第7話 王子の母

 久しぶりに夜のパート勤務きんむが休みだった母と、一緒に夕食する芽生めい


「ドラマの続き見ないと!」


 ドラマはリアルタイムではず、一週間無料の見のがし配信動画を観る事が多い2人。

 今回のクールで毎週欠かさず観ているのは、『金曜の夜の訪問者』という恋愛ドラマ。

 とはいえ、2人が恋愛ものきなわけではなく、ヒロイン役女優、芦野あしの梨香りかの大ファンで応援していた。


「清純派女優で通っているのに、今回の悪女役も見事ね! 悪役なのに、応援したくなるくらい!」


「さすがは国民的大女優の梨香様……」


 いつもなら、素直に称賛しょうさん出来ていた芽生。


 (本名、道川みちかわ理佳りか富沢とみざわ君のお母さんなんだ……私の彼氏を演じる富沢君に、つくづく遺伝子いでんし感じさせられる)


「梨香様も、こんな有名になるまで沢山の男を渡り歩いてそうね。でも、顔も演技も抜群ばつぐんだから、だまされるの! 男なんて、おろかだから!」


 今までは共感する事の多かった母の言葉が、みょうに胸にさる芽生。


「お母さんは、今まで出会った男の人全員に、そう思っているの?」


「みんな似たりよったり! まあ1人だけ、まともな人もいたけど。結局、別の女を選んだし。もう男に振り回されるのは沢山! 芽生も、男に期待したらダメだよ! 女一人しっかり生きる覚悟でいないと!」


「分かってる……」


(分かってるつもりだけど、どうしても富沢君の事が気になってしまう。家庭運が無いから、あんな風なんだって……まあ、私も母子家庭だし、人の事を言えないけど)


「それはそうと、最近、この辺りで、よくベンツが停まっているって噂を聞いたけど。芽生、知ってる?」


「えっ、ううん! 私の行動時間には見かけない」


 あわてて否定した芽生。


(お母さんに、バレたら大変! 富沢君、お説教せっきょうくらってしまう!)


 芽生は、いつの間にか思考が裕貴ゆうき中心となっている事に気付いた。


(なんか、富沢君の事ばかり考えてしまう! どうしてなのかな? 風太ふうたに告白されて、風太との事を考えてもいいはずなのに……)


 カフェでの出来事が頭をかすめた。


(多分、富沢君が幸せそうじゃないからかも……富沢君には、幸せになって欲しいな! 私が、こうして違う世界を体験させてもらっている分、ホントは私が、そうしてあげられたらいいんだけど……私じゃなくても、誰か、富沢君を幸せにしてあげて欲しい! よ~し、この監視かんし期間中、それを目標としよう!)


 自分の恋うんぬんより、まずは裕貴の幸福を優先させる事に決めた芽生。

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