第15話 酒場

 「これが私達の世界のバランス。

こうやって互いを国独自の能力と、強制的な力で牽制することで

自国に敵国が侵入されるのは勿論、

決闘ゲーム】に持ち込まれること自体を避けてるのよ」



 アリスの説明口調は、

どこか慣れているようだった。

おそらく過去にも、この世界にきた新参者を何人も案内してるのだろう。


 「それだけ強い力を持った【キングクラウン】なら、

リーフリリアはどうなんだ?

負けず劣らずの牽制力なんだろ?」


 「勿論リーフリリアにもあるわよ。」


【リーフリリア】


 ・死生有命の権利


 所有者、及び所有者の領土に点在する国民は、

ゲーム以外で命が絶たれることはない。






 なんというか。なんだかパッとしない。

いや。はっきり言って弱い。


 他の3大国は皆、圧倒的な牽制力やゲームにおいて絶対的な優勢《アドバンテージ》を武器とした能力ばかりだというのに、


 《ゲーム以外で命を絶たれることはない》


 というのはなんとも保守的で、牽制力も行使力もない。



「何か言いたそうだけど、それで私達の国は守られてきたのよ。

この世界では戦争による殺戮は禁止されてる。

 けれど、事故を装った暗殺や、

毒殺みたいな間接的な殺人は有効かもしれないでしょ?

 そういう言葉のあやみたいな、

揚げ足取で命取りになるのは避けたかったの。

 それにこういう風に明記しておけばこの世界の盟約のⅡ―――」


 「挑まれた者には拒否権があり、

いかなるゲームやレートを開示されても避けることが出来る・・・か、

なるほどな」




 ゲームの盟約【絶対盟約六条アブソリュートアリオンス

を復唱し彼女の意図を汲み取る。


 ゲーム以外で死ぬことは無い為、

殺意を隠蔽するような間接的な殺害も心配はない。


 ゲームそのものを戦争や弾圧に用いようものなら、

❝拒否出来る❞という世界共通のルールを盾に回避が可能。


 つまりこのリーフリリアは、自国にいる限り、

身の安全はどの国よりも強固なものになっているだ。

 だが、先程からアリスとジョーカーで決めた世界のルールのはずなのに、

どこか他人事のような言い方に、何か引っかかる。



 「だから、あのミレディの領土にいながらも私は殺されなかった。

正確には互いの権利が相殺されて、、なんだけど」



「そういうことか。

俺の命はその権利に保障されていない為、

俺の命をゲームの賭け皿に乗せれてしまえば、

«»が適応され、

ミレディは、俺という賭け品を殺せないって算段だったわけだ」



«絶対盟約六条のⅥ»


 ゲーム中なんらかの形で賭けたモノを消失させた場合、

もしくは譲渡出来くなった場合、

の命、もしくは【王政制約権】《ラプソルティズン》の

のいずれかをを無条件で差し出さなくてはならない。



という世界の盟約。


 これによりユウマという人間は、賭けたモノとして扱われ、

その場で危害を受けるような手出しの一切を、アリスは封じたのである。


 

 「でも最近、スペードファルシオンがかなり交戦的で、

ハートレリアによくゲームを挑んでいるのよ。

ミレディはゲームによる決闘を断っているみたいだけど・・・」


「各国でそれぞれ力とそれを抑止する力を持っているなら、

戦争なんて起こらないんじゃないのか?」



 各4国が、対国用に決めた不可侵の能力ちから

中でもハートレリアは、殺生与奪が可能な攻撃的な国。


そんなこの世界の新参者でもすぐ理解できるような危険な

国に対して、

スペードフォルシオンは何故リスク犯してまで挑むのか、

理解が難しい。


 国を豊かにしたいのなら、

お金にモノを言うダイアモンドダイスを狙う方が利益になる。


 領土欲しさなら手始めに最弱国のリーフリリアがねらい目だからだ。



 「私も最初はスペードフォルシオン側が、

ただミレディとゲームをしたいだけなのかもって思ってた。

でもあきらかに動きがおかしい。

 あの傲慢なミレディが戦いを拒み続けるなんて逃げ腰なのも不自然だし 

それにスペードフォルシオンも何故がゲームに直接関係のないはずの、兵力や軍事力も力を入れてきてる。

 また何かしらの方法を見つけて、戦争を起こそうとしてるんだわ。

せっかく戦争のない平和な世界が作られたっていうのに・・・」



 アリスはテーブルの上のマグカップの柄を握りしめた。


 握られたカップの水面は細かく波を打っていた。

手が震えている。

だがそれはマグカップが重く筋肉が悲鳴をあげているわけでないだろう。


 自分の前にも置かれたマグカップを持ち上げた時、その予想は確信に変わった。


 カップの水面は、酒場に灯った蝋のシャンデリアの光を鈍く返すだけだった。


 ルミクが気を回してくれたのだろう。

酒場でせわしく働く彼女に目をやると、彼女もこちらにすぐ気づき、

ウィンクをしてくれた。


『さすがは看板娘だな』


 文無しの自分でも、少しだけ世界に受け入れられたような気がして

少しだけ嬉しくなった。



「それで。事の顛末てんまつをここまで話したわけだけど。

えっと、名前は・・・ユウマと言ったかしら」


「ユウマでいい。俺もアリスで呼ぶ」


「そう。それでユウマ。一つ聞くけど、

ここまで話を聞いて怖くないわけ?」


 「え?」


 アリスはカップのふちをなぞり、顔を上げた。


「顔色も変わらない。慌てるそぶりも、浮足立った様子もない。

・・・リーファにアンタがいた世界の事、少し聞いたけど

平和そうな所でいくさ慣れしてるとも思えない。

それなのに随分と冷静じゃない。恐怖とかないわけ?」


「怖いわ、普通に。ゾッとしてるよ」


 

 即答した。

それに対し、聞いたアリスの方が一瞬ぽかんとした顔をしたが、

すぐにいつもの冷たい表情に戻った。



「あ、あっさり認めるのね。もっと見栄とか意地とか張るのかと思った。

まあでもそれが普通よね」


「あぁ、何も知らずに俺がこの世で最も愛するゲームに巻き込まれ、

死んでいたかもしれないって思うとあまりの恐怖にゾッとして震えが止まらん」


「え?どういう意味?」


「そのままの意味だ。ゲームに殺されるこれはいい。」

「いいの!?」


「だが、ゲームを愛しゲームに愛された男が、

ゲームの世界に来ておきながら、

それを知らずにゲームで殺されるなんて

そんな理不尽、死よりも残酷だと思わないか?」


「ざん・・・こく?」



ピンと来てないアリスは小さな口をぽかんと開けるだけたった。


「おれはアリスやリーファの言う通り、

戦争には縁遠い暮らしをしてたし、人の生き死に関わったことがない。

 でも、その平和と言われる世界の中は、人の顔色を伺い、戦う前から負けたような顔をした連中が、雁首がんくびを揃えて、

生きながら死人のように働く馬鹿げた世界だ。

 だから今は少なくとも感謝してる。退屈な現実世界クソゲーから連れ出してくれたリーファとアリスに」



 思った事をそのまま口に出した。

現実世界を憎んでいるとか、

疎んでいるわけではない。


 ただただ退屈な世界で、

山もなく谷もない人生をゲーム機片手に送っていく人生だと思っていた自分にとって、

ここに来れたことは少なくともマイナスではない。





「連れ出したのはリーファよ、私は関係ないわ」


「ルミクも言ってたけど、

俺の命を助けようとしてくれたのはアリスだろ。

呼んだのはリーファのかもしれないが、

助けてくれたのはアリスだ。

本当にありがとう」



 感謝はうやむやにしない。

正しく相手に謝意は伝えるべき。


 頭を下げると、少し間が開き、頭頂部に声をぶつけれられた。



「いきなり何よッ、しおらしくなっちゃって!」



 頭を上げると、

マグカップを両手で掴み、顔を少し赤らめる金髪美少女。

やはりかわいい。



 「ま、まあいいわ。

私も許可なくユウマの命を賭けの天秤に乗せちゃったわけだし、

これでお相子ってことで」


「本当にお相子でいいのか?」



 ぷいっと横を向くアリスに

言質げんちを取る。



「何よ、別にいいわよ、文無しに御礼なんて期待できないし」

「よし!じゃあ本題に入ろう!」



 彼女の言葉尻をしっかり掴み、その言葉を逃さないように、両手で机を勢いよく押さえつけた。



 「今度は急に何よッ!」


 「いや、仮にも命の恩人に、

恥知らずで不躾ぶしつけな命令は出来ないと思ってた。

だが!お相子と言われれば話は別だ!

先のゲームの報酬。❝勝ったらなんでも一つ言うことを聞く❞だったな」


 「恥!?・・・

不躾って。まさかアンタ・・・」



 何かを察したのか、

 アリスの先程まで赤らめていた顔はさーっと青ざめていく。


 そしてそのまま、

引き攣った表情のままカップをダンッと置くと、

両手で胸元を隠すように、

その場で両脇を抱え込み、震えあがった。



 「アンタ何考えてるのッ!?」


 「叶えてもらうぞ、俺の望み・・・いや、男の欲望をッ」



熱冷めならぬ酒場は夜は始まったばかり。

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