第12話 許せない者たち

 僕が闘技場の上でハルさんからの報告を聞いていた時、後方から気配を消してこちらへ向かってくる人たちがいる。<閃光の銀狼>の人たちだ。


 僕は彼らの少し前方に物を投げてみると、僕の合図にすぐに気付いてくれ、僕が隠れている場所まで来てくれた。すごい事に魔法使いのリンダさんは複数の人もいっしょに運べる飛行魔法が使えるようだ。


「リーダー、勝手してすいません」


「そうだな。ワンペナだ」


 そう言うと、僕はオデコにデコピンされてしまった。めちゃ、痛かった。腫れたオデコをさすっている僕にリーダーが問い掛けてきた。


「それで、一体これはどういう事になっているんだ?」


「はい。今、ハルさんが中の偵察に行ってくれています」


 ハルさんを通して聞いた事を一通り説明した。


「そうか、おいそれとはフェンリルを助けに行けない状況ってわけか。それにしても、ハルさんはお前さんのただのペットだと思ってたんだが、有用な従魔だったんだな」


「はい、ハルさんは有能な僕の家族です」


 僕は少し胸を張ってそう答えた。


「そうか、いい相棒ってことだな」


 うんうんと頷いて大切にしてやれよとリーダーは言ってくれた。


「それとだ、ボスとお嬢と言うのはもしかして、アンダーソン行政長官とエレアナの事だろうか?」


 リーダーのハイントマンは困った事になったもんだと考え込んでいる。


 このダンジョンは魔物の狩場なのだ。フェンリルや他の魔物を生け捕りにして何が悪いとなる。フェンリルをダンジョンから出して世界を混乱させたわけではない。退治したのだと言われればそれまでだ。そう言われれば、身も蓋もないのである。


「ところで、<お祭り>とは何の事だろうな?」

「闘技場に魔物ときたら……。もしかして対戦させるって事でしょうか?」


 エレアナのスキル。どう言った手法かは分らないが、相手を服従させる<服従の証>を刻む事が出来るスキル。恐ろしい能力と言えるだろう。精霊たちが蜘蛛の子を散らす勢いで逃げたと言うのも分らないでもない。


「うむ、有り得る。そう言えば……。長官令で視察と称し、定期的にこのダンジョンから冒険者を締め出す事があるな」


 その時に彼らは『お祭り』と称しての何かのイベントを行っているのかもしれない。それにだ、『かなりの大物』とは誰の事だろう?


「ところで、ジーノさんがいないようですが、どうしたんですか?」


「ジーノには大至急アランの旦那に連絡に走ってもらった。奴の足ならすぐに合流してくると思うぞ」


 転移オーブから一階層に向かいギルドに詰めているアランさんへと報告に行ってもらったとの事。

 はぐれた時の為にお互いの位置が確認出来る待ち合わせアプリみたいな魔道具をパーティー全員が所持しているらしいので、すれ違いになる事もないようだ。


 そう言っているうちに報告に行っていたジーノさんが帰ってきたようだ。ジーノさんは他に五人の人たちを引き連れている。その人たちは知り合いのようで、リーダーは軽く手を挙げて挨拶をしていた。


「ところで、アランの旦那はどう言ってた?」


 アランさんは寝ずにギルドに詰めていた。派遣した冒険者からの報告を待っていたようだ。彼は不在のギルマスになんとか連絡を取ったうえで合流するからと、とりあえず先に行って現場にて待機していてくれと言う事だった。


「俺がギルドに行った時に<幻光の火竜げんこうのかりゅう>の方々も居たので彼らに一緒に来てもらいました」


 A級パーティー<幻光の火竜>はこの都市において最強だと言われているパーティーで、リーダー同士が親友の関係なのだそうだ。

 そこで、<幻光の火竜>のメンバーへも今の状況を説明する事にした。

 

 ◇◇◇


 リーダーが皆に今後の事を相談している時にハルさんからの念話が入ってきた。


『アキト! 聞こえてる?』


 ハルさんの声から、いつもより慌てているように感じる。


『どうしたハルさん?』


『おい、大変だぞ。魔物だけじゃなかったんだ……。居るんだよ』


『何がだよ?』


『ああ、聞いて驚くな。人だよ、人! かなりの人数の人たちが捕まってる。年齢や性別、種族もそれぞれだね。やつらは一番奥の牢屋に押し込められているよ』


 捕まっている者たちは犯罪人ではないように見える。彼らは衰弱していて、どう見ても一般の人たちだろうとハルさんは言う。


『何だって!』


 僕は思わず大きな声を出しそうになって自分の口を押さえた。


「アキト、どうしたの?」


 リーダーは<幻光の火竜>の人たちと話し込んでいるので気付かなかったようだが、僕の変化をリンダさんは気付いたようだ。目を見開き、口を押さえて、あわあわしている僕を見たリンダさんが心配して声をかけてくれた。


「はい。ハルさんから連絡が入りました。言うには、閉じ込められているのは魔物だけじゃないらしいです」


 僕はリンダさんの顔を厳しい表情で一直線に見つめた。その僕の顔を見て彼女も何かを察したようだ。


「魔物だけじゃない? それって、もしかして……」


 僕が頷くと、リンダさんは興奮した状態でリーダーに声をかけた。


「リーダー、聞いて! あいつらを捕まえましょう!」


「どうした? お前にしては珍しく熱くなってるな。お前の憤りも解るがそう単純な話じゃないんだ」


「分ってるわ! だけど、許せないの! だって、奴らは魔物だけでなく、『人狩り』もやっている最低のクズなんですもの」

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