第17話 安寧と転覆の国渡


賑わい冷めぬ酒場の熱に、

食べ物の匂いと酒の香りが付く。



あまり良い匂いとは言えないが、

この世界に来てから、庭園、裁判という名の断頭台、王室と

慣れない環境を点々としたせいか、現代に近いこの店は

何となく心が落ち着いた。


 「本題って何よ・・・

また変な事言わせるんじゃないでしょうねっ!?」


「安心してくれ、スリーサイズとか聞いてもどうせあれだし、

もっと重要な話だ」


「どうせって何。もっと重要って何?

聞かせてごらんなさいよ・・・」


 アリスをなだめたつもりだったが、地雷を踏み抜いたらしい。

目をつぶり、震える拳をそっと机に置いた。


「聞きたいことは大きく二つ。まず俺は現世に帰れるのか。

もう一つはこの世界、リーフリリアの情勢だ」



 よく異世界転生モノを見聞きするが、

現世へ帰れるのと、帰れないとでは、

今後の生活の仕方がまるで違う。

旅行に行くのと引っ越すのでは違うのと同じ道理だ。


 ただ、知っての通り現実はクソゲー。

戻れると言われて、戻る理由は無い。

強いて言えば、

やり残したゲームが死ぬほどあるということくらいだろう。


 死ぬといえばもう一つ、この世界ではゲームで人は死ぬという。

それに加え戦争の兆しがあるときたら、

手放しに「異世界万歳」とはいかないだろう。


 その為にアリスへ誓約の元に命令をしたのだ。


 包み隠さずこの世界について洗いざらい吐いてもらう為に。


 どうするかを決めるのはその後だ。



 「この世界のゲームには拒否権がある。

そこにリーフリリアの盟約の

ゲーム以外で命を失うようなことがない。

があるならほぼ無敵じゃないのか?ピンチ要素ないだろ?」



 「そこで誘拐よ。

ミレディはルルティア姫を国境付近に呼び出し、

自国に誘拐してるのよ。

そうすることでリーフリリア王の命に

王政権を賭けた戦いを強制的に行わせるのよ」



 聞けば過去4回、

姫様はハートレリアに誘拐されているという。


 どこぞのキノコ王国の桃姫様かと思ったが、

どうやらその4回はすべて強引なものではなく、


 「話し合の場を持ちたい」

「相談に乗って欲しい」と言われ、


 一人隣国に侵入してしまうという。

相手国の領土に侵入してしまったら相手国の王政権の効果範囲内に入ることを意味する。


 本来、

キングクラウンによる盟約の力は絶対だが、

キングクラウン同士の衝突時、

その力は相殺される。


 だがクラウンが及ぼす力そのものが消えるわけではなく、領土の力は残り続ける。


 つまりハートレリアの土を踏むということは、

ハートレリアの盟約に足を踏み入れるということ。


処刑が毎日のように行われているという支配国家に、国の王が、その身一つではいるということがどれだけ危険なことであるかは言うまでもない。


 

結果として、その都度アリスは姫を助けるゲームで王政権を賭け、

過去4回勝ち姫様の奪還を成功させているというのだからなんともおかしな話である。



「リーフリリアのルルティア姫はアホの子なのか?」




 「失礼ね。そうじゃないわ・・・

姫様は・・・ただ純粋で優しいのよ。」



 アリスはいつしか肩をおろし、

リラックスしている印象だった。


 先程のマグカップを割らんとする勢いと拳も、

今はそっと淵に添えられている。



 「優しいなんて理由で、

国民と国土賭けられるか普通?」



「姫様にもきっと考えがあるのよ。

実際、今までリーフリリアに犠牲者や、被害者は出ていないし、私も解決方法がわからない」


 

「そんな次の戦いはどうなるか分からない、

綱の上を歩くような国のやり方はだめだろ、

第一国民はそのやり取りを知ってるのかよ」



 アリス達がどれだけ不安定な国の上に立っているかを思うと、

口を挟まずにはいられなかった。


「知らないわ、

言わないでと姫様に言われてるの

この真実を知ってるのはリーファと私だけよ」



「俺が明日姫様に直接言ってやるよ!

もっとちゃんと世の中のこと考えなきゃダメだってさ。」


酒場の陽気な雰囲気に当てられ、勢いよく

言ってしまったが、

王様に一言申すという発言はちょっとかっこいい気がした。


 ついでに豪快に、

少し冷めかけのアップルラテを一気飲み。


口にアップルの酸味が広がる。


 舌を満たす甘さも広がり

そして甘い口どけが鼻を抜ける。


『甘い・・・甘い甘すぎるッ』



 口の中が甘すぎて気持ち悪くなった。



 「よくこんなものを、

涼しい顔で飲んでいられるな」



こちらのリアクションなどお構いなしとでも言わんばかりに、

上品にラテを口にするアリス。


 その容姿、

立ち振る舞いはまるでお嬢様のようだ。


 ただしここは酒場、雰囲気などはない。



 「止めておきなさい・・・

貴方じゃ勝てないわよ」


「いや勝つって、別に喧嘩吹っかけるわけじゃない。話をするだけだ」



 「話をするだけなら私だって、何度もしたわよ。

もう行かない、騙されないでって。

 でも姫様の意志は固い。

どうしても止めるっていうなら・・・」


 

 アリスは、

別の席のトランプに勤しむ漢たちに目線を投げる。



「ゲームで力ずくでってことか・・・」

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