第8話 本物の笑顔が見たくて

「あ~、着いた~」


「夢みたいな時間とも、お別れだね」


 名残なごりしそうな百音ももね茉白ましろ


 ベンツどころではない目立ち方のリムジンで、登校中の生徒達の視線が集中した。

 ドアが開くと、注目を浴びたい百音と茉白が、我先われさきにと降りた。


「王子、ありがと!」


富沢とみざわ君、またね~」


 にぎやかな友人達が降りた後、芽生めいは、いつも通り、裕貴ゆうきにエスコートされた。


「放課後まで、お別れだね、芽生」


(さっきは不覚ふかくにも、2人に対する富沢君の態度にヤキモチいちゃったけど、そんなんじゃ、ダメ! 私の目標は、富沢君を幸せにする事だから! それには、まず、この社交辞令じれいみたいな作り笑顔を何とかしないと! 富沢君のホントの笑顔が見たい! だから、ほらっ、今、言わなきゃ!)


「うん……裕貴君」


 芽生が初めて名前を呼んだ事で、裕貴の表情が一瞬固まった。


「なんか、緊張きんちょうするね! やっぱり、富沢君呼びに戻そう」


「いや、今のがいいな!」


 にぎられた手に、裕貴の握力あくりょくが強くなるのを感じた芽生。


「じゃあ、呼びれるようにするね。裕貴君、裕貴君」


「もう、聞き慣れた」


 くさそうに笑う裕貴を見のがさなかった芽生。


(あっ、笑ってる! よし、この調子で!)


「富、裕貴君が聞き慣れても、私は呼び慣れてない。裕貴君、裕貴君」


「止めないなら、口をふさぐよ」


 裕貴が顔が近付き、口付けしようとした瞬間、芽生は素早く顔をけた。

 キスしそこね、意表いひょうかれたような裕貴に、満足顔の芽生。


(目標を持った私は、今までの私とは違うんだから! もう、裕貴君には振り回されない!)


「芽生、いつもと違う感じだな」


「いつもと違う私って、どう思う、裕貴君?」


「今の芽生も好きだよ」


 期待通りの返答に幸先さいさきが明るく感じた芽生は、満面まんめんみで裕貴を見上げた。


(あっ、また作り笑顔に戻ってる……でも、これからだよね!)



                 完

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

王子がもたらす甘い時間 ゆりえる @yurieru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ