第9話 休息
「悪いが、この子をアランの旦那に俺からだと言って預かってもらってくれ。旦那以外は内密でお願いしたい」
リーダーはリンという少女を二階層に居た知り合いの冒険者に託し、ダンジョンから連れ出してもらう事にした。
リンにはアランと言うギルド職員は顔は怖いが、ああ見えて良い人だから安心して相談するように伝えた。それと、今いる孤児院には絶対に帰らないようにとも念を押した。
「お前の弟は俺たちで探してみるから、もう無茶はするなよ」
そう言ったリーダーはリンの頭を撫でて安心させていた。彼女は僕たちに向かって何度も頭を下げながら去って行った。
その後、僕たちは三階層でアイアンゴーレム狩りをしている冒険者たちに声かけ周り、四階層の迷路エリアは毎回上層への階段位置が変わる為、スケルトンやデビル剣士の集団と戦いながら階段を探し回ったりと、かなりの強行スケジュールで五階層まで到達した。
五階層のボスを倒してから六階層に作られた集落の宿屋に宿泊予定だったのだが、ボスであるゴブリンロードと戦う前にさすがに休もうと言う事になった。
冒険者を探して各階層を一人走り回ったジーノさんは相当に大変だっただろう。ダンジョン攻略よりキツイと倒れ込んでしまった。
その上、初ダンジョンである僕がいた事で、かなり足を引っ張ったかもしれない。
皆で協力してテントを設置すると、その周りをジーノさんが見た目ランタンのような装置を置いていく。
「ジーノさん、これはもしかして結界装置ですか?」
「ああ、そうだよ。これは魔物が入って来ないようにする魔道具だね」
この道具があれば交代での見張りから解放されるからゆっくりと休めるとニコニコしている。
これは師匠の家の周りにも設置されていたものだ。師匠にはこの装置は使いかたを間違うと、危険な道具になる。なので使用には充分に気をつけろ。と、言われた事があった。
「この魔道具って、例えばですよ……。逆に魔物を閉じ込める事とかも出来たりするんですか?」
「前は出来たそうだが、それを使って悪用した者がいてな。それで、安全装置がつけられたって言うことだ」
「悪用って、どんな事したんですか?」
「昔、奴隷市が盛んに行われていた暗黒の時代の事、人や魔物を捕らえる道具に使われてたって話だ」
ある時まで、人族やエルフなどの妖精族、亜人、獣人、魔人、それだけでなく、魔物の売買もが盛んに行われていた事があったそうだ。その時にはこの結界具は捕獲道具として利用されていたのだとか。だが、その装置は激しい苦痛を伴うもので、その当時ですら人道に反するとの批判も多く上がっていた。
その後、全ての奴隷制度は禁止され、それに伴い結界具の悪用を防止するために安全装置が取り付けられた。
「だから今では、以前仕様の物は流通していないはずだ」
◇◇◇
テントを張り、結界具を設置した後、焚火を囲んで皆で食事を取り、皆は雑談を始めた。このダンジョンには、外と同じ様な昼夜の時間的経過があり、夜空には星の瞬きまである。
ハルさんは市場の屋台で買った角豚の肉切れをペロリと平らげた後、今は木の実をカリカリしている。
いつも思うのだが、この小さい身体のどこにそんなに入るんだか。
この五階層は古代ローマやギリシャのような街の廃墟が広がっている。遠くに見えるアレは闘技場だろうか? コロッセオのような建造物も見える。月明りに照らされた世界はダンジョンの中とは思えないほどの雄大で幻想的な景色だった。
その風景を見ながら、僕はハルさんへ浄化の魔法をかけていた。ハルさんは気持ち良さそうに僕の膝の上でクシクシしている。
「それにしても胡散臭いわよね。エレアナはギルドへの報告に、荷物持ちに連れて行った子供が逃げたと言ってたんじゃないの?」
リンダさんは口元に手をやって、疑問を口にする。
「三歳の子供に何が荷物持ちだ!」
ジーノさんは、そう吐き捨てる。
「アタシには良くは分んないけど。リンって娘が嘘を言ってる風には見えないからな。それにだ、エレアナって奴は嫌いだ」
アイリさんは、あからさまだ。そんなアイリさんの言動にリーダーは苦笑いしながら溜息をつく。
「例の孤児院の事はアランの旦那に相談した方がいいだろう。残念ながら俺たちが口出し出来る領分じゃないからな」
僕の膝の上でクシクシしていたハルさんから僕に念話が来た。
『なぁ、アキト。フェンリルもあいつの弟もこのダンジョンを出てないんだよな』
『ああ、そうだよね』
フェンリルの子をダンジョンから連れ出していたら、すでにダンジョン都市は大騒動になっているだろう。そうでないとしたら、このダンジョン内のどこかに隠している可能性はある。ただ、弟のエルンがまだ生きているかの保証は出来ないのが辛いところだ。
そこで僕はその可能性を聞いて見る事にした。
「あのー。エレアナって娘がもしダンジョン内で何かを隠すとしたら何処だと思います?」
エレアナはフェンリルの子をこのダンジョンから連れ出していないとしたら。だったらどこかに隠している可能性はある。
「なんでだ? ダンジョン内の隠し場所ってか?」
僕の質問にリーダーは顎をさすりながら考えている。なにせ、ダンジョンは広すぎる。
「エレアナたちがダンジョンから出てきた時、大きな荷物を持っていなかったのであれば、このダンジョンのどこかに隠していると考えられませんか?」
「隠し場所かー? だったら、あまり誰も行かない場所ってことだな? あ、もしかしたら、あそこだったら……」
そう言ってリーダーはとある方向を指差した。それはあの闘技場の方向だった。
「この階のボスがいるのは左手のあの神殿エリアになる。そして右手の壊れかけた遺跡の方には魔物やお宝等が全く出ないんだよ。だからな、今はあちらに行く冒険者はまずいない」
僕は不思議そうに闘技場の方を眺めた。あれだけの施設があるのに、何故それを有効活用しないのだろう? ふと、そう言う疑問が沸き上がった。そこで率直に質問する事にする。
「あんな立派な施設があるのに、なんで皆さんは利用しないのです?」
「立派? 利用? 何ら利益にもならない、壊れかけのただの遺跡じゃないか? 何に利用するんだ?」
え? まさか、あれが闘技場だって事を知らないって事、ないよね。利用できない何か訳とかあるのかもだ。そこで、それとなく聞いてみた。
「あの遺跡って
え?っと言う風に闘技場の方を見つめるリーダー。僕の言葉を聞いていたメンバーの皆もなるほどと言った感じで一斉にそちらに目をやった。
「ねぇ、リーダー。一休みしたら、あそこを探索してみない?」
リンダさんが何気に言った事なのだが、皆は頷いていた。
◇◇◇
僕たちのテントに入って少し眠ろうと横になってからハルさんにこのダンジョンの精霊が何か話してないかと聞いてみた。
ダンジョンは魔素が充満した場所ではあるが、精霊が入れないという場所ではない。もしそうであれば、フェンリルだけでなくエルフも入れないとなるはずだからだ。精霊とはまるで空気のように、この世界のどこにでもいるのだから。
すると……。
『なんか面白い事を言ってるんだよ』
『何を言ってるの?』
『ああ、「もうそろそろじゃない?」とか。「いっぱい居るね」とか。「かわいそう」とか。あんま話に脈絡はないんだけどね』
ハルさんは一階層の臭いが残っていないかと入念な毛づくろいに余念がない。
『なんだよそれ? なぁ、フェンリルの子を連れ去った場所とか見てた精霊はいないかな?』
ハルさんは首を横に振る。
『ここはダンジョンだぜ。魔物や人の動向なんて、あいつらいちいち気にしちゃいないさ。ただ……』
『ただ?』
僕は、ハルさんを撫でながら問い返す。
『精霊の親玉みたいな大きな奴が、すごい勢いでこっちに向かって走って来てるぜ、って言ってるがな』
僕はそれを聞いて思わず飛び上がってしまった。
『ハルさん! それ早く言えって!!』
慌てて僕はリーダーのテントへと飛んで行った。
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