6.魔剣の願い

 コスモは、完全に勝つ気満々であった。


「さぁ来い!」


 禍々まがまがしいオーラをまといながら、その剣はコスモに斬りかかる。


「自ら封印されに来たか!」


 紫色のクリスタルを魔剣に向けて突き出す。

 このまま封印できれば、それはそれで良いと考えた。


 だが。


「あれ?」


 魔剣の一撃により、紫色のクリスタルは砕け散った。

 アレスが言うには、このクリスタルと魔剣が接触すれば封印は完了する。

 そのはずだったのだが。


「不良品だったのか?」


 原因は分からない。

 だが、こうなれば、コスモにできることは1つだけであった。


「仕方ない。やっぱり破壊するしかないみたいだ!」


 コスモは決めた。

 あの魔剣を破壊すると。


 そして、コスモvs魔剣、いざスタート。


 魔剣が空中に浮かび、まとっている禍々しいオーラを翼のように広げ、再びコスモに斬りかかる。

 コスモはその場から動かず、その魔剣を木の枝で弾き返す。

 【剣聖】の効果で、コスモが手に持っている間、この木の枝が折れることはない。


 魔剣は壁まで吹っ飛ばされたが、すぐに体制を立て直す。

 連続で斬りかかるが、全てコスモが余裕で弾く。


「大したことないね」


 コスモがそう言うと、魔剣も焦りを感じたのか、別な手段を使ってくる。


 魔剣が分身し、コスモをかこう。

 逃げ場はない。

 この分身に実体はあるのだろうか?


 全ての剣が、コスモを串刺くしざしにしようと襲い掛かる。


 どうやら、全部の分身に実体があるようだ。

 刺されたら最後、ひとたまりもないだろう。

 だが、その心配はない。


 コスモは全てを余裕で弾く。

 分身は消滅し、1本のみが残った。

 そして、一瞬の間に間合いを詰め、木の枝で強力な一撃を食らわせる。

 すると、魔剣は地面に転がり、禍々しいオーラもおさまった。


「やっぱり強いわ~、このスキル」


 木の枝ですらこの強さだ。

 コスモは自分自身に驚いた。

 今までのコスモであれば、あり得ないことだからだ。


 (このスキルがあれば私は変われる!)


 そう思えた。


「さてと……これでトドメ!」


 コスモは木の枝を思いきり振り上げる。

 そして、そのままそれを魔剣に叩き付けようとする。


『待ってくれ』


 コスモの脳内に声が響き、思わずその手を止めてしまう。


『待ってくれ』

「え?」


 一体誰……?

 もしや、この剣がコスモに語り掛けているのだろうか。


「な、何? 誰ですか?」

『私だ。今君の目の前にいる……剣だ!!』

「剣!?」


 よく見ると剣がピクピクと動いている。


『壊すのは待ってくれ』

「えっと、本当に魔剣さんですか?」

『ああ! その通りだ!』


 とても礼儀正しい魔剣だ。

 だが、さっきはコスモを殺そうとしていたのだ。

 油断はできない。

 というか、なぜ今になって?


「えぇ……っと、さっき私のこと殺そうとしてませんでした?」

『それは……すまなかった』

「何で襲い掛かって来たんですか?」

『話すと長くなる……簡単に言うと、私はハメられたのだ』

「ハメられた……?」

『そうだ。私は呪われてしまったのだ。それであんなことに……』

「ってことは、さっき私を殺そうとしたのは、あなたの意思ではないんですね?」

『そうだ』


 言っていることは、果たして本当なのだろうか?

 だが、言っていることが本当であるのであれば、壊す気も起きなかった。


「封印していいですか?」


 また紫色のクリスタルを貰ってきて封印しよう。

 壊すよりはいい。


『それは駄目だ。というより、不可能だ』


 封印されたくないから、このようなことを言っているのだろうか?


『私は封印されている間、少しずつだが力を高めてきた。あの程度のものでは封印することはできない』

「えぇ、滅茶苦茶迷惑ですね……」

『すまない。本来であれば力を高め、私にかけられている呪いを解こうとしたのだが、上手くはいかなかった』

「そうですか」


 殺そうとした相手が【剣聖】を持ったコスモで良かった。

 他の人間であれば、死んでしまう可能性も高かった。


「で、これからどうするんですか?」

『単刀直入に言う。君に持っていて貰いたい。君の持つ【剣聖】スキルであれば、私の呪いを一部制御いちぶせいぎょすることができるかもしれない』

「どういうことですか?」

『本来であれば、私を装備した者は、死んでしまう』

「は?」


 アレスの言っていたことと違う。

 斬れなくなる呪いだということだったが……。


 コスモはアレスに伝えられたことを、魔剣に話した。


『ああ、確かに……私の呪いを緩和できれば、そのくらいで済むかもしれないな。例えば、【剣聖】を持つ君であれば、ね』

「つまり、私に呪われてくださいってこと……?」

『そうだと言えばそうだ。違うと言えば違う。私はこれからも少しずつ力を高めていくつもりだ。そうなれば、私に掛かった呪いは解ける。つまり、君に呪いもかからなくなる』

「どのくらいかかりそうですか?」

『分からない』

「正直ですね……」

『まぁな』


 実に正直だ。

 そして、もしも斬れなくなるのが本当だというのならば、これからは殴り倒していくことになるのだろか。


『ぐあああああああああああああ』

「魔剣さん!?」


 魔剣が突然苦しみだした。


『いいか……? このままだと、多くの人が犠牲になる! 頼む! 私を受け入れてくれ!!』


 魔剣は苦しそうな声で、コスモに訴えかけた。

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