方がいい」


 司祭ハイ・エロファントが説明した。


「時間を稼ぐ。俺が威嚇すれば、少しは足止めになるだろう。裏口からこっそり出るんだ」


 死神デスは立ち上がると、ユウタの頭を優しく撫でた。彼は乱暴なノックが続く玄関へと消えていく。


「ユウタくん、これを」


 裏口を開けようとしたユウタに、一枚の紙切れを手渡してきたのは、戦車チャリオッツだった。


「これ、なあに?」

「戦車のおふだだよ」

「お札?」

「ここぞという時に、投げてごらん。僕の力が味方するよ」

「投げるの?」

「そうよ。じゃあ、アタシからも」


 別の一枚を渡してきたのは、ストレングスだった。


「これも投げればいいの?」

「まぁ、どこかに貼るっていうのでもいいけどね。お札だし」

「なんだか、『三枚のおふだ』みたいな展開だなぁ」


 山姥やばんばに襲われて大変だった小僧が主人公の、昔話を思い出した。

そんなユウタに、節制テンペランスが最後の一枚を手渡してきたのだった。


「これで三枚だね。きっとユウタくんの役に立つよ」

「頑張って!」

「頼んだよ!」


 二十人分の声援を背に、ユウタは隠れ家からとびだした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る