第8話 変身!

「そんなことはない。ちゃんと変身出来ているはずだ。……スキルを失う前の君にね。試してみなよ」


スキルを失う前の自分に変身???


何でもアリかと驚きつつ、いつの間にか流血していた頬を治療してみようと傷口に手を翳せば、忘れていた懐かしい感覚が戻っている事に気が付いた。


「ホントだ!! 使える! スキルがまた使えている!!!」


そう思わず叫ぶように言った後でハッと気が付いた。

どうせならもっと強い『伝説の何とか』に変身させてくれればよかったのでは?!


「残念ながら私よりも格上の相手には姿を変えることは出来ないんだよ。その精神に飲み込まれて発狂してしまうからね」


カルルがそう言って、サラッとトレーユの事を格下扱いした。


「それで?! これでどうやってアリアを取り戻せる?! 『守護』のスキルを使うのか? それとも『治癒』か??」


前のめりになる俺に


「『守護』や『治療』では無理だろうな」


そう言ってカルルは肩を竦めてみた。


「もったいぶらずに教えてくれ! 俺は何をすればいい?!」



そんな俺を見て、カルルに代わりトレーユが口を開いた。


「以前から思っていたが、ハクタカは自身のスキル能力について無知過ぎないか?」


無知??


「ハクタカのスキルの強みは何だと思っている?」


「強み?」


俺の『はずれ』スキルの強み??


「『守護』と『治癒』二つのスキルを使えるってことか??」


カルルが『やっぱり何も分かっていないな』とまた首を横に振りつつ言った。


「キミは以前『守護』と『治癒』の魔法を重ね掛けてあっさり使ってみせただろう? 本来ならば『守護』や『治癒』スキルを持つ者では使う事が出来ない高等魔法、『聖なる光』を」


『聖なる光』?

確かに以前、アリアの為に洞窟の虫を追っ払う為に確かに使ったが……。

あれで思念体が倒せるというのだろうか???


「ポイントはそこ『聖なる光』じゃない。ハクタカのスキルのユニークたる所以のまず一つ目。それは魔法の重ね掛け出来るところだ」


「重ね掛け?」


これまで特に意識してこなかったが、確かに言われてみればそれは可能だ。


でも『聖なる光』がポイントでないなら、それ重ね掛けが何の役に立つと言うのだろう?

ピンとこない俺の表情を見て


「君は本当に察しが悪いなぁ」


カルルが呆れたように言った。


「『守護』と『治癒』の魔法を重ね掛けするだけじゃなくて、場合によっては『守護』と『守護』の魔法を。更に言えば『守護』や『治癒』の魔法を何重にも重ね掛けして強大な効力を持たせる事も、キミなら出来るんじゃないかって言ってるんだ」



同じ魔法を重ね掛け、強大な効果を持たせる??

驚いた。

……そんな使い方、誰も教えて等くれなかったし考えた事もなかった。


でもしかし、もし本当にそれが出来たなら、確かにアリアにスキルを使わせずあれを倒すことも叶うかもしれない。







◇◆◇◆◇


作戦はトレーユが立てた割には超シンプル力押だった。


三度ずつ守護を重ね掛けしたトレーユとカルルが捨て身でアリアに守護を使わせないよう抑え込みにかかり、その隙に俺が子どもの姿をした思念体を屠る。

ただそれだけ。



「気の進まない作戦に無理に乗る必要も、何もハクタカがわざわざ子どもを切る嫌な役を無理に引き受ける必要はないんだぞ??」


トレーユにそう言われて首を横に振った。

今度こそ俺は、辛くとも自分の役割を引き受けるべきだと思っている。


そんな俺の表情を見て、トレーユがため息を付いた。


「以前ハクタカがパーティーを抜けると言った時も、今回の僕の服装の事を言いだした時も思ったんだが……。ハクタカはどうも僕の事を買いかぶり過ぎているようだ。残念ながら僕が下す判断がいつでも正しいという訳ではないんだぞ?」


トレーユのそんな言葉に首を傾げれば


「確かに、ハクタカはトレーユと違って素直でいい子過ぎるな。キミは自分の願いを飲み込む事を、切り替えの良さだと勘違いしている節があるようだけど。もっとキミはキミの直感を信じるべきだと思うよ?」


カルルまでもがそう言って、またやれやれと肩を竦めて見せた。

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