第16話 ツンデレのデレ

「い、いいわ・・・いかなるゲームであったとしても

勝負したのは私。そして負けたのも私。

辱めを受ける覚悟はできたわ!」


 心の中で何か整理がついたのか、

先程までの怯えた美少女は何処へやら、アリスは

口はへの字のまま、まっすぐな目でこちらを睨み、凄んだ。



「流石は英雄様だ!これぞまさに、くっころ展開というわけだな!」



 その上目遣いで睨むような気の強い瞳に加虐心かぎゃくしんがそそられ、

立ち上がり、「ハッハッ」と声高らかに笑ってやろうとも思ったが

これ以上は悪者みたいになってしまうと、自身の理性に訴え自制した。


 相変わらず酒場は騒がしく、こちらが大声を出しても

周りは全く気にする様子はない。



 「もったいぶってないでさっさと言ったらどう?

変態勇者」


 「誰が変態だ!俺はまだ何も言ってないんだが!」


 「男の人が考えていることなんて大概わかるわよ」



 そのままアリスは肩を抱いていた手で両肘を抱き、

嫌悪感を全身で露わにした。



 「ふっ、ならば俺の望みを叶える覚悟も決まったということだな。

ならばもったいぶらずに言おうッ!我が望みッ!それは今後、

【俺に対して本心で話し、嘘偽りの一切を禁ずる!!】ダッ」


 

 言ってやった。

そしてポーズも決まった。

 

 人差し指と中指だけをピシッと揃え相手を差し、

体は斜めに反らせ己の曇りなきまなこでアリスを捉えた。


 俗にいうジョ〇ョ立ちである。


 男なら一度はやってみたいことランキングトップ100に入る、

命令口調と共に、推しのポーズを決めるという


 なんとも痺れ憧れる行為。

それが今、この瞬間に決まったのだ。

嬉しさここの極まれりである。


 

 アリスとは会って間もなくも、彼女の属性は心で理解できる。


 世間一般的で言うとこの【ツンデレ】だ。


そしてツンデレの種類は星の数あれど、決まった共通点がある。


それは


❝基本的に本心を話さないこと❞


それと


❝思ってもないことをつい言ってしまう❞


ことだ。


 この二点はツンデレ特有の魅力とも言えるが

物語や、会話の進行には障害となりうる。


そこでこの命令だ。


本当にゲームの世界が絶対ならば勝敗による縛りで解除出来るはず。


 仮に出来なければ、この世界のゲームによる縛りはその程度の小さなものであり、


可能なのであれば、本心をなんでも話してしまう状態。

通称、❝デレ❞の状態が出来上がる。


 デレてしまえばツンデレなど攻略したも同然であり、

嘘偽りも言えない状態に彼女のなら

今後の話もスムーズに進むだろう。


 問題は何を話すかだが・・・



 「そ、そんなことで良かったの・・・?」



 目をぱちくりとさせ、肩の力が目に見えて抜けていき

緊張を解いていくアリス。



「そんな事とは、ご挨拶だな。まずこのポーズだが・・・

第三部主人公の・・・まあいい」


この世界で好きなキャラの話をしてもどうにもならない。



「アリス、今日の下着の色は何色だ」


「黒だけどそれが・・・んッ!!」



 どうやら本当に、この世界はゲームの力は本当に絶対らしい。

アリスは両手で口を塞ぎ、顔を耳まで真っ赤にした。



 「勝敗でモノの賭け合いのみならず、性格や、内面まで

干渉できるのか・・・」


 にわかには信じられなかったが、アリスの様子を見るに

演技ではなさそうだ。

でなければ会って間もない異性に下着の色など、

躊躇なく答えたり出来ないだろう。



「死ね最低男ッ!」


 考察しようとしたところにアリスの平手が襲ってきた。


当然の報いである。

目を閉じ、その報復と罰を受ける。



だが、視界がまぶたの裏の黒を映すだけで、

期待した衝撃が、頬にはこない、

頬から鼻先にかけて小さく風が抜けていくだけだった。


 罰を覚悟しながらも目を開けると、

アリスの細い腕と小さな拳が眼前で静止してる。


 よく見ると微小に震えており、

目一杯の力が腕に込められているのが分かり、

その腕と怒りの表情から察するには十分だった。



「なるほど、これで分かったことが二つある」


「うっさい!変態ッ!」


「まあ、聞いてくれ、

一つはゲームの結果によって得られた取決めは、個人の意思に関係なく、

厳守される事。

もう一つは、この世界では本当に暴力行為が出来ないという事だ」


「そんなの、この世界の人間なら全員知ってるわよ!」



 アリスは振り切れない拳を机の下に隠し、

顔の色を恥じらいの赤から、怒りの赤へと変え、敵意をむき出しにしていた。



「まあ、色々と試さないと気が済まない性分しょうぶんでな

でも、この一件で分かった。この世界は本当に異世界だ」



本当は殴られでもすれば夢か現実かはっきり分かるのだが、

そうはさせてはくれないゲームのルールが実在した。


ちなみにその後すぐ

「殴っても死なないから殴ってくれ」

と声に出したら

すぐさま拳が飛んできて、後ろの座席まで吹き飛んだ。


結果を見るに声に出し「願望」という形なら暴力に該当しないらしい。





「それで、ツンデレナイト様をデレの状態にしたわけだが・・・」


「何がデレよ、最低、変態、エロ、変質者!」



 よろよろと起き上がる負傷体に精神攻撃が突き刺さる。



「おい待て、色々と追加コンテンツが入ってるぞ」


「あーら、ごめんなさい。ユウマに対して思った事は

口に出ちゃうみたいで」



 床に吐き捨てられた、

ごみを見るような眼差しを向けられる。



「デレどころか、ただの毒舌キャラになってしまっているッ」


「なあにやってるんだか、二人とも。これ以上の喧嘩は店の外でやってよ?」


 ルミクがテーブルをおしぼりで拭いて回りながらこちらの席まで来た。



「お騒がせてすみません。思ったよりツンデレのデレが激しくて」


「後ろでちょいちょい話聞いてたけど、

この世界のこと知りたくて、アリスにあんな命令したの?

それとも、アリスにデレて欲しかったの?」


「両方です!」

「そ、即答ね・・・」


苦笑いをするルミクを他所に 

 腕組みにそっぽを向いているアリスを見ながらはっきりと言った。


 この世界の情勢を嘘偽りなく知りたい。

世界を知ることは自身の置かれた立場や情勢を知ることが出来る。

それが分かればここでの生き方や立ち回りも理解できるからだ。


 加えて、可愛いらしい女の子から親し気に話してもらえれば

男冥利に尽きるというモノであり、

一人の人間としても、解説を楽しくしてもらえればおんの字というものである


だが、そんな崩れかけていた希望にルミクはとどめを刺した。



 「なら。«俺を好きになれ»とかで良かったんじゃない?」



 ≪その一言に、ユウマは雷に打たれたような激震が走った≫



「がッ・・・その手があったか・・・」


 あまりの衝撃に膝から地面に崩れ落ち、

両手を酒場の床に着いた。


「あまりににかなっている・・・」

「かなってないわよ!!ルミクも変なこと言わないで!」


「ごめんごめん」と笑うルミクとアリスの声が右から左に抜けていく。


「感情に干渉できるか試すなら、俺を好いてくれの一言で全て完結する・・・

嫌だと言われれば、ルールの効力はその程度とわかるし

効力通りなら、好きな人に嘘偽りを言うことはない。

何より、ツンデレを攻略するという手順を丸っと省けて、

デレデレのアリスが完成する・・・

どうして気付けなかったんだ。

ちくしょう……!!!ちくしょおおおーーーっ!!!!」



 両拳いっぱいに力を込め、酒場の天井に吠えた。

どうせ賑わってるからと思い切り叫んだが想像より声が出た為、

周りからの視線が刺さったが悔しさが羞恥心を凌駕していた為、

全く気にならなかった。



 「ド畜生が何か言ってるわ・・・

というかよく本人を前に、臆面もなく言えるわね・・・」


 若干引いているようにも見えるアリスの苦笑いは、

それはそれで嫌いじゃない。


 男とは、可愛らしさには勝てぬ因果な生き物なのである。



「よし。十分悔しがったことでスッキリした。じゃ、物語の確信に迫ろうか」

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