第7話 失敗?
「アリアに何をした?! すぐに戻すんだ!!」
俺の声など届いていないのか、子どもは氷漬けになったアリアに縋り、安心しきったように目を閉じている。
「アリア!!」
アリアを覆う氷を溶かそうと、俺に向かって伸ばされたアリアの細い手に触れようとした時だった。
「やめろ!」
カルルに強く肩を掴まれ引き離された。
「この奇妙な凍り方、おそらくただの氷じゃない。私達のスキルの効果に近いものなのだろう。下手に触れればミイラ取りがミイラになるぞ!」
「じゃあどうすればいいんだよ?!」
八つ当たりのような俺の叫びを聞いて、カルルがトレーユに言った。
「……この顔、トレーユの記憶の中で見た覚えがある。……魔王。そうだろう?」
カルルのその言葉を聞いた瞬間あまりの驚きに、息が止まるかと思った。
魔王?!
どうしたってまたそんなものが?!
バッと振り返り助けを求めるようにトレーユを見れば、トレーユが戸惑いつつ頷く。
「以前対峙した時より随分幼い姿をしているが……おそらく魔王の残滓より派生した思念体のようなものなのだろう」
思念体??
「それで?! それでどうすればアリアを戻せる??!」
カルルが悔し気に分からないと首を横に振る。
それに焦れて怒気を込め、急いてアリアを戻すよう再び思念体に呼びかけるが、やはり反応は無い。
「……また討伐するしか方法は無いのかもしれないな」
決断を下せなかった、覚悟を決められなかった俺に代わり、トレーユがスッと剣を無垢な幼子の姿形をした思念体に向けた。
『今度こそ俺の役割は俺が引き受ける』
そんな大見得を切ったばかりだというのに。
あぁ、やっぱり俺は情けないな。
トレーユを止めるでもなく、トレーユが子どもを切る嫌な光景から目を逸らそうとした、その時だった。
突然ガラスが割れるような音を立てて、アリアを覆っていた氷が砕けた。
そして――
アリアは瞬時に剣を抜くと、思念体をその背に庇いつつ、トレーユの剣を危なげなく受け流した。
トレーユへ打ち込んでいく太刀筋は、一切の加減もブレも無い。
しかし、動き出したアリアはまるで夢を見ているかのように様に半ば目を閉じている。
『思念体に操られているんだ!』
そう気づいて、俺も思念体に向けて剣を構えた。
思念体とは言え人の形をしたものを、しかも子どもの姿をしたものを切るのは初めてだ。
何の覚悟も決まらないまま振りかぶった剣は酷く遅かったのだろう。
俺の動きに気づいたアリアが、スキルでトレーユの剣を弾き返すと、その反動を利用して電光石火、俺に向かい切りかかってきた。
勇者の名は伊達じゃないな。
カルルがトレーユの力を使って守りの術をかけてくれなかったら一巻の終わりだっただろう。
「一度撤退するぞ!」
トレーユの言葉に頷き後ずさる。
三人でこのまま押せばあの思念体を倒す事は可能かもしれない。
しかし、アリアにこれ以上スキルを使わせ、アリアの大切な物や記憶を失くさせるのであれば、それは敗北と同意だ。
「かあさま、行かないで!」
俺達を追ってこようとしたアリアを、思念体が手を引いて墓地の中に留めた。
◇◆◇◆◇
「早くアリアを助けないと! でもどうすればいい?!」
焦る俺にカルルが言った。
「あの思念体を倒せる可能性がある姿に変身させてあげようか?」
そんな事が出来るのか?!
「頼む!!」
迷わずそう答えた俺の答えが気に入ったのか、カルルがニヤッと笑って、シューをトカゲにしたときの様にパチンと指を鳴らした。
傍にあった水たまりに自身の姿を映す。
そして水面に映ったその姿を見た俺は酷く驚いた。
そう、そこに立っていたのは、なんと…………
俺だったのだが???
「カルル?? お前、失敗してるぞ?!」
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